第12話 愛輝く星の天使の剣⑤

 男爵級悪魔ブライファルケ、幽閉の理由はホモを鼻で笑った罪だった!


「全裸の件は、別にどうでもいいわ!」


 女王様、断言。


「だって私達は悪魔! 人間のルールなどに縛られません! ちん〇ん丸出しくらい正装のうちよ!!」


 堂々たる宣言である!


「そして男悪魔はホモなので! 皆それを気にしてチラチラ見ちゃうわけよ♪ どぅふ腐っ♪」


「なるほど! では君もぜひ全裸に」


 バシーン! バシーン!

 薔薇のムチが飛ぶ!!


「ふふ、お断りよ。このエロくま♪」


「くっ、なんて防御力! ガードが堅いゼ!」


 だがステファニーはあきらめない。エロ展開が欲しいのだ!

 全裸男の変質者的ゾウさんシーンより、女の子の桃色シーンを増やす!

 でなければ! 視聴者の期待に応えられないッ!!


 気高き使命に燃えるステファニー、熱く! 叫ぶ!!


「うぉぉぉぉッ!! エッチなシーンが見たい者達よ! 僕に力を貸してくれぇぇぇッ!!」


 おお、これは!?

 炎さえ吹き飛ばし、竜巻のように集まる謎の力が! 輝く光がステファニーのボディへと集まっていく!


「こ、この光は!?」


 その眩しさに気圧され、ミルダレーナ後ずさる!


「この力はいったい!? 人の心の光だとでもいうの!?」


「そうさ、これは! 美少女エロスを望む視聴者みんなの! 魂の光だぁぁッ!!」


 勇気! 高潔! 

 サイコフレーム的な輝く何かを纏い、ステファニーは! 悪魔の女王へ!

 そのスカートへと飛びかかる!!


「めくれ! スカートなんてたかが布きれだ!!」


「きゃぁぁぁ!? なにするのよ、この痴漢! ロリコン!?」


 悪魔の女王ミルダレーナ、必死にスカートを抑える!

 だが彼女にも理解してほしい! これは! 視聴率のためなのだ!!


「エロ目的とか誤解だよ! 皆の応援が、百合魔法少女の力! そのためにも協力してほしいんだよ君にも!」


「そ、そんなにパンツが見たいというの!?」


 その通りである! 全裸男のゾウさんゆらゆらばかりでは、バランスが悪いのだ!!


「それと、これも言っておく! 僕はロリコンではありません! 愛の戦士です!!」


「い、いい加減にしろぉぉぉぉぉぉッ!!」


 バシーン! バシーン!

 薔薇のムチが飛ぶ!!


「は、早くりりな達を追いなさいよ! 貴方達の町がピンチなのでしょうが!?」


「お、怒られた! でもせっかくなら靴でぐりぐり踏みつけながら言ってほしいよ!」


 ……無念。尺の都合で女王のパンチラは無しである!!

 だが諸君、嘆くには早い! 我らには! 百合があるではないか!!


「よし、こうなったら! りりなの元へ急ごう! 早く百合キス変身が見たいよ!!」


 もちろん、胸の奥には正義の炎が燃えていることをお忘れなく!

 ぬいぐるみボディのステファニー、背中に小さな光の羽根を生やし、パタパタと飛んでいく!

 新機能!!


「待ちなさい、一つだけ忠告するわ」


 再び幻惑魔法を発動し、人間の幼女の姿に偽装するミルダレーナ。


「奴は、ブライファルケは危険よ。彼はナルシスト! 貴方達の信じる百合なんかで、魅了できるなどと思わないことね。ホモにも興味無いくらいなんだから! 男のくせに!」


 微妙に発言がおかしいが、今はツッコむ暇も無し!

 ステファニーは頷き、悪魔を追ったりりな達の元へ向かう!


 最後に一度だけ振り返り、


「あ、ちなみに言っとくけど。僕は巨乳派だよ! 君のパンツを見ようとしたのは、読者みんなの期待に応えようとしたからだからね!?」


「うわ、今さら説得力無いわよ?」


 ※ ※ ※


「りりな、悪魔が戦闘機から着地したわ!」


「ええ、見えた!」


 悪魔を追い、炎に包まれた狭山市を走っていた私達。

 市の中心、西武線狭山市駅西口の、駅前ロリーター、じゃないやロータリーへ。

 てへ、間違えちゃった♪ 今夜はロリロリなミルちゃんとお風呂入ったりしてたから♪


 そして。近年改修され、わりと近代的な風景の駅前。

 階段を上り、バス停を見下ろす陸橋の上で。ついに私達は悪魔と対峙する。


「ほほう? 俺様を追ってきたということは、貴様が百合魔法少女とやらだな?」


 私の前で、傲然と腕組みする悪魔。


「宇宙で最も美しい俺様の名を知る栄誉、光栄に思え! 我が名は男爵級悪魔ブライファルケ。美と芸術の化身たる、天空の覇者だ!」


 町を包む炎に照らされてなお、赤々と煌めきを主張する豪奢な髪の毛。優れた彫刻のように完成された美しい筋肉。そして、その肢体に巻かれた鎖。


 うん、強烈に印象に残るイケメンだ。


 でも。


「なぜ……全裸なのよッ!?」


 ご、ごめんね。ここまで来て戦意喪失。

 がくっと、私は膝を付く。


 だって、フル〇ンだよ!? もう危険とかそういう次元じゃないよ!!

