俺カルチャーの快進撃
渡邊先輩との会食から数週間が経った頃。
信じられないデータをネット上で見つけた。
なんでも拙作『俺カルチャー』の売れ行きは好調なようだ。
私小説という枠組みで言えば
それは鬼畜担当編集であるトオルさんに伝えられたこんな一言から気付けた。
『いやー、三浦先生、ありがとう御座います』
「何がです?」
『俺カルチャーの目覚ましい成績に、昨夜は編集長から激励のお言葉を居酒屋で頂きましたよ』
「ああ、そう言えば俺カルチャー重版したらしいですね」
著者である俺が重版云々の話を知ったのはトオルさんの口からじゃなかった。
重版しましたという旨の事務的なメールが届いて、そこで初めて知った。
『そこで、書店巡りや、サイン会を行いたいと考えてるんですが、いかがですか?』
「……もちろんですよ、是非やらせて下さい」
『そう言ってくださると助かりますよ~、じゃあ明日の九時にですね』
と言うことで、俺は明日トオルさんと一緒に書店巡りしてくるよ。
「凄いねアキ、飛ぶ鳥を落とす勢い」
数日振りにウミンの家に向かい、近況報告を兼ねて彼女たちの様子を見に来た。
ウミンは俺の好調を奇跡だと言わんばかりに褒めてくれる。
彼女たちはリビングの掘りごたつで何ら変わった様子もなく過ごしていた。
ウミンであれば引っ張り出したパソコンでながら作業中だし。
「三浦くんは十分立派だよな。それは私が保証しよう」
「ありがとう鈴木さん」
「ううう、それにしても今日は寒いなぁぁ~」
鈴木多羅は氷点下を切っている本日の刺すような冷たさに身震いしていた。
外では白銀の粉雪がつもらない程度に舞っている。
大丈夫、明日の書店巡りには影響ない。
「ウミン、渡邊先輩が投資しないかって持ち掛けてたよ」
先輩への口実作りとして、彼女に確と伝えた。
すると、彼女は驚きの過去を暴露するんだ。
「……」
「どうした?」
「今まで言いそびれてたけど、私、昔あの人と付き合ってたんだ」
突飛な告白に、俺もほぉと感嘆する。
「ああそうなのか、私も渡邊先輩とお付き合いしてたんだぞ」
「それ本当?」
「嘘だよ、当然だろ。渡邊? 誰だそいつ」
鈴木多羅が追い打ちをかけるように嘘を吐けば。
先輩とウミンが付き合っていた話の真実味がより強調されたようだ。
まぁ俺たち、結構いい年だから。
恋人遍歴が一人だけなんておかしな奴もそうはいない。
俺は例外として。
「どうして別れたんだ?」
「多羅のせいじゃん」
「私の? どうして?」
「ミャー」
鈴木多羅が二人の破局理由を聞けば、プリンとミカンが俺に餌をねだって来た。愛猫が亡くなっていらい、猫に餌を与えるのは久しぶりだっただけに軽い感傷にひたれたものだ。
「多羅のせいで大学を辞めざるを得なくなったから、あの人とは別れた」
「あー、その節は大変ご迷惑お掛けしました」
つまりウミンは在学中、俺に偏執的な好意を寄せつつも先輩と付き合ってた訳だ。
腹が立つというよりも、心に冷風が吹く。
「そう言えば、俺結局ウミンが大学を辞めた理由知らない」
「嘘でしょ?」
「いや本当」
「私が大学を辞めた理由は……」
言葉を濁らせ、彼女はちらりと鈴木多羅に目配せする。
「とにかく私のせいだってことだ三浦くん、それ以上は聞かないでくれ」
そう言われてしまうと、微苦笑を零すようににやけてしまう。
「じゃあ、その話はまた次の機会の楽しみってことで」
そして彼女たちとの関係を継続させるように、次の機会を確約させるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます