8 開闢


 放課後、本日行われた部活動紹介に影響された新入生たちは思い思いの部活見学へと向かっていく。今日ほとんどの一年生が部活を決めることになるだろう。

 優子たち女子魔道部(仮)は部室がないため、一年三組に陣取り、入部希望者を今か今かと待っていた。部活動紹介はあれだけ盛り上がったのだから、心を動かされた生徒がいてもおかしくない。


 司令官みたいに手を重ねたポーズで座して待つ明楽と足を組んで女王様のようにふんぞり返る有子。傘野馬先生は通りすがる女子生徒に片っ端からナンパしてるので、優子はそれを腹パンして静める。


「……あ、あの」


 そんな女子魔道部に控えめな声がかけられた。


「……わたし、女子魔道部に入部したいんです」


 声をかけてきたのは昨日不良に絡まれていたところを千夏に助けられた原須椿姫さんだった。黒髪の温厚な少女で、人見知りなのか緊張している。


 同じく人見知りで気持ちのわかる優子は、入部希望者の登場に歓喜の叫びを上げるアリスと明楽の口を塞いで、椿姫に対応した。


「原須さんでしたよね。入部希望ありがとうございます。とりあえず座って話しましょう」


「はっ、はい!」


 お互い教室にある自分の座席に座る。座席は五十音順のはずだが、原須椿姫は灰空優子の前の席だ。おそらく有子が権力で座席順をいじったのだろう。


「わたしたち女子魔道部は見ての通り、まだ五人集まっていないので正式な部活じゃないんです。それでも大丈夫ですか?」


「は、はい。わたし、昨日の穂叢さんや今日の白夜さんと灰空さんを見て、それがカッコよくて、いいなって思って、えっと、その、わたしもやってみたいなって。……何もわからない初心者なのに、ごめんなさい」


「もーまんたいだよ、わたしも昨日から始めたんだ。一緒に頑張ろう!」


 明楽が人見知りどうしの根暗な会話を明るくしてくれる。こういう時はとても頼りになる。


「でも、わたしなんかで、いいんでしょうか?」


 勇気を出して挑んだものの、その最中に自分の行いが合っているのかわからなくなる。優子も時々そんなことがあるから気持ちはよくわかる。

 

「何言ってんの、もはや救世主だよ。椿姫が入ってくれたら、嬉しいよ」


 部員の人数的にも、性格的な面でも椿姫は重要だ。アリス、明楽、傘野馬というトリックスターたちをコントロールするのは優子一人では困難だ。まともな人が欲しい。


「そ、それでは改めまして。私、原須椿姫は魔道部に入りたいです! どうかお願いします!」


 明楽に背中を押されて椿姫は少し自信を持ってくれたようだ。頭を下げて入部を懇願してくる。そこまで大袈裟にしてもらわなくても構わないが、椿姫の本気の覚悟はよくわかった。

 

「原須さん、こちらの方こそ、よろしくお願いします」


 お互い人見知りゆえに会話がぎこちないものの握手をして入部手続きカッコカリとする。椿姫の顔がパァーッと晴れる。心底嬉しそうで、今にも明楽みたくピョンピョン跳ねてしまいそうなくらいだ。


「これで四人ね。あと一人で女子魔道部は正式な部になれるわ」


 新入生は部活見学に出払って教室に残っているのは優子たちくらいだ。誰かが一年三組を訪れる気配はない。


「一人、魔道部に入ってくれるかもしれない人に心当たりがある」


 優子が言う。それは穂叢千夏のことだ。彼女には魔道の心得がある。昨日勧誘をしてみて、考えてくれると言ってくれた。その返答を聞けるかもしれない。


「探してくる」


 優子は昨日千夏と出会った屋上に向かった。


 ◇


 暗い階段を駆け上がり、灰空下の屋上へとたどり着く。屋上のアスファルトも空と同じく灰色をしている。隅のベンチに先客がいて目が合った。


「来たか、委員長。おもしろかったぞ、さっきの試合。あれがおまえの本気か」


「穂叢さん、昨日の返事を聞かせて欲しいんです。魔道部に入ってくれませんか?」


「……それか。委員長はさ、魔道が好きか?」


「え、あ、はい、好きですけど」


「そうか。ならさ、魔道を喧嘩の道具に使ってるようなやつと一緒にやりたい? あたしはさ、退屈な日々の鬱憤晴らしのために魔道をやってる。昨日のだって、殴り合いができるからあの子を助けただけ。あたしにとって魔道は口実なんだよ、暴力の」

