第5話 天死
「くっ!」
「ラファエル様っ! こっちです!」
私とマユは道なき道を進んでいる。
「昔はここも整備された道だったんですけど封鎖されてからは荒れ放題になってしまいました」
マユは寂しそうに言った。
「でも、本当にカノンさんは聖堂なんですか? 私はヤマカンで――」
「いや……合ってる」
「え?」
「カノンは絶対聖堂にいる」
「?」
マユは頭に疑問符を浮かべた顔をしたが私には確証があった。魔物が強くなっていることと進むごとに凄まじい魔力が放出されているからだ。
「でも。信じられません。シスターが違法召喚をしようとしているなんて……」
「それを証明するために私達は行くんだ」
不安がるマユの言葉を打ち消すように私は言葉をかけた。
(何かの間違いであってほしいっ! だけど――)
私は切羽詰まった。
意識が飛ぶ時に見たマリーの顔は今までと違っていたからだ。一言でいうなら妖艶の一言に尽きる。
私が考えながら聖堂まで走っていると鬼火の群れが現れた。
凄まじい魔力が体中を突き刺す。多分ただじゃ済まされない。しかもマユがいたら全力で戦えない。そこで、私はマユに、
「マユは村に戻って。このことを村中に知らせるんだ。とりあえずここから離れて……」
と言った。
「え⁉ でもラファエル様が――」
マユが不安そうな顔をして私を見たが私の決心した顔を見て「無事でいてくださいね」と言うとこの場を離れた。
マユがこの場から離れたのを完全に見送ると「よしっ! 行くかっ!」と言い全力で氷の呪文の詠唱を始めて、
「氷の矢(や)っ!」
と叫ぶと無数の氷の矢が鬼火に飛び鬼火は消滅して消えた。
鬼火が消滅すると私は聖堂へ急いで向かった。
聖堂周辺は荒れ放題だったが建造物自体はしっかりしているので倒壊の危険はないと判断して進んだ。
しばらく進むと聖堂に当たった。聖堂からは魔力がビンビン伝わってくる。私は意を決して聖堂の中に入った。
聖堂の中は邪悪な魔力に包まれ気持ちが悪くなる。
聖堂の中央には祭壇がありその祭壇にはカノンが寝かされておりマリーさんが何か術を詠唱している。私はカノンを呼びかけるがカノンはピクリとも返事をしない。
「無駄よ……シュラーフ草のハーブの臭いを吸ったのだから……」
マリーさんが振り向き妖しくそう言った。
「マリーさん! どうしてこんなことを⁉」
私の問いにマリーはくすくすと笑い「みんなを幸せにしたいからですよ」と答えた。
「幸せにしたい?」
「そう! 周囲を見てみなさい」
そう言われ私は周囲を見た。すると、翡翠のペンダントをした少女が横たわっていた。よく見るとその少女は――、
「リリー!」
だった。
それだけじゃない。
その周辺に転がっている子供は皆孤児院の子だ。
「この子達には天死召喚の生贄になってもらったわ。子供の魂は天死の好物ですもの」
「天死だって……」
「そう。貴方達退魔師が嫌い邪法とされている天死。これを召喚し私の力にすれば私は力を手に入れて皆を幸せにすることが出来る」
「どうして?」
私は膝をガクッと落としてマリーに聞いた。
「それは私に力がなかったから」とマリーは言った。そして、マリーは続けた。
「私の家は代々ファーレンの王家の血筋だった。でも分家で本家からは蔑まれていた。そして、この子達も戦争により親を亡くし蔑まれていた。それは、すべて力が無かったから……でも、力があれば違う。周囲は認めてくれる。生きていていいと言ってくれる。幸せになれる。だからよっ! 魔鉱石はいい実験材料だったわ。私の魔力と違法召喚で魔鉱石は自ら魔獣化してくれたわ」
「そんな……やっぱりマリーさんが!」
するとマリーさんはほくそ笑み、
「大きな幸せを得る為なら多少の犠牲は厭わないものなのよ。これでこの子達も天死の糧となれたんだから生きていていい。自分たちの命も価値があるって人から思えるようになるわ」
と言った。
「そんなことないっ! 生きていていいなんて人が決めることじゃない自分で決めるんだっ! 幸せだって力がなくとも幸せになれるっ! この子達だって自分の意志で生き力が無くても幸せそうに生きていた! そうじゃないか!」
「それは……」
その時カノンの身体が淡い紫色に輝いた。
「⁉」
「これは、ルシファー様が降臨されたのね!」
マリーさんは感嘆の声を上げ「ルシファーだって!」と私は驚いて声を上げた。
ゆっくりと上体を起こしたカノンの目は虚ろで私を見た。
そしてルシファーが、
「まだ生贄が足りない……」
と虚ろな目で言った。
するとマリーさんが、
「ルシファー様。どうかあのものをお殺し下さい! あの方が貴方様の最後の生贄です」
と言いルシファーに憑りつかれたカノンは私に鋭い攻撃を繰り出してきた。
私は刀で応戦するが生身はカノンだ。下手に攻撃したら致命傷になりかねない。
私はカノンをなるべく傷つけないように攻撃をかわしたが私はガクッとバランスを崩してその隙にカノンの蹴りがみぞおちに入った。
「くっ……」
私が苦しみ悶えているとカノンが斧槍(ハルバード)を構え私にとどめを刺そうとしていた。
「カノ……やめ」
「……」
「正気に……」
「……」
「カノンっ!」
「……」
「カノン、カノンっ!」
私が叫び続けるとカノンの手からするりと斧槍(ハルバード)が落ちカランカランと音がした。そして、カノンが頭を押さえ苦しみだした。
「や……めろ……」
「カノンっ⁉」
私はカノンに駆け寄った。
「ラファエルは……ボクに出来た……初めての……友達なんだ……だか……ら……でて……け。でてけ……。でてけ~~~~~~~~~~~っ!」
するとカノンの身体から淡い紫色の光が鋭く放出された。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
カノンは荒い息づかいのまま四つん這いになったままで顔を上げ、
そして私を見て「ありがとう。ボクを呼び戻してくれて……」
と言い私は弱弱しい笑みを浮かべカノンへ手を差し出した。
「そんな……嘘よ。天死が人間ごときに……」
マリーさんは壇上に腰を落とし信じられないといった風に呟いている。
そこに私の手を取ったカノンが立ちあがると近づき、
「お前……ファーレン王家分家のアリアネマ・マリエンだな。道理でどこかで見覚えがあると思った。名前をアナグラムにしていたから気付かなかったよ……」
と言った。
「何よ……本家だからって偉そうに説教を垂れるの……本家と言うだけで何もかも恵まれてきた貴女に?」
するとカノンは、
「ボクは恵まれていない。むしろ反対に生まれてくるなと言われた。ボクは望まれなかった子供だ」
「え?」
「それにボクはもう皇女じゃない。カノン・アーデルハイトとしての一人の人間だ……」
「カノン・アーデルハイト……」
マリーさんは茫然と呟いた。
「私もそう思う。カノンはカノンとして生きようとしている。それなのに皇家だ分家だなんて言ったところで何にもならない……」
「お前は罪を償え。まだやり直せる」と言いカノンが手を差し出そうとすると聖堂内に、
『許さん……許さんぞ……人間風情が……』
と恐ろしい声が響いた。
「⁉」
私達三人は聖堂内を見たが誰もいなかった。しかし、マリーが、「ル……ルシファー様⁉」と呟いた。
『そこの二人は諦めた。代わりに女、貴様を喰らわせてもう』
ルシファーがそう言うと淡い紫色の光の球体がどす黒い球体となってマリーさんの中に入って行った。すると、マリーさんは美しくも恐ろしい天死へと変貌した。
黄金(きん)色の長い髪。白磁のような白い手足。白い白銀の翼。五メートルを超す巨体で胴体にはマリーさんが取り込められている。
「ル……ルシファー」
私の言葉にカノンが、
「憎悪でここまで」
と言った。
「とりあえずマリーさんがいる中心部を避けて攻撃するしかない」
私はそう言い私は刀を構えカノンは魔術を詠唱し始めた。しかし、中心部を避けて攻撃している為決定打を与えられない。そうこうしているうちにルシファーが衝撃波を放ってきたので私達は壁際に隠れた。
「くそっ! これじゃどうすることもできない」
カノンのボヤキに私は考えた。
(どうすればいい? どうすれば?)
私は研修時代を思い出した。
私はどさっと草原に倒れた。
「ハァ……ハァ……百本もやって一本も取れないとは……」
カノンはとうにバテている。
ランディ元帥は頭を抱えため息をついた。
「全く……この二人は」
ランディ元帥は、
「個々の能力だけじゃ限られている。もっと互いを信頼し攻撃をしないと……」
とため息交じりに言った。
私は弱弱しい笑みを浮かべてカノンはムスっとした顔をしている。
「ボク一人でなら平気です。こいつが足を引っ張っているんです」
カノンは私を指さしながら言った。
その時ランディ元帥からカノンの頭にロッドが飛びゴン! と命中した。
「人のせいにするでない。何でもかんでも自分一人で解決しようとするのはカノン君の悪い癖じゃよ。こんなことでは最上級退魔術は扱えんな」
「最上級退魔術があるんですか? それは一体どんな?」
私の質問にランディ元帥は穏やかだが真剣な面持ちで「人を信ずることじゃよ」と言った。
「このままじゃ殺(ヤ)られるっ! 何か手は――」
カノンが呟いていると私は「一つだけある」と言いそして、「最上級退魔術……祈りの十字架(ロザリオ)を使うことだ」と言った。
「最上級退魔術! 祈りの十字架だと⁉」
私は無言で頷いた。
「バカかキミな。あれは最上級退魔術の中でもかなり難しいと言われる術だ。互いの心が信頼しなければ使えない。失敗すれば媒介の人物は死ぬんだぞ」
「だから私が媒介になる」
「お前本当にバカか。死ぬかもしれないんだぞっ!」
カノンの言葉に、
「あぁ、そうだね。確かに私はバカかもしれない。だから、バカなりに考えてこの結論に至ったんだ……」
そう言い私はカノン頭を撫でた。
「……」
「私は私とカノンを信じるよ。あの最終試験の時みたいに」
私はカノンを真っ直ぐに見た。
カノンは渋っていた覚悟を決め「解った。ボクもラファエル……キミを信じる」と言い障壁を作り外に出た。私はルシファーの注意を惹く為に走った。
ルシファーは格好の獲物とばかりに衝撃波を繰り出すが軍人で鍛えた脚はそうヤワじゃない。
反対方向ではカノンが術式を展開している。
私はルシファーの注意を自分自身に向ける為必死になった。
私は走る。
私と……私を信じる友人(とも)の為に。
繋げるために。
絆を。
戦火で割れたであろうステンドグラスから月光が漏れた。
それと同時に地面に淡い緑色の複雑に組み込まれた魔法陣が発動する。
カノンが私に出来たと視線を送る。
私は自身の持っていた刀を掲げて魔法陣からの淡い光を吸収する。
淡い光は光の粒子となって刀に集まりやがて膨大な魔力をまとった光の刃となり私の手に収まった。
私は光の剣……祈りの十字架を構え一目散にルシファー目掛けて走る。
ルシファーが異変に気付き防御態勢に入ったが、
「炎の舞っ!」
カノンが得意の炎魔法でフォローを入れてくれた。
予期してなかった攻撃にルシファーは混乱し私は胸元の中央のマリーさんを斬る。
マリーさんがルシファーから切り離され床に落ちる。
その時ルシファーが、
『おのれぇぇぇー! 人間めが……だが忘れるな……人間の命がある限り我ら天死の命……永劫尽きることなく……』
ルシファーはそう言い残し気配を消滅させた。
「気配が……消えた」
カノンがそう言うと私は「勝った……」と呟いた。
「はぁぁぁぁぁぁ~~~~~~」
私は一気に脱力して床に座り込む。
その時天上から淡い光の粒が雪のように降り注ぎ子供達の身体の中に入って行った。
子供達の身体はぼぅっと輝き次の瞬間「う……うん」と呻き声を出した。
それを皮切りに次々と子供達が目を覚まし自分達に何が起こったのか分からず解らないといった顔をしていた。
やがて、
「シスター⁉」
と子供の一人が倒れているマリーさんに気付き声を上げた。
子供達は倒れているマリーさんに近寄り声をかけたり体を揺すったりした。
「キミ達身体は平気か?」
カノンの質問に子供達は、
「あっ! カノンおにいちゃん! ラファエルおにいちゃん! シスターはっ! おきないのっ!」
「マリー姉ちゃん。オレこんどから良い子にするから。宿題も手伝いもちゃんとするからっ! だから目を覚ませよっ!」
「シスターっ!」
子供達がわんわん泣き出すと「う……ん」とマリーさんからくぐもった声が聞こえた。
