第30話 電車に乗って【完結】



 ふたり心を通わしたあの日から時は過ぎ今は12月。僕は今通学のためにいつも乗る電車を待っている。あの日以前はいつもひとりで待っていたいつもの電車。でも今はとなりにマドがいて。朝はいつも一緒に通学・通勤するようになっていた。


 マドは今のところ増田さんから絡まれることもなく無事仕事を続けられていた。また、増田さんは遠藤さんからの噂のせいか学校で孤立状態でもあるらしい。まあ自業自得なのでしょうがないよなあと僕は気にしないことにしていた。


 そして、僕の両親にマドが会うというイベントについては特に問題もなく終わることができた。条件付きではあったが。

 母さんは「良かったわね」といつものお気楽な感じで、父さんには「お前は考え込んで失敗するほうだから年上の人のほうが良いだろうな」と言われてしまう。父さん、仕事で忙しくあまり合う機会がないにもかかわらずよく僕を見ているなあと感心してしまった。


 けれどそんな優しい言葉の後に父さんは「交際するのは構わない。ただし、早く一緒になりたいからと大学に行かず働くなんて考えは許さないよ。大学に行ってもっと見識を広めなさい。それはきっと優だけでなく彼女にとっても役立つはずだから。そういうことで大学に行くことを条件として認めるよ。優、よかったな。好きな人がそばに居てくれて。それは優にとってかけがえのない宝ものだよ。私の妻と同じようにね」と父さんは母さんを見て微笑みながら話してくれたのだった。

 

 ということで僕は大学を目指し勉強も頑張っているところだったりする。


 そうそうなぜ朝一緒にマドと一緒に向かっているかと言うと、マドは仕事の忙しさ等で僕と会う時間がなかなかとれないことに不満を持っていたことから僕が使う駅の側に引っ越してきていた。そんなマドに思い切りがあるなあと感心してしまった僕であった。


 まあ一緒に通勤・通学出来てその上会えるということは僕も何の不満もない、いや嬉しいことなのだった。




 電車が着き、僕たちふたりは電車に乗る。すると後ろから走って電車に飛び乗る人を見つけた。誰かと思えば智也だった。


「はぁ、おはようさん。はぁはぁ、ふたり揃って羨ましいですね」


 と息を荒げながらも少し