第38話(スラム街)
ーーゼノは、状況を呑み込むのに時間を要した。ゴミ袋の脇に捨ててあった新聞紙の日付を見ると、2215年6月4日となっていた。ディストピアだ。そんな未来でも紙媒体がある。ゼノはVRゲームの設定時代より、遥かに未来のリアルな世界が汚い世界だった。所々、街灯は切れている。ゼノは現実の世界が、まだよく解らない。こんな所で暮らしていた記憶がない。
「ったく! どうなってんだ」
「そこに誰か居るのかね?」
ハンチング帽を被った白髪のおじいさんが声をかけた。
「今年は何年だ?」
「唐突な事を言うね。酔っ払いかい?」
「質問に答えてくれ」
「あ、ああ。今年は2215年だよ」
「なるほど」
「気は済んだかい? そんな所で寝てると風邪引くよ」
ゼノは、なんとか立ち上がる。
「俺はこれからどうしたらいい?」
「酒が抜けてないようだね。うちに寄るといい。水でも飲んで頭を冷やしなさい」
「分かった」
おじいさんは手招きをする。ゼノは後を着いていく。
「ここはスラム街だ。丸腰だと危ないよ」
「スラム街…………。初めて来た」
「君は〝タワー〟の住民かい? 身なりからして金持ちには見えないけど。スラム街にパジャマで出歩くなんて中々の勇気だ」
「そんなにヤベーの? ここ」
「犯罪者の吹き溜まりだ」
「じいさんは、そんな所で暮らしてるのか」
「まだ名乗っておらんかったな。私は近山だ。君は?」
「黛ゼノ。じいさんも近山か」
「ここらで近山姓の者は、私か息子の淳史くらいだ」
「その淳史。ニックネームはアッツじゃないか?」
「ほう。よく知っとるの。もしかして淳史と知り合いかい?」
「多分半分」
「飲み過ぎは肝臓に悪いぞ。ほどほどにね」
「飲んでない」
「クスリかい? 尚更、厄介だね」
「クスリもやってない」
ゼノは、おじいさんの後を着いていきながら、辺りをキョロキョロする。空を飛ぶ車、ホログラムの広告、黒いレンガ造りのストリート。未来の世界だ。ゼノにとっては。
「さて、スラム街は抜けた。ここが我が家だ」
一軒の邸宅に着く。おじいさんの家だ。
「豪邸だな」
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