「シスターっ!」
マリーさんは最初焦点が定まらずぼーっとした表情だったが徐々に焦点を定まらせ、
「あれ……? 私……?」
とまだ少しぼーっとしながら言った。
「シスタァァァァァァァ―――――――っ!」
と子供達がマリーさんに群がった。
「あ……貴方達? どうして?」
マリーさんが理由(わけ)が解らない顔をしているので私が説明した。
「恐らくあのルシファーは完全体ではなかった。だから、魂の吸収も結合も不完全だったのでしょうね……完全体でしたら……」
「でも……私斬られ……」
すると、カノンがイラっとした顔で、
「最上級退魔術を使ったからだ。斬ったんじゃなくて魔力と魔力を切り離したんだよ。と、まぁそのせいでしばらくは魔術は使えないけど……」
と説明した。
その時、子供の一人が「痛っ!」と膝を抱えた。
見ると膝をすりむいている。
マリーさんが魔術を使いなおそうとするがカノンの言った通り魔術は発動しないので自分のハンカチを巻いた。
「マリーおねぇちゃん……ありがとう」
子供が満面の笑みで言うとマリーさんは「どういたしまして」と言った。
「力だけでは幸せに離れないよ……」と私は言いマリーさんはクスリと笑い「そのようね……」と言った。
そして子供の一人が
「帰ろうぜ! マリー姉ぇ!」
と言い優しくマリーさんに手を差し出しマリーさんは私に目で問いかけ、私は頷きマリーさんは子供達の手をしっかり握り、
「さぁ、家に帰りましょう」と言い子供達一緒に下山した。
その光景を見ていたカノンが私にのしかかり、
「すまないが、少し肩を貸してくれないか? かなりの魔力を消費して体がだるいんだ……」
と言って来た。
私は、
「それよりもいいのがあるよ」
と言いカノンを横に抱えた。
所詮お姫様抱っこと言う奴だ。
カノンは顔を赤らめているが暴れる力もないのかおとなしくしていた。
私はカノンを抱えながら空を見た。
空は白んでいて夜明けだった。
聖堂から帰った私達はランディ元帥から驚きながら出迎えられた。
マリーさんは村人からの追及を受けていたがマユが周りを押さえてランディ元帥が、今回この事件の一端は天死の仕業と言い。そして、このシスターが憑りつかれたのは信心深いところを天死に付け込まれたからと言葉巧みに天死や退魔師の知識を持たぬ村民にもっともらしく真実とうそをごちゃまぜにして巧みに嘘の説明し場を収めた。
私はその光景を見ていると途端に眠気が押し寄せ意識が遠のいた。
私は何もない光の空間にいた。
「ここは……?」
すると目の前にラモンが現れ、
「ラファエル……」
と言った。
「ラモン……」
私は微笑みラモンも微笑み、
「お前なりの答えは見つかったか?」
と聞いてきた。
「………」
私は黙りやがて、前を向き、
「私は今まで退魔師にしか人は救えないと思っていたけど退魔師じゃなくても人を救える。それは自分だ。自分で生きていていいって思えたら十分自分も人も救える原動力になるんだ。この旅でそれを痛感した」
「……」
ラモンは微笑んだまま聞き、
「私も自分を救って見せる。自分も人なんだから……」
と答えた。
「それが聞ければ安心だ」
そう言いラモンが消えかけた時、
「ラモンっ! あの時助けてくれてありがとうっ! ラモンは十分私を救ってくれた。だから――」
今度は自分を救って、と私は言った。
ラモンは光に溶け消えかける瞬間陽だまりのような優しい笑顔を向けありがと……と言った気がした。
「……」
私は宿の一室に寝かされていた。
手は何かを掴む様に空に突き出されていた。
「おっ! 目を覚ましたか?」
カノンとランディ元帥が部屋に入って来てランディ元帥が癒しの魔術を使った。
「いやー、ラファエル君が倒れた時はどうしようかと思ったわい」
「私は……倒れてたんですか?」
見ると私の身体は包帯まみれだ。
ランディ元帥が、
「なんじゃ、覚えておらんのか? まぁ、無理もないか……キミ相当疲れてたようだし。おまけにカノン君横抱きにしてるし……うぷっ」
ランディ元帥がそのことを思い出して笑いをこらえていると「元帥……」とカノンが殺気を飛ばしてきた。
「まぁ、当たり前じゃな。カノン君から聞いたぞい。最上級退魔術を使ったんじろ。あれは体にかかる負担もでかいし疲れもでたんじゃろう。まぁ、一日休めば元気になるじゃろう!」
ランディ元帥はそう言うと部屋から出て行き、カノンも私と相部屋のなので自室のベットに潜った。
その時カノンが「ラファエル……」と言っていた。
私は寝たふりをした。
「寝ているのか……じゃあちょうど良い。ボクは今まで自分は生きていてはいけない。いらない子なんだって思ってきた。でも、本当は違う。自分でそう思ってたら本当にそう思ってしまう……。だから、ボクはこれからは自分は生きていていいと思う。そう思うことにしたんだ。……お休み」
私とカノンは背中合わせで顔は見えないがカノンの顔はきっと微笑んでいるのだろうと思った。
翌朝、私とカノンとランディ元帥は昨晩町から呼び寄せた馬車に乗り村を出る準備を始めた。
「ん~、朝焼けの山村は空気が美味しいねー!」
私が深呼吸して清々しい笑顔で言うとカノンが青い顔で、
「ボクはまたあの道を通るのかと思うと気分が重いよ……」
と言った。
「あ……はは……」
私は苦笑いを浮かべた。
部屋を出る時ランディ元帥から「ラファエル君。お客さんじゃぞ」と呼び寄せられ宿屋の出入り口に出た。
そこには――、
「ラファエル様―!」
「マユ……」
が抱き着いて来た。
「行ってしまうんですね……?」
マユの質問に私は深く頷いた。
私達は宿屋のすぐ近くの見晴らしのいい場所から景色を眺めながら言った。
「この村はいい村だ。出来るならずっとここにいたくなる……けど――」
「退魔師になられるんですよね?」
私の言葉にマユが言葉を被せた。
私は「ええ」と答えた。
「……」
マユは暫く黙りやがて、
「私……シスターになろうと思うんです……」
「……」
「この村の教会にはマリーさんがいたけど裁判で暫くマリーさんはいないし誰が子供達の面倒を見るのかっていう議題になったし……だから、私シスターになりたいんです。マリーさんが戻って来ても安心できるシスターに……お母さんには反対されちゃいましたけど……勤まるわけないって……」
マユが照れながら頬をポリポリ掻いた。
そんなマユに対して私は、
「シスターになるには大変だ……聖書の勉強に薬学の知識。そして、毎日のミサ。どれも大変で一日たりとも欠かすことは許されない。そして、神に御心をささげ祈りを挙げる。それでもなりたいのかい?」
私の言葉にマユは微笑み「はい!」としっかり言った。
私はマユを見て安心した。
マユの心には迷いが無いからだ。
私がマユに頑張れと言おうと思ったがやめた。
マユはこれから頑張ろうと思っているのにいきなりもっと頑張れというのは酷だから。
そうこうしてるうちにカノンが私を呼ぶ声が聞こえた。
私は馬車の所まで急いで行く。
その時マユが、
「また来てくださいねー! ラファエル様! 次はもっともっといい村になって私もシスターとして立派になってますからっ!」
私は「楽しみにしてる」と言いカノンの元へ向かった。
その時私は心の中でマリーさんに、
(力だけではなく愛情により与えることが出来る。マリーさんも与えることが出来てたんじゃないですか……)
と思い私は空を仰いだ。
私は馬車の中考えた。
(これからマリーさんどうなるのかな?)
とぼんやり思っているとランディ元帥が、
「マリーさんの今後を心配しているようじゃな?」と言って来た。
「ラ……ランディ元帥。そんなに私は顔に出てました?」
「出ておるよ」
私はハァ~、とため息をついた。
「そんなに自分を恥じるものではない正直なのはいいことじゃよ」
「時と場合にもよりますけどね……」
私の言葉にランディ元帥はほっほっほっ! と笑い、
「あのシスターの事なら心配はいらん。退魔師協会から執行猶予はつくもののすぐ釈放と聞かされておるから!」
「本当ですか⁉」
私は身を乗り出しランディ元帥が「嘘をついて何になる」と言った。
「良かった! ね、カノン」
と言いながらカノンの方を向くとカノンが青い顔で乗り物酔いに耐えている。
私は苦笑いをして、
(カノン……絶対聞いてないな……。町に着いたら話そう)
と思いながらも、
(なんで船は平気で陸路はだめなんだろう……)
とも思い馬車の中から景色を眺めた。
周囲には朝陽に照らされた青々とした山脈が連なっていた。
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