愛のカルチャー その2

 サイン会のトークは思いのほか弾む。


 トオルさんやウミンがいつもの調子で会話してくれたからだ。


 俺は二人から話を振られ、問いかけに答えるだけだから、楽だった。


「そう言えば、お二人は今年の二月十四日はどう過ごされるのでしょうか?」

「特に決めてません」

 と、ウミンはやや慇懃無礼な声色で返す。


「では、先ほど千年千歳先生を俺の女だと主張した無能才人先生は、今までにバレンタインデーのチョコを年にどのくらい頂いていたものですか?」


「……バレンタインデーは例年、母親から」

「素晴らしい、バレンタインデーは毎年決まってお母様から頂いていたのですね」


 どうでもいいが、他人の話を途中で切らないで欲しい。


「千年千歳先生から貰った経験とかはないのでしょうか?」

「いや、ありま」

「ですよねー! 僕が予めリサーチした結果、姉は特にあげたことがないと仰ってました」


 はいお前二度目、以後厳罰に処すのでそのつもりでいろよ。


「そこでなんですが、お二人のためにバレンタインデー企画を水面下で実行している最中なんです。企画の内容を皆様、それから両先生に軽くお教えしますと、動画配信の予定なんですね~」


 トオルさん、もしかしなくてもエンジン暖まって来たな。

 清廉とした最初の自己紹介が嘘のように、この人はっちゃけるぞ。


「ですから、今日会場にお越しくださった皆様に私的なお願いが御座いまして。両先生をゲストにお招きしてのバレンタインデー企画を、私と一緒に盛り上げてくださらないでしょうか? 賛意を示してくれる方は拍手~」


 今の心境としては、申し訳ない気持ちと、バレンタインデーの期待とで半々。

 謝罪する面持ちで内心期待している様相はマゾ気満載だ。


 トオルさんから拍手を求められたお客さんはありがたいことに応じてくれていた。


「ありがとう御座います。賛同してくださった皆様のためにも是非、千年千歳先生と無能才人先生の新規な一面を発掘しちゃういい番組にしますので、何卒宜しくお願い申し上げます」


 そして、50分弱続いたサイン会のトークショーは終わる。


 この後は渡邊先輩の家に向かい、俺はウミンへの告白を決意するに至った。


 だからだよ。


 決別したつもりでいた彼女と、もう一度仕切りなおそうと思ったのは。


 俺は彼女のことがきっと好きで。

 自分を鼓舞するようにそう言い聞かせていると、喜びが沸き上がる。


 彼女を想うと、小説に気持ちが入る時もあれば、そうじゃない時も侭ある。

 嬉しかったことや、悲しかったこと、彼女の隣で感じていた心境は色々で。


 ウミンを想うだけで多種多様な情動をもたげるんだ。


 なら俺は――この気持ちを止めたりしないよ。


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