第2話



「ふんふふ~ん」



調子外れの鼻歌と家に広がるスープの匂い。


グツグツと煮立っている鍋に入っているきのこはリリーが朝から出掛けて森で取ってきたものである。


焦げないようにぐるぐるとかき混ぜながら、調味料をいくつか入れると少し手に取り味見をした。



「…よし、こんなもんかな」


うん、と頷く。


エプロンの紐を解きながらリリーは声を上げた。



「ラックー!ご飯出来たよー」


すると「はーい」と何処からか声がしてドアが開き、ひょっこりと小麦色の耳が現れた。

「おかえり。ラック」


耳がぴょこぴょこと揺れている。


頭に葉っぱがついているし、また野原で走り回って目一杯遊んできたのだろう。



「みてりりー!いっぱいとれたよ!」


大きな籠を背負ったラックは、よいしょ、とドアを体で開けるとそのままの勢いでリリーの腰に抱きついた。



「わっ」


小柄なリリーは突進によろめいたが、なんとか踏ん張って受け止める。


こら、とつい声を上げそうになって下を見ると、キラキラ輝く翠色の瞳と視線がぶつかった。


しっぽがべしべしと腕に当たって揺れているのも分かる。


ほめてほめて、と思っているのが手に取るように分かって、思わずリリーは吹き出した。



これはあれだ。目は口ほどに物を言う、というやつだ。


籠を受け取ると、中いっぱいにヨモギソウやら、ツクシソウやら食べられる植物が入っている。




「ありがとう、すごく助かるわ。」



リリーはラックの出会ったときから変わらないふわふわの頭を撫でた。




そう、ラック。

もちろんあの時拾ったキャットリスの赤子である。


キャットリスの大人は普通大きくても両手で抱えられる程で、それ以上となると似た別の種の可能性が高い。



なぜかラックはそのサイズを優に超え成長した。


この子は本当にキャットリスなのだろうか、と疑問に思った頃からよちよちと歩き始めた。人間のように。


さすがのリリーもなにかがおかしいとは思ったが、ラックは変わらずもふもふで可愛らしく、元気そのものだったので、すぐにそんなことは忘れてしまった。




「りりー」


ちっちゃな手がリリーの頬に触れる。


見ると、腕の中のラックが泣きそうな顔でこちらを見つめていた。

少しぼーっとしていたうちに心配させてしまったらしい。



「あ、ご飯冷めちゃうよね。食べようか!」




そうしているうちにラックはなんと言葉を話すようになったのだ。


確かにリリーはよく人にするように話しかけてはいたが、初めて名前を呼ばれた時は仰天した。


りり、りり、としか喋らなかったラックは一度話し始めるとどんどん学習し、今では人間の3歳児程度の会話ができるようになった。


それに加えて、最近随分と人間に近づいている。

全てではないが、顔や体の毛が抜けてきた。




お陰で成長したら森に帰してやろうと思っていたのに、本当に生きていけるのか、と心配でタイミングを逃してしまった。



最近また、あの時感じた疑問が頭を離れない。


この子は__ラックは一体なんなのだろうか。


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魔女はオオカミから逃げる @mash35

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