第7話 トキメキ夏祭り! 今宵、一線越えます!?④

「ほら、貸してみて?」


 短冊の文章はひとまず置いといて、私は、この子に声を掛ける。

 短冊を受け取り、彼女の代わりに竹に結んであげたのだ。


「ね、これでいいかな?」


 ウインクしてみせちゃったり。


 すると、その銀髪の女の子は。


「……」


 なぜか、驚いた顔で目をパチクリ。


(あれ、私の顔に何か付いてる?)


 なんて思った次の瞬間!


「ありがとう、お姉ちゃん♪」


 天使降臨!?

 にぱっと笑う、この子の美少女オーラ、眩し過ぎだし!


 てか、今!

 天使の羽根が見えたよね! ね!?


 ふわふわの銀髪は天の川の光を浴びて、夜空の星が零れたように煌めいてみせる。

 ルビーのように赤い瞳は、吸い込まれてしまいそう。

 色白の肌に、ぷっくり柔らかそうな唇。


 断言します。

 この方は天使です!

 スーパー美幼女ロリ天使様が、地上に降臨あそばされたのです!


「好きです! 結婚して下さい!?」


「お、落ち着いて、りりな!?」


 はっ!

 思わず手を握ってプロポーズしてた!?


「あ、危なかった! そうだよね、まだ結婚ダメだよね! YesロリータNoタッチ! 幼女は皆で見守り愛でるものです!」


 この作品は、児童ポルノを助長するモノではありません!?


「りりな、君だって14歳、世間的にはロリだからね? とくに胸とか!」


 黙れステファニー!

 左腕にしがみつくこ奴をチョップで制裁!


「へぶし!?」


「……ねぇ、お姉ちゃん。そのぬいぐるみ、今、声を出さなかった?」


「あ、あはは。そういうオモチャなのよ!」


 危ない危ない。


(ひ、ひどいよ、りりな……)


 念波で抗議してくるステファニー、とりあえず無視!


「そ、それより、あの短冊! あのお願い事!!」


 早百合が食い付いてきた!

 瞳キラキラは良いけど、鼻息荒いのは乙女としてどうよ?


「す、素晴らしいお願い事だね! 叶うといいね!?」


 あぁ、出来れば忘れたかった……。


 そう、この天使のような、否! 天使そのものであられる美幼女が短冊に書いたのは。


『世界中の男が、ホモになりますように』


 き、危険!

 ピンクの短冊に蛍光ペンで、やたら可愛い文字で書いてあるのが、余計に禍々しい!


 私は、恐る恐る聞いてみる。


「……ホモ、好きなの?」


「うんっ、ホモ大好き♪ 世界中の男の人に、ホモになって欲しいの♪」


 プ、プリティー笑顔!

 神様がつい、「よーし、お願い事叶えてあげちゃうぞ!」ってなりそうな位の、無垢な笑顔だよ!?


「ぶぼふぁ!?」


 百合魔法少女として、私は体内にダメージ!


 こ、これは、百合魔法少女としての試練?


 たとえ美少女でも、ここまでホモ大好きな子を愛せるか否か! 百合魂が試されている!?


(い、いや、どう考えても危険だよ、この子は!?)


 ステファニー、念波で警告。


(彼女を見てて、さ、さっきから震えが止まらないんだ! このプレッシャー、このホモ好きっぷり……!)


 ええ、実は私も、その可能性は考えていた。


(悪魔。それも、とびきりの高位悪魔!)


 女性の悪魔に遭遇したことは、まだ無いけれど。

 私の周りに現れるホモ好きなんて、他には考えられない!?


 しかし。


「ねぇ、お姉ちゃん」


 つい怖い目になった私に、怯えたのか。


「……ホモを好きじゃ、ダメなの?」


 きゃるるん♪と瞳を潤ませて!

 銀髪の女の子は上目遣いで見上げてきます!


 この破壊力!

 国連で禁止条約締結しないと、人類が萌え滅ぶのではないでしょうか!?


「……結論、この子は天使」


 ぽーい!

 ステファニーを川原に全力投球、投げ捨てます!


「ひ、ひどいよー!!」


「あのクマさん、また喋らなかった?」


 気にしないで!

 そんなコトより!


「全っ然! ダメじゃないよ! あなたレベルで可愛ければ、もう何やっても存在がOKだよ! ありがとう! 産まれてきてくれてありがとう!!」


 銀髪の女の子の反則的な可愛さに、発言がおかしくなってる私ですが!


 別ベクトルの異常さで早百合も同意!


「ホモを嫌いな女子なんていないよ! 大丈夫、あなたは正義! むしろ男の子×男の子を愛でるのは、レディのたしなみです!?」


「ふふ、ありがと、お姉ちゃん達♪ ちゅっ♪」


 ああっ、天使様からの祝福!?

 銀髪の女の子は背伸びしてきて、わ、私のほっぺにキスを!?


「わ、私のりりなに何をー!?」


 絶叫早百合、負けじと!


「私だって! ちゅっ♪」


「あら、じゃあ私ももう一回♪ ちゅっ♪」


「ふぇぇっ!? ちょ、ちょっとぉ!?」


 早百合と銀髪の女の子、天下無双の美少女二人から、キスのサンドイッチですよ!?

 私の顔は赤くなりすぎて活火山!!


 と、


「……ふふ」


 いつの間にか唇を、私の胸元まで下げていた女の子は。


 がぶっ。

 浴衣のはだけた場所、私の左鎖骨辺りに、可愛い八重歯を突き立てた。


「痛っ……!?」


 ち、血が出たかと思った!


 な、何!? この子大胆! もしかして、もっと激しいキスが良いとか!?


 ……私が、彼女に真意を確かめようとした時だった。


「校長先生、もっと人の少ない川原で、花火を見ながら……!」


「い、いかんよ教頭先生。まだ、そんな関係、早すぎる……」


 まだ続いてたの!?

 恋人繋ぎの校長先生と教頭先生、夜店の方から歩いてくる!


「あら、ナイスホモ♪ 観察しちゃおっと!」


 何事も無かったかのように、銀髪の女の子は、ぴょんと飛び退いて。


「ふふ腐、用事が出来たみたい♪ それじゃ、私は行くね。短冊吊るしてくれて、ありがと♪」


 彼女は、夜店の方へ、駆け去ろうとする。


「ま、待って! まだ、あなたの名前、聞いてない……!」


 なぜ、名前を知りたいと思ったのだろう。

 それは、彼女がすっごく可愛かったからではなくて。


 ……予感がした。

 私達は、きっとまた巡り会う。互いが望む、望まないに関わらず。


 彼女は足を止め、笑顔で振り返った。


「ミルダレーナ。ミルでいいよ、りりなお姉ちゃん」


 星と月の明かりを浴びた、その無邪気な笑顔を。

 一瞬だけ、一瞬だけど、怖いと。

 獰猛どうもうな肉食獣のように、凶暴なまでに妖艶に感じた。


 でも、次の瞬間には彼女……ミルちゃんは年相応の爛漫らんまんな笑顔に戻って、


「じゃあね! まったねー♪」


 片腕をぶんぶん振りながら、去っていった。


「……なんか、強烈な子だったね?」


「う、うん……」


 早百合に相槌あいづちを打つ私。

 別れ際、胸元に付けられた歯形をさすりながら。


「あれ? 私……あの子に、名乗ったかな」


 ※ ※ ※


「ふふ、りりなお姉ちゃん、いえ、マジカル☆リリィ」


 唇をそっと撫で、彼女は。

 悪魔の女王は。


「素敵なのろいをプレゼントしたから。もっと、私をたのしませてね♪」

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