 存在自体がツッコミ所で! なにからツッコめばいいか分かりません!!


「愚かだな。貴様には、芸術を愛でる心が無いのか?」


 ぎゃー、やめてぇぇ!?

 私の顔の前で、ゾウさんぶらぶらさせないでぇぇーッ!?


「ど、どうしよう! 私、パパ以外の生で見るの初めて♪」


 赤くなりながらも撮影は忘れない早百合。

 わ、私だって初めてだけど。

 嫌でも、ミルちゃんに見せられたガチホモDVDを想起しちゃって、トラウマのふたが開きそうだよ!?


「さあ、よく見ろ! この俺様のカラダを! この裸体こそ、宇宙一美しいモノ! 美という概念の結晶ともいうべき、至高の芸術品なのだぁッ! そら、そらそらそらぁッ!!」


 ……いたいけな女子中学生に、股間のゾウさんを見せつけまくる悪魔ブライファルケ。

 もうやだ。こいつのいない宇宙に行きたい。今すぐ。


「乙女にナニ見せてるんだ貴様ァーッ!?」


「うぉっ!?」


 悪魔へ怒りの体当たりを喰らわすのは、ステファニー!

 ナイスタイミング! さあ変身よ!! そして変質者を成敗!!


「って、なんか羽根が生えてるんだけど?」


 クマのぬいぐるみから、人間体の時の翼をちっちゃくしたみたいのが生えてるし。

 きらきら輝く光の翼って感じで、い、意外と可愛いかも。


「この身体になって、もう数か月だからね。慣れたんで、やっと出せるようになったよ!」


 宙に浮きながらステファニー、翼を広げ、媚びたポーズ!


「どうだい、可愛いだろう!? これで女子のハートをキャッチ! ほぅら、存分に抱き締めていいんだよ! 『可愛いーっ♪』って、ギュっとしていいんだよ!?」


「うん、首をキュっとしたくなるね♪」


 何この無駄なマスコットアピール。イラッとくるし。


「ひ、ひどいよ! パートナーへの愛情が足りないよ!?」


 でもステファニー、めげずに叫ぶ。


「まあでも、僕のコトは愛さなくても百合を愛してくれれば許します! というわけで! いつもの百合キス変身だよ!!」


「オッケー、ステファニー!」


「ほほう、知っているぞ。確かやたらと時間が掛かるとかいう噂のキス変身だな?」


 余裕の態度を崩さない悪魔ブライファルケ。

 そんな油断していられるのも今のうちよ!


 私は早百合を抱き寄せる!


「きゃんっ……♪」


 そして見つめ合う私と早百合。

 パジャマ越しでも伝わる、互いの体温が。胸のときめきと共に、ぐんぐん上昇♪


 お風呂入った後だから、早百合のカラダから立ち昇る石鹸の匂い。

 ふわ、お風呂でのエッチ間違えた洗いっこを思い出しちゃう!

 どくんどくん。

 欲情なんて言われると、乙女として恥ずかしいけど。他に言い表せる言葉も無い、この気持ち。


「りりな……」


「早百合……」


 これは、今日も10分はキスしないとね♪ たっぷり、ねっぷりとね♪

 ゆっくりと、少しずつ近づく互いの唇。


 ああん、もう今すぐむしゃぶりつきたいよ♪

 ケダモノになって二人、ちゅっちゅちゅっちゅ。意識が飛ぶまで唇を吸い合うの♪

 で、でもムードも大切にしたいし。


 このキスまでの数秒、吐息が近づく感触も、たっぷり楽しまないとね。


「……んっ!」


 唇が重なるまで、あと3センチ、2センチ、1センチ……。

 私、今宵も百合狼になっちゃう♪


「って、長いわぁぁぁぁぁぁぁーッ!!」


 わわ、悪魔が殴りかかって来たし!?


「ちょっとぉ!? 邪魔しないでよ!!」


 なんとかかわし、悪魔へ猛抗議するよ!


「そうだそうだ! 百合キスを邪魔するなんて最低だぞ!!」


 ステファニーも叫ぶ!


「百合キス変身こそ! マジカル☆リリィ最大の見せ場なんだよ!? 数ある魔法少女の変身シーンの中でも、最も美しい! 尊極の変身シーンなんだよ!?」


「下らん! 実に下らん!! いいか、この世に美しいモノとは、この俺様だけだ!!」


 私達の抗議もどこ吹く風。悪魔ブライファルケ、高笑いしながら暴言を吐く!


「百合? BL? どれも下らん! 美しい俺様以外の存在は、全て価値無し! 醜い貴様らのキスなど、見たくもないわぁぁッ!!」


「百合キスが……見たくないだと!?」


 信じられない存在を見たように、ステファニーは顔を青ざめさせる。

 いや、ぬいぐるみだから分からないけど。そんな気がしたの。


「ばかな! そんな奴が地上に存在するなんて!?」


「ふははははははは!! 見苦しい変身シーンなど許さん! 後の時間は全て、この美しい俺様の裸体を観賞するのだ人間どもぉぉぉぉッ!!」


 へ、変身を許さない悪魔! これってピンチ!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る