第3話 ああ無情。百合魔法少女、哀しき宿命!③

 夏休み前の学校。

 プール隣接の女子更衣室にて。


私、宮野りりな……14歳の女子中学生は。


「生着替え、ハァハァ……♪」


 ご、ごめんなさい! お父さん、お母さん、ごめんなさい!?


 りりなは、百合娘になってしまったようです!?


「あーっ、あなた、また胸大きくなったでしょ! えい、揉んでやる!」


「やだ、くすぐったいってば!」


 皆して、何いちゃついてるの!?

 いや、昨日まで私もやってたけど!


「皆、えっち過ぎ! 可愛過ぎ! む、胸のドキドキが止まらないよ!?」


 クラスメートの皆、女子だけだからってじらいが無さ過ぎ!?

 平気で全裸になってる子もいるし!


「あれ、りりなってば、熱でもあるの?何だか顔が赤いし、息も荒いよ?」


 クラスメートが私の異変に気付く!


「ふぇっ!? き、気のせいだよ!」


 言える訳ないし! 皆の着替えに興奮してたとかね!!


「大丈夫? 水泳の授業、休んだ方が良いんじゃない?」


「ほんとだ、顔真っ赤だよ! 保健室行く!?」


 た、助けて早百合!?


「ち、近寄らないでぇ! フェロモンが、フェロモンがぁ!?」


 唯一事情を知る早百合が止めに入る間もなく。


 私は、皆の柔肌に囲まれて、どぴゅっと鼻血を噴いて倒れたのでした。



 ※ ※ ※



「……はぁ。私、何やってるんだろ」


 プールサイドで、ため息一つ。

 結局、水泳の授業は見学に。一応、水着は着たけどね?


「体育、好きなんだけどなぁ……」


 これでも私、わりとスポーツ少女。

 妙な煩悩は、身体を動かしてすっきりさせたい。


 ……まぁ、期末試験も終わってるし、今日の授業自体、遊びみたいなものだけどね。


 とにかく!

 今のままはマズイ!


「皆の水着が、正視できない!? きゅんきゅんしちゃって見られないよ!?」


 男子か! 私は男子なのか!?


 プールで戯れる乙女達! 濡れるスクール水着、爽やかな汗!


 ……特に早百合は危険。危険過ぎるから!?


「はぁ、はぁ、凄いよ早百合。おっぱいが暴れ回ってる!?」


 両親へ。私は、もうダメみたいです。


「あれ、そう言えば……」


 ふと、私の心に、ある疑問が浮かぶ。


 それは。


(早百合の方が、百合魔法少女に向いてない?)


 前から、その、何だ。そっちの気があったみたいだし。

 それに美人だし、ノリも良いし。

 ……巨乳だし。

 アイツの、ステファニーの好みには、ぴったりに思えるけど。


(……何で、私が百合魔法少女に選ばれたんだろう)


(その答えは! 僕が教えてあげるよ!!)


 脳内に響くステファニーの声!


「人の心を読むなぁぁーっ!?」


(し、仕方ないよ! テレパシーだよ!? 僕らはパートナーなんだから。心の声が聴こえちゃうんだよ!?)


 え!?

 じゃあ、皆の着替えとか、水着とか見て、私がえっちなこと考えてたのも!?


(もちろん、筒抜けさ! いや、僕は嬉しいよ、りりな! 君が順調に百合に目覚めてくれて!!)


「し、死なせてぇ!?」


 まあまあ、と、ぬいぐるみになだめられる私。


(それより、君を百合魔法少女に選んだ理由、だろ!)


 ちなみにステファニーは今、教室の私のかばんの中にいます。


(早百合は良い子だけど、百合魔法少女の適正は君の方が上なんだよ!)


 何で!?

 私、ノーマルだったんだよ!?


(……と言うより、早百合が魔法少女に向いてないと言うべきだね。なぜなら)


 ステファニーは、シリアスな声で。


(早百合は、エロ過ぎるんだよ!!)


「……は?」


 もっぺん言ってくれる?


(早百合だと、エロ過ぎちゃうんだよ! あの爆乳! わがままボディ! あれで全裸変身なんてされたら、放送出来ないよ!? R18指定になっちゃうよ!?)


 ちょぉっと待った!


「つまり何か? 私が選ばれた理由って!?」


 認めたくないけど!

 認めたくないけどッ!!


(全裸変身は魔法少女の掟! その為にも、りりな! 君のサイズが! 君の貧乳が適正だったんだーッ!!)


「わ、悪かったわね、貧乳でぇぇー!?」


 ああ、魂の叫び!

 貧乳って言うな! スレンダーと言えぇぇー!?


「り、りりな!? 何を一人で騒いでるの!?」


 プールから上がって、やって来るおっぱい。間違えた、やって来る早百合。


「……うん、認める。あれは、エロいよね。あれは、全裸マズイよね」


 敗北を、認めよう。

 水着が弾け飛びそうなまでに揺れるおっぱいへ、私は白旗を掲げる代わりに。


 ……再び天高く、どぴゅるぅっと鼻血を噴き出し、気絶したのでした。

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