第7話 トキメキ夏祭り! 今宵、一線越えます!?③

 カラン、コロン。

 下駄の音も軽やかに、夜店が並ぶ中を歩く。


「りりな、手を繋ごう?」


「……う、うん」


 照れ照れしながら、私は早百合の手を取った。


 今日は8月初めの土曜日、私達の町、埼玉県狭山市の夏の大イベント、入間川七夕祭りの日。


 毎年8月初めの土日に開かれるこのお祭り、今年は狭山市の市政60周年記念ということもあって、例年以上に大盛り上がり!

 駅から商店街まで、竹や短冊の七夕飾りに、たくさんの夜店でいっぱいです。


「と、ところで、早百合」


「なあに?」


「こ、この格好、すーすーしない?」


 はい、私達は浴衣姿です。


 私の浴衣は、向日葵ひまわりをイメージした黄色にオレンジの、明るいカラー。鏡の前で見た時は我ながら美少女!? とハイテンションだったのだけど。

 隣の早百合と見比べると、少し子供っぽかったかなと反省中。


 その早百合は、涼しげな水色に朝顔の柄が入った浴衣。

 黒髪ロングの早百合にぴったり似合って、まさに清楚な大和撫子♪って感じかな。


 うん、さすがマイ天使。浴衣の早百合は、めちゃくちゃ可愛い。

 彼女と仲良く手を繋ぐ私、さっきから、すれ違う男の人達からの、羨望の視線を感じてます。


 どーよ、羨ましいでしょ♪


 ……と、問題はそこではなく!


「ねぇ、ホントに浴衣だと……下着つけたらダメなの?」


 そう、問題はこれ!


 私も早百合も、浴衣の下は、下着無し!

 ノ、ノーパン、ノーブラです!?


「当たり前だろ! 大事なコトだよ!!」


 私の左腕にしがみつくクマのぬいぐるみ、ステファニー!

 激しく力説!


「浴衣の下は『着けない、穿かない』! これ古来よりの、日本の伝統なり! そこに疑問を抱くなんてガッ〇ムだよ! 同じ日本人として恥ずかしいよ!!」


「いや、あなた人間ですらないし!?」


 ぬいぐるみに和の心を説かれたよ?


「ふふ、でも涼しくていいよね♪」


 早百合もノリノリだし!


「それに、ほら♪」


 早百合、私の腕に密着!

 その破壊力抜群の凶器、バスト92の柔らかマシュマロを浴衣の薄布越しに押し付けてくる!?


「ね? 体温が感じ易いよ?」


 ぷにぷに!

 ぷにぷに!


 反則的な甘々精神攻撃を仕掛けながら、早百合はニコッとエンジェル笑顔を向けてくる!


「ふふ、りりなもドキドキしてる♪」


「……ば、ばか」


 ※ ※ ※


「はい、綿飴わたあめあーん♪」


「あ、あーん?」


 ひとつの綿飴を二人で順番にパクっ。

 間接キスであること言うまでもなし!


「次はリンゴ飴ね。一緒に舐めよっ♪」


「ふぇぇっ!? み、皆見てるよ!?」


 夏祭りの夜、私達のテンションもナチュラルハイですが!?


「ん、はむ、ちゅぱぁっ♪」


「ぺろっ、ふ、んっ、ぴちゃ♪」


 棒に刺さったリンゴ飴を二人で、左右から一緒にぺろぺろ♪

 時々、いいえ何度も、互いの舌が、唇が重なり合うけど。


 これはキスではありません!

 仲良し乙女の友情行為ですから!?


 だから人前でも問題無し!


「うぉぉ、あの子達、ヤバいな……」


 お兄さん達に、


「ねぇ、ママ。何であのお姉ちゃん達、女の子同士でチュウしてるの?」


「み、見ちゃダメ! あなたには早すぎるわ!?」


 子連れの若奥様まで!


 皆、私と早百合のラブラブ、イチャイチャぶりに注目です!?


「りりな、鎖骨にも垂れてるよ? ちゅっ♪」


「やぁっ、そんな胸元まで舐めちゃらめぇ……」


 ご、ごめんなさい!

 公序良俗乱してごめんなさい!

 公衆の面前でイチャイチャしてごめんなさい!?


 でも、仕方無いよね。夏祭りだし!

 いつもより大胆になっちゃうよね!?


「お、おい! あっちも凄いぞ!?」


 おや?

 別の夜店からも悲鳴が?


 人だかりの向こう、私と早百合に負けず熱い夏の一夜を堪能してるのは誰?


「い、いかんぞ、教頭先生ッ。み、皆見てる……」


「ふふ、どうしましたか、校長先生? 私達は、飴を二人で舐めているだけですよ?」


 ……見なかったことにしよう。


 ※ ※ ※


 さ、さて。七夕祭りのメイン、花火大会が始まるまで、あと30分て所かな。


「そろそろ、川原に行こうか?」


 恋人繋ぎ中の早百合に促す。


「ええ、そうね」


 ステファニー残念顔!


「もっと百合ん百合んしても良いんだよ?」


「ふふ、心配ないわステファニーちゃん。川原で、二人花火を見ながら! 愛が燃え上がらないわけ、ないじゃない♪」


「キマシ!? 更なるキマシ展開期待できる!?」


「もっちろん! りりなが狼になっちゃうのも、もうすぐだよ♪」


 ……早百合とステファニー、二人して瞳キラキラ! 私を見つめてきます!


「な、ナニを私に期待してるの?」


 と、短冊を幾つも吊るした竹飾りの前を通り掛かった時だった。


「あん、届かないー!」


 短冊を吊るしたいけど、身長が足りないみたい?

 竹の枝に向かって、ぴょんぴょん跳び跳ねる、ちっちゃな女の子。


 外人さんなのかな、月を浴びて輝く銀髪が印象的な……漆黒の浴衣の女の子。


 その手の短冊に書かれた願い事は……。


『世界中の男が、ホモになりますように』


 なにこの幼女怖い!?

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