第33話(公道を走るレーシングカー)
「黛君、エアハートはしばらくお休みだ。近山淳史に探りを入れてくれ。君なら適任だ」
「待ってくれ。アッツは、俺のグロックを警察に押収された時、見慣れない物を見る様子だった。銃を、ましてや人を3人も殺すなんて出来る奴じゃない。チビの頃からの付き合いだ、俺が保証する」
「では、こうしよう。近山淳史の疑いを晴らすために動いてくれ。代車を用意してある」
「それならやるよ。で、代車って?」
「ロータス・エキシージ」
「凄い。公道を走るレーシングカーか。いいの?」
「壊さないでくれよ」
「GTRを壊したのは細田とか言うバカ警官だし、ドアを傷付けたのはバカな親だし」
「では、明日から動いてくれ」
「了解」
ーーゼノは基地の和室で寝て、次の日の朝。基地の調査員達は出払っていた。リビングのテーブルにエキシージのスマートキーと置き手紙があった。
『黛君、おはよう。近山淳史の事は頼んだよ。朝ごはんは、またカップ麺でも食べといて』
ゼノは、段ボール箱からカップ麺を取り出して、セットして3分待つ。その間に淳史にメールを送る。
『釈放された。セーブザウォーやるぞ』
『来い。ってか、姉ちゃんが捕まったけど』
『昨日、警察署ですれ違った。ゆかりさんも釈放されるさ』
ゼノは、ホッとした。淳史が拳銃について何も言わなかったからだ。
ーーゼノは、基地の駐車場へ行く。オレンジ色のロータス・エキシージが停まっていた。
「これか…………公道を走るレーシングカー、くぅ~、たまらんちサマランチ」
ゼノはエキシージのドアを開けてシートに座る。それだけで、解ってしまう。
「こいつぁ、強力すぎる」
ゼノは、シートポジション、ルームミラーをセットしてエンジンをかける。ブォーン! ドドドドーー!
「ミッドシップはエンジン音がダイレクトだな。…………さて、行くか」
ゼノは、ギアを1速に入れて、ゆっくりクラッチを繋げる。そして、駐車場から出ようとした時。スカッ、スカッ。ウィンカーレバーに指が届かない。ステアリングホイールから腕を伸ばして、ウィンカーを出そうとした時。ブンブン、ブンブン。ワイパーが動く。
「あっ。外車はレバーの役割が左右逆か。流石はユニオンジャック」
ゼノはエキシージを駆り、公道を走る。ライトウェイトにハイパワー。まさに公道を走るレーシングカーの名に恥じぬ加速力。すぐに、近山家に着いてしまった。
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