いざ、出かけよう

「やっほー三浦く……ん?」

「父さんこの猫どうしたの?」


 本城さんがやって来た後、教室期待のホープである宰子ちゃん達も来る。

 新顔に次ぐ新しい顔ぶれの来訪に、子猫の興味も絶えないようだ。


「その子はトオルさんが拾ってきた、里親になってくれそうな人を探してるんだ」

「ほおお」

 若子ちゃんはため息を吐くような感嘆を残し。


「……」

 一方の宰子ちゃんは慣れた様子で子猫の顎を人差し指で掻いてあやしている。


「父さん、この子の名前は?」

「名前はまだない」

「三浦くんは夏目漱石二世を目指しているんだな、さてと」


 さりげなく上手い突っ込みを入れた若子ちゃんはPCを起ち上げる。

 最近の彼女は無料で出来るオンラインゲームに嵌っているようで。


 オンライン上で自分の年齢を暴露して、相手の反応を楽しんでいるらしい。

 そのことを初めて聞き、危ないと思った俺はネットの危険性を彼女に教え込んだ。


「大丈夫だって」

「君はちっとも分かってない、本当に危険な行為なんだよ」

「三浦くんは私の父親のつもりか!?」

「逆ギレは止してくれないか」


 人間関係を持つというのは、面倒事を持つのと同義であり。


 相手に対し、面倒以外の感情を覚えないようならさっさと距離を置いた方がいい。俺も昔は両親のことを面倒に思ってて……そう言えば、まだ両親の墓に手を合わせてないな。


 今度、トオルさんが手隙になった時、車出して墓参りしに行くとしよう。


 そんな折だった――渡邊先輩から連絡が入ったのは。


『おう三浦、先日は家の宰子が世話になったな』

「えぇまぁ、あれは俺にとっても必要な経験でしたから」


 それで、改まって電話してくれた用件はなんだろうか?


『宰子や若子の師匠であるお前にちょっと頼みがあるんだよ』

「俺にできることであれば引き受けますよ」


 なんたって先輩在ってこその今の生活だ。

 先輩には感謝や遠慮、さまざまな感情を覚えている。

 そんな恩人の依頼を一言で断るような思想は持ってなかった。


『宰子たちを連れて、旅行に行ってきてくれ。場所はお前が選んでいい』

「……先輩」

『んだよ』

「一体、何が狙いですか」

『そんなの決まってるだろ、情操教育の一環だよ情操教育』


 俺よりも感情豊かなお前にだからこそ頼んでるんだよ、頭下げてよ。

 先輩が頭を下げている様子は一切ないが、どうしようかな。


「先輩、言ってませんでしたけど、実は最近猫を飼い始めたんです」

『知ってるよ、宰子たちから聞いてる。猫は海に任せておけばいいだろ?』

「ウミンにですか?」


 なんにしろ、これは俺にとっても嬉しいお話かも知れない。

 調べた所、両親の墓は風情にとんだ田舎の方にあるようだし。


「じゃあ先輩、ついでに俺の両親の墓参りしに行ってもいいですか?」

『おう、いかにもお前らしい指定先だな。それで頼むわ』


 と言うことで、今夏の俺達は田舎へと遠出することになった。

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