第6話万無の境界

「ところで君の名前は?」

 ふと気になって尋ねた。最愛の人に似ている彼女をどう呼べば良いのか迷ったからだ。おいとか君とかで呼びたくないというものあるが。

「リリアと申します」

「リリアか」

 ミミアの生まれてこなかった双子の妹の名前がそうだと聞いている。ミミアの巨大な力のために魂ごと吸い取られてしまったのだ。二人分の魂だから凄い強力でかなり役に立った。

「どうしてそのような事を?」

「ちょっとな、事故で亡くした恋人に似ていたんだよ」

 嘘ではないが事実でもない事を言い話を反らす。



「では気を取り直して召喚」

 すると案山子は消えて別の召喚陣が現れる。大きさから言えば小動物。だが召喚陣の光は絶大。俺のスキルの一つの迷宮主の能力ランダム配下召喚と似ている。だが俺はそれを使ったのを誰かに見せたことはないしこのレベルの光を発した事はない。

 それこそ鷹の目スキルの視力強化による光のダメージを喰らうほどに。LPが1割5部も削られた。まさか戦闘行為をせずにダメージを受けるとは不覚。


 視力が回復し始めるとそれに伴うように光が納まる。夢幻に近い光は神話級の魔獣だろう。魔物ではなく魔獣。詳しい定義は知らないが知性や知能を持っていたり魔物にはある魔石がなくかわりに魔核があったりする獣だ。そして現れたのは体長約70cmほどの白い兎。ただし真紅の瞳と額に漆黒の一角をはやしている。その名は、


「「ヴォーパルバニー!!」」

 


 完全武装の円卓の騎士を一撃で屠った怪物。確かに神話級だ。って危ない。ヴォーパルバニーがリリアに向かって突撃する。寸座に最大速度まで加速して彼女を抱き抱えて魔法銃を取り出す。真上に跳ねて3連射。それを躱して俺よりも高く跳んだヴァーパルバニーの腹を踏み台にして地面に戻り素早く銃を仕舞い剣を取り出す。バックステップで素早く距離をとり左腕で剣を構える。

「聖剣もなし神器もなしチートなステータスもない。おまけに使えるのは回復魔法オンリー。銃が実弾と魔力がいちずつに剣が一振り」

 あれ勝てるのか?研究途中の拾式魂装はMPを毎秒消費するがかなり強力だがそのMPが足りないだろう。それに俺もヴォーパルバニーも同じ回避型。しかも向こうは一撃必殺の威力を持つ攻撃がある可能性がある。なら繰り出すは最速の一撃。

「伊賀崎流抜刀術」

 ヴァーパルバニーが突撃してくるのを風で捉える。振るうは最恐のアサシンの刃。

「颶風翔刃」

 下から振り上げるその一撃は空気中の真空という名の鞘から抜き続けるというのが颶風翔刃という抜刀術だ。

 この攻撃によりほぼの敵はダメージを与えられるが鷹の目で捉えたバニーのLPは5部程度しか削れていない。それに気づき剣を鞘に収めて銃を取り出し3連射。撃鉄を叩きリロードを促す。全くの謎機構だが今は便利だ。上から下に落ちてくるバニーに合わせ引き金を5回引く。全弾命中してようやく一割を削り取る。すると角に魔力が集まりだす。おい。魔法かスキルがあるのかよせめて万無の境界 魔零が使えれば…と思った瞬間MPが4割も一瞬で消える。そして俺を中心とした結界が球体状の結界が構築される。その瞬間、バニーの魔力は霧散する。


 まさか万無の境界が発動した?

 アレと万物模倣に万物視は俺自身の魂に根付く異能だ。でも才能のリソースごと拡張するのが俺の特長なのだが。ほぼ一切の能力を感じ取れない。あるのはほんのお遊び程度の剣や銃と調合に回復魔法のスキル。一応魔術調合はできる気がするので精神破滅の魔弾は撃てるだろうけど。またバニーが突進してくる。がもう。模倣剣技

伍星鏖殺公フィフスターブレィデア

 一瞬で五角の星を斬撃で描きその上から剣の面で殴る。さらに剣を銃に変えて模倣銃技

死界理全滅フォースデス

 四連続で銃を放ちそこに万無の境界の起点とする。

 絶技遠距離瞬間結界。そして

「《貫け・雷槍》」

 この世界には存在し得ない魔術を放つ。速度重視の雷の槍が射出される。普段なら避けれるであろう一撃だがバニーは重力百倍という万無の境界を受け動けない。そのまま雷槍はバニーを貫き光の粒子となって消える。ふぅ〜。終わった。

「あのぉ〜降ろしてくれませんか?」

 と耳元で可愛い声がした。リリアだ。そう言えば1番最初に抱えてからずっとそのままだったな。ミミアで慣れ過ぎたせいか違和感が全く無かったんだよね。

「ゴメン」

 ヤバい。さっきまでは気づかなかったけどいろんなところが当たっていたんだな。リリアも耳まで赤くなっているし。

「いえ、助けてくださりありがとうございました」

 そっと降ろすと視線を外されながら体をモジモジしながらそう言われた。ここら辺はミミアと違うな。あいつわりと堂々としているし。うん?

「逆さ十字?」

 ふと大きさゆえに視線が惹かれた胸元には逆さ十字のペンダントがある。色は黒。ひょっとしてこの娘は———

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