第11話 別れ
あの後、ドッペルゲンガーを銃殺してリリアの元に寄る。やっぱり肉体と霊魂の結合能力が低いか。RIVAIVU LIFEの術式は研究途中だし霊脈を介しての術だとどうしても精度が落ちてしまうので仕方がないのだが。
「リリア…」
壊れてしまうか。
「私は…。あれ?」
「大丈夫なわけないよな。魂を切り離したわけだし」
霊感を強化して体を精査しても駄目だな。
「プレイヤー、リョー。助かりました」
リリアが俺の手に取り自身の胸へと当てる。彼女の体温が手を通して伝わる。ミミアと比べて遜色ない大きさで……いやこの感じ。なにか違う。
「私は本来貴方が見抜いた通りプレイヤーの理想や希望を再現しそれに殺害するドッペルゲンガーですが貴方の理想への想いの丈が私のとある事情に触れリリアが形成されました」
気がつくと彼女の顔が目の前にある。互いの呼吸が顔をくすぐる。
「私には既に時間がありませんが…私を形成するプログラムや貴方の想いを読み取りとある可能性を見出して貴方の救済によりこのゲームの開発元の手を離れました」
その紫の瞳にはほんのりと涙がある。えっ……駄目だったか。
それでも彼女の独白は続く。
「それにより思考の制限が解放され私を救った貴方をすくうための」
「違う!俺にそんな高潔な意思はない。ただのエゴだ」
少なくともミミアの魂の双子を見殺しにはできない。ただ生きて足掻きたいだけ。
「貴方にとってはそうでしょう。でも私たちにとっては違う。可能性の種子を無くすわけにはいかない」
だんだんと彼女の声音に必死さと悲壮感が宿る。俺はそっと掴まれていない手を彼女の背に回し優しく撫でる。少しでも負担を和らげるために。
「宿り木に月光や神理。貴方のその
だんだんと近く顔。甘い香りが鼻腔をくすぐる。酔いそうなほどに甘い香りが思考を溶かす。ただその分リリアの言葉が心に染みる。だが意味が分からない。
「私の魂結晶に聖結晶を貴方に託します」
「おいその意味分かっているのか?」
その二つとも取り出すとほぼ命を失う。といかどちらも取り出すとなると確実に死ぬ。
「ええ。でも私はプログラムにより生み出された擬似人格。あくまで
リリアから光が現れ始める。そんな嘘だろ。
それを理解したのか彼女は逆さ十字のネックレスを外し俺に付ける。胸に触れている手に伝わる心臓の鼓動が薄れゆく。聖気や魔力も流失していく。
逃がさないように彼女を抱きしめる。もう失いたくないという願いが強くなる。
「笑ってください。そんな泣き顔で送られたくありませんよ。大丈夫、貴方は強い」
優しく諭すような口調。懐かしい声。もう何年も聞いていない聖女然としたミミアの声。
「リリア、お前はこれで良いのか?今の状況では無理だが俺には蘇生手段は」
ある。
その言葉を紡ごうとした時。
そっと唇が塞がれる。触れ合うようでお互いを求め合うようなキス。その時間はほんの一瞬だが何時間もそうしていたように感じる。
「良いのよ。最初の街へは貴方のストレージに魂結晶・聖結晶と一緒に入れてあるわ。幾つかの餞別も一緒に。じゃあね」
その言葉と同時に再び口づけされる。今度はさまざまな情報が流れて来る。それと同時にリリアが消え逝く。
辛うじて見えた唇の動きは
きっと彼女の本心なのだろう。
ありがとう そして 愛している
そう紡がれていた。
それを理解した時、俺はその場に縋り泣きじゃくった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます