ブーイング

 キックオフ。ケインがソン・フンミンへとパス。そしてデレアリへと。ドリブルを仕掛ける。まるでチーターのように。そして弧を描くようなパス。エリクセンへ渡りケインへ。そしてワンタッチでゴール!

ピューピューと口笛が鳴る。僅か30秒ほどの時間だった。何があった?俺達に一体…

 俺はヒーローになるはずじゃないのか?

シウエルからメルテス。そここらシューへ。そして俺へと。どうするか…迷ってる暇はない。撃つことを選択した。しかし弾かれる。コーナーキック。しかし…ここで悲劇が起きる。コーナーで競り合った直後膝に熱く灼けるような痛みが奔った。そして地面に倒れる。笛が鳴る。そして担架で運ばれた。試合はざわつきチームにも同様がある。そしてこの試合は4-0と力の差を見せつけられ敗北した。

「怪我の具合はどうですか?」

「んー、怪我だけど4ヶ月間で完治するよ」

4ヶ月間…少なくとも冬の移籍シーズンまでは復帰出来ないと宣告された日の夜。

プルルル、プルルル。電話が鳴る。

「もしもし、シウエル。なんだ?」

「怪我は大丈夫か?」

「全然だ。」

「そうか、後お前ユヴェントスに移籍噂流れてるぞ」

それを聞き驚く。

「どういうことだ?」

「いいや分からん。多分だが情熱的なファンが流したデマだろう」

「そうか…まだ今度」

 怪我をした4ヶ月間。この間はサウナや腰あたりのマッサージなどを行った。癒しの時間だ。トリノは勝てずにいたが順位は10位だ。勝てずにはいたが引き分けも多かったからだろう。もうすぐ復帰だ。

ウィティネーゼ戦。この試合で復帰を果たす。俺はベンチだった。当たり前だと思いつつピッチへと向かう。そして…

「小野、失せろ!」

「出ていけ!裏切り者!」

と言ったブーイングが起きた。なんだよ、と思いつつ掲げられたプラカードを見ると「ユヴェントス」に移籍する裏切り者小野と書かれていた。

「なんだよ、これ…」

 前までの雰囲気とは大きく変わりそれは俺にとって魔境アウェイのように感じた。

そして…前半36分。ウィティネーゼのアグリが鋭いシュートを放ち先制点を演出した。その後も立て続けに2点取られ3点のビハインドを背負うことになった。

「いいか!気を取られすぎだ!俺達はホームで戦っている!こんな試合サポーターには見せられん!」

 監督が言う。そして「シューアウトと小野インだ」

「俺がですか?」

「あぁ、怪我が治ったばっかだかやってもらう。いいな?」

「了解です…」

後半。俺が交代として出てきたと知るとブーイングが起きる。ボールを触った時もだ。

「こんな別れ方は嫌だ」と思いつつボールを触る。シウエルへ。メルテス。レーズからメルテス。メルテスから俺へと。しかしカットされた。チャンスとピンチを演出しながらやってきた89分。俺へとボールが渡る。ここにしかない場面。シュートを放つかパスを出すか…俺は…

ゴーーーーーーーーーール!

 シュートを選択した。サポーター達もこれには歓声を上げる。そして…試合に敗れた。

「小野。今回ユヴェントスへ移籍噂がありますが今回の得点はアピールでしょうか?」

「違うね、ユヴェントスの移籍に関しては何も知らない。ただこのクラブに置ける俺の価値を証明したかった。だけど終わりだ」

いつしかやったゲームの選手キャリアに似た言葉を放つ。

「ブナノッテ《おやすみ》」

そう放ち記者会見を後にした。



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