 

 空を見上げて千夏は語った。暴力を合法的にできるのが魔道だと。灰色の空は泣き出して雨が降り出す。アスファルトは黒と灰のマダラ模様になり、それもやがて黒に飲み込まれる。


「違います。魔道は暴力なんかじゃない。そう思うのは、まだあなたが本当の魔道を知らないからです」


「昨日もそうだったけど、魔道のことになると、委員長は気が強くなるな。拒否したつもりなんだけど」


 不思議と千夏相手には人見知りしなくなった。優子は素直に言葉をぶつけられる。


「わたしは穂叢さんと魔道部で一緒に魔道がしたいです。今日はわたしがあなたに魔道を教えに来ました」


「────」


 そのセリフを聞いて千夏は優子の方をしばらく見た。優子はその視線に負けないように気を強く保った。


「なるほどな。考えてることは二人とも同じってことか。なら、もういいよ御託は」


「御託じゃないです、本音です。でもそうですね、面倒なお話はいりませんか」


「口ではなんだかんだ言うけどさ、見込んだ通り、委員長もあたしと同じ穴の狢なわけでしょ?」


「心外です。わたしはあなたの魔道は喧嘩という思想を正しに来たんです。その方法がたまたま戦いになってしまうだけです」


 千夏はベンチから立ち上がり、優子は彼女に向かって歩みを進めていく。


「今日おまえの戦いを見てから、やりたくて仕方なかったんだよ。あたしの退屈な世界がどっか行っちまって困ってた。委員長、おまえがあたしから退屈を奪いやがったんだ。落とし前つけろよ」


「お望み通り、初心者のあなたに魔道の楽しさを叩き込んであげますから、覚悟しておいてください」


 とにかくお互いに戦いたかった。昨日引き分けで終わってモヤモヤしていたのだ。面倒な言葉での勧誘も優子には向かない。こういう時は魔道で会話するに限る。魔道の楽しさを教えて、入部させてやる。


「そうくると思って、さっきからスタンバってました!」


 その時、突然屋上に現れたのはアリス率いる女子魔道部(仮)と傘野馬。アリスは携帯魔道結界装置を屋上に設置した。


「それじゃ後は好き放題しちゃってください。みんなの興味を引くように出来るだけ派手に」


「いやいや、穏便に頼む。君たちが弾けた分だけボクに上からの圧がかかるんだ!」


「優子頑張れー。負けたら蛇の群れにダイブのお仕置きねー!」


「え、えと、じゃあわたしは穂叢さんを応援します。が、がんばれー!!」


 うるさい外野たち。とても心強い。


「なんだあれ、おもしれぇやつら」


「今から、あなたもおもしろくしますから」


「やってみろ」


 皮肉を言い合うタイプの試合開始前の挨拶もある。

 二人は幻装を纏う。優子は眼鏡を外しおさげを解いた灰色本気モード。千夏は和装に甲冑という侍スタイル。相変わらずその刀は透き通る清流のように美しい。


「はじめ!」


 リミッターは最初からイカれている。エンジンはフルスロットルで暴れ回る。できたばかりの水たまりをぶちまけて、白黒二剣と一刀が交差する。

 加減を知らない全力フルスイング。生じるのは爆音ソニックブーム。放課後の高校の屋上。雨に濡れながら行われるのはアドレナリンナイアガラのガンギマリチャンバラ。


「オラァ! 優等生の皮、剥ぎ取ってやるよ!」


 身体強化全振りが千夏のバトルスタイル。一つ一つの剣撃が必殺の威力を帯びている。かすっただけで優子の魔法装甲は粉砕するだろう。それが、


「最高」


 一瞬の油断がまけに繋がる戦い。そこに優子は快楽を見出した。刃が迫り来るたびに身体の中の魔力が沸騰し、ガリガリと騒ぎ立てる。獣は抑えることを知らない。


「このジャンキーがッ!」


 千夏の凄まじい強襲。暴風雨のように止めどない連撃。攻撃にだけ魔力と膂力を注ぎ込んでいるというのにこちらに反撃の隙を与えない。人のことを中毒者ジャンキー呼ばわりするくせに、千夏も随分ぶっ飛んでいる。

 力では敵わないのはわかり切っている。優子の本気ってのは使えるもの全部使うってことなんだ。


「───閃影、鏡返かがみがえし!」


 千夏の剛撃に合わせて光り輝く鏡を出現させる。


「目眩しか? そんなものは効かねぇ!」


 さらに力を込めて鏡ごと砕こうとする狂戦士千夏。しかし、鏡には質量も手応えもなく砕けることはない。それどころか鏡に映った千夏が千夏本人に向かって攻撃する。反撃をくらい千夏はたまらず後退する。


「───ち、ハッタリと思わせて、カウンターか」


『鏡返』。鏡に触れた衝撃を反射する魔法。優子が使うのは自分の力だけではない。強力な相手の力を受け流し、跳ね返す。工夫次第で相手の武器はこちらの武器になる。この技の原点は畳返しらしいが、随分と様変わりしてしまった。


「いいねぇ、楽しませてくれる」


 一度退いた千夏だが、怯まず猪突猛進に向かってくる。恐れを覚えることのない精神は戦いにおいて最強だ。敵に回すと厄介で恐ろしい。


 もうカウンターは効かないだろう。分身や幻覚といったものもその場しのぎ。この戦いに勝つには、優子自身が受身な戦い方を変えるしかない。

 この前敗北した杏奈との戦いで足りなかったのは攻撃力。優子は決定力不足だ。杏奈や千夏みたいな攻撃力が欲しい。


黒剣こっけん、解放!」


 強出力の『破壊』の魔力を剣に帯びさせて、突進してくる千夏へと振り下ろす。

 しかし千夏は前進を緩めることはない。それどころか逆に前へ前へと足を力強く踏み出している。間合いをぶちぬき、懐に潜り込まれる。お互いに剣は届かない。千夏の攻撃手段は拳だった。


「ぐ───」


 腹部に強力な打撃をくらい、優子は蹌踉よろめき、後方にたたらを踏む。隙は最低限にしなければ畳み掛けられる。咄嗟に左足の爪先で踏ん張って転倒を阻止する。続いて揺らいだ視界を正して敵にピントを合わせる。千夏は既に次の攻撃動作へと入っていた。刀は捨て、徒手だ。


 この距離まで詰められたら、もう剣は役に立たない。優子は生き残るために自分の半身とも言える二本の剣を手放し、殴り合いに応じる。敵方の荒っぽい喧嘩拳法を閃影拳でいなす。


「委員長も案外いけんじゃん。でも、あたしの方が殴り慣れてる!」


 屋上にできた新品の水溜りに突っ込んで無様に転がりながら、迫り来る鬼神から距離を取る。いくつか貰ってしまい、魔法装甲にダメージが入る。素手のくせに幻装の鎧を貫通するとは、とんだ脳筋ヤロウだ。


 戦況は相変わらず優子の防戦一方。無理して攻撃をしたために返ってさらに不利なステゴロに持ち込まれた。


「どうした委員長。こんなんじゃ、あたしは満足しないよ。おもしろくしてくれんだよな? 本当の魔道を教えてくれるんだろ?」


 言いながら、千夏は期待するように笑みを浮かべる。その期待には応えたい。でも勝ち筋が見えない。

 過去、屋上で優子は挫折したことがある。あの時も攻撃というものに混迷した。今も攻撃というものに惑わされている。勝つには攻撃するしかないのに、それがうまくできない。今度は、攻撃をすることで自分に隙ができて、敵に返り討ちにされるのではないかという不安に取り憑かれていた。死のスリルを楽しめたのは自分が防戦では負けないという確信があったからなのだろうか。いざ攻撃に転じようとするとすぐ隣に死が迫ってくる気がして怖い。まったくお笑いだ。


「なんだぁ、人を説教するつもりが、自分も悩みかよ。いいぜ、ならあたしが委員長の悩みを聞いてやるよ。戦いでな」


 千夏は幻装の刀を再び手に持つ。


「草薙、解放。神砕蛇尾之舞しんさいだびのまい


 千夏が祝詞を口ずさむと刀と体を橙色のオーラが包み込んだ。あまりに強い魔力が漏れて彼女の周囲の空気がジリジリと陽炎のように歪み始めている。

 あれは幻装解放。幻装の能力を解放してその力を最大に引き出す術である。


「宣言する。柄でもないがあたしの魔法特性は『開闢かいびゃく』だ」


 漠然としていて分かりづらい。言われても逆に効果を予想しづらくなった。魔力の色から千夏が土属性と火属性を持っていることくらいしかわからない。でも、千夏が小細工を弄するタイプでないことは一目瞭然だ。


「いくぜ───!」


 千夏の幻装解放。それは刀での突撃だった。先ほどから代わり映えしない、ただの単純な攻撃。しかし、それが最強。逃げ隠れできる場所でも状況でもない。この戦場では突撃が最強。人型の超新星爆発が屋上を駆ける。


「───白盾、解放。

 咲き誇れ、白百合の円環イェソド・シャダイエルカイ!!」


 白百合の防壁を展開。最強の攻撃に最大の防御をぶつける。盾に帯びた純白の斥力が如何なる魔法も剣も通さない絶対防御を実現させる。

 しかし、花弁は次々に破られていく。落下したガラス細工の如く粉々に散っていく六枚の盾。ついに刃は優子へと───


「しぶといな、空蝉うつせみの術とかってやつか」


 衝撃にぶっ飛ばされ尻餅をつく優子。その体の魔法装甲は未だ現在だ。間一髪、閃影の分身を身代わりに離脱したのだ。

 幻装解放は大量の魔力を使う。お互いに一度ずつ解放を使用したが、持久戦なら優子には分がある。このまま耐え抜く。


「言っておくが、今のはただ斬っただけだ。あたしの幻装解放は一発を撃ち上げるタイプじゃない。自分の能力値を一定時間の間爆発的に上昇させるものなんだよ」


 馬鹿な。白盾の解放を使っても防げなかった攻撃をまだ幾らでも撃てるとでも言うのか。退屈しのぎに喧嘩をしたいだけの者が身に付けられる力ではない。持久戦はボツ。やはり、受け身では勝てない。


「開闢の前に防御は役に立たない。開闢は全てを切り開く。どんな壁もこじ開ける。それがあたしだ」


 どこか燻った表情で言う千夏。きっと、言葉ではああ言っているけど、開けられていない扉があるんだ。千夏はまだ満足していない。それは優子も気持ちが良くないから、千夏のことを破顔させてやりたいと思った。

 優子は今ので攻撃がなんであるか充分に教えてもらった。だから、今度は約束通り優子が千夏に楽しい魔道を教えてあげなくちゃいけない。


 もう屋上で折れたままではいられない。優子は立ち上がる。また一つ進むために。


「あなたから退屈を奪った責任として、あなたに永遠にやめられない楽しみをあげる。まだ開いていないあなたの心の壁をぶっ壊す」


「やっと目覚めたか、寝坊助」


 千夏を見ていて優子は一つ気づいた。攻撃に必要なのは心の強さだ。相手に攻撃されるかもと恐怖を抱いたままじゃ思い切った攻撃はできない。千夏には相手を押し切る強い思いがある。優子は杏奈との戦いで攻撃恐怖を乗り越えたが、攻撃の真髄へはまだ行きついていなかった。攻撃は相手から攻撃される覚悟がなくてはできないのだ。

 千夏の『開闢』は盾だけではなく、優子の気持ちも切り開いた。そのお返しに優子が千夏にこびりついている退屈のかけらを『破壊』してやる。


創造ジェネシス起動ジェネレート───」


 今必要なのは盾ではない。千夏の本気に答えるための矛だ。優子の恐れを、千夏の退屈を、全部『破壊』してくれる最強の武器が欲しい。

『創造』の特性により、この窮地で新たな幻装を錬成する。その幻想イメージは矛盾を崩壊させる。


黒槍くろやり、覚醒」


 顕現したのは黒色の槍。その形は朧げで穂先は黒い炎が煙のように風に靡いていた。『破壊』そのものを槍の形に留めたのだが、槍という形状すら破壊してしまっている。


「それだよ、あたしが見たかったのは。ぶつけ合おうぜ、どっちが強いか」


 幻装解放状態の千夏の二度目の攻撃が開始、嵐のような荒々しい魔力を纏い突撃してくる。生半可な合いの手では分不相応。優子は全身全霊を持って答える。攻撃をする覚悟も攻撃を受ける覚悟もできている。


「───黒槍、解放。

全てを壊す終わりの獣バチカル・アポクリファ───!!」


 槍は闇へと姿を変える。いや、闇が全て槍に取り込まれたのか。優子は周囲の黒色が白く見えるほどの漆黒に染まったやりを魔力轟かせる鬼神へと一直線に突き出した。

 開闢に終わりの獣が喰らいつく。その退屈を食いちぎって、破壊する。つまらない日々を終わらせてやる。

 衝突する開闢と破壊。雷鳴に似た炸裂音を立てて両者の本気はぶつかり合う。屋上は嵐の只中にいるように衝撃と閃光に支配された。


「うおぉぉぉぉぉぉぉおおッッ───!!!」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁああッッ───!!!」


 会話がなくても両者は相手の心を感じ取った。

 楽しい。

 これが千夏がずっと一人で探していたもの。優子が仲間から教えてもらった、千夏に知ってほしかったものだ。


 程なくして屋上は静謐に包まれた。戦いが終わったのだ。雨は上がり、空の切れ間から太陽が顔を出す。いつのまにか、空には虹がかかっている。灰色だった屋上の水溜りに雲間から覗く青空と七色の虹が映り込む。


「完敗だ、委員長。あたしの負け」


 魔法装甲を破られていたのは千夏だった。大の字で水浸しの屋上に寝転がっている。


「でも、スッゲー楽しかった。こりゃ喧嘩とは別モンだわ。おまえとの戦いは、ただの殴り合いなんかじゃ比べ物にならないくらいおもしろかった。……これが本物かぁ、なんでもっと早く教えてくんねぇんだよ」


 彼女の顔には燻りも蟠りもない。晴空のような笑顔だ。優子は千夏の退屈を破壊したのだ。


「よかった。魔道の楽しさを知ってもらえて。それと、ありがとう。わたしもあなたに強さを教わった」


 優子は千夏に手を貸して体を引っ張り起こした。そのまま握手する形になる。


「おう、ありがとな。あたしも吹っ切れたわ。魔道やってやるよ」


「お二人さん、いい感じのところ失礼します! ちーちゃんは魔道部に入部でいいんだよね? あ、もう書類に名前書いちゃってたわ」


 アリスがひょっこり現れて調子のいいことを言い始める。


「入ってやるよ。それよか、ちーちゃんてなんだよ」


「千夏だから、ちーちゃん。あだ名だよ」


 命名したのは明楽のようで、悪気なく説明する。


「まぁ、いっか、それで」


 意外にも騒がしい連中に適応した千夏。


「あの、ちーちゃんさん!」


 椿姫が小刻みに震えながら千夏に声をかける。


「わ、わたし、ちーちゃんさんと魔道できるの嬉しいです!」


「おう、あたしもだ。それと、さんはいらん」


「よろしく、ちーちゃん!」


 ついに女子魔道部の部員が五人揃った。これで正式な部活として認められるだろう。

 千夏は魔道の楽しさを知り、未来への道を切り開いた。優子は過去の挫折を払拭し、新たな力を身につけて、さらに前へと進んだ。ぶつかり合った末、お互いを知ることもできた。

 魔道部の戦いはこれから始まる。そのことが嬉しくてにやけているとアリスが指で突っついてきて、優子は破顔したまま振り返ってしまった。


「はいチーズ」

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