身代わり地蔵
「僕が責任をもって面倒見ます!!」
「……いや、俺も出来る限り面倒みますよ」
「いえ、三浦先生は瀕死の重体ですしおすし」
おい鬼畜、誰が瀕死の重体だ。
五体満足ではないが、覚えておけよ――ミャー。
足元では朝帰りのトオルさんが連れ帰った子猫が鳴いている。説明は不要だろうが説明すると、昨日朝帰りを宣言していたトオルさんは給料を一晩で使い切ってしまったらしく、気付いたらこの子猫と一緒に寝ていたようだ。
トオルさんの家系は元々猫好きを謳っているみたいだし、一旦連れ帰ることには概ね賛成だ。
「お早う御座います師匠」
「お早う鳴門くん、実は今日からここで猫を飼うことになったんだ」
動物アレルギーとか持ってないよね?
確認すると鳴門くんは臭いを嗅ぎに近づいてきた子猫を両手で鷲掴みにする。
「……こいつの名前は何て言うんですか」
「まだ決めてない、良い名前を思いついたら言ってくれると助かる」
「なるほど、了解です。名前考えておきます」
と言い、子猫をぎこちない仕草で下に降ろした。
今日は日曜日だし、鳴門くんの次は本城さんがやって来ることだろう。
「所で師匠は何をなさっているんです?」
「俺か? 俺は……久しぶりに執筆してみたくなって」
君達のように熱心で腐心な弟子を見ていたら、新作を書きたくなった。
「……その言葉を、俺はずっと待っていたのかも知れません」
「鳴門くんの期待に応えるよう頑張るよ」
「三浦先生、それはいいですが、書いた新作はどの出版社から出すご予定で?」
トオルさんの問い掛けに、苦い思いをもたげる。
認めている新作は当然のように出版される当たりなどついてない。
「何なら僕の古い知り合いにあたってみましょうか?」
「それは、とりあえず十万字書ききったらでお願いします」
左手しか自由に動かせない生活への弊害は昨日も推し量れた。本城さんが置いて行った文庫版の俺カルチャーを読もうとした際に、左手だけではすらすらと読めないのだ。
それに小説を認めるのは約九年ぶりになる。
今のマーケットはどんな感じで、何が流行りなのか知る必要があるだろう。
「ご無理なさらないでくださいよ? 三浦先生の命は先生だけのものじゃないんですから」
「って言うと?」
「決まってるじゃないですか、三浦先生は僕や鳴門くんの身代わり地蔵ですよ」
身代わり地蔵ねぇ……ふむ、なるほど。
わからん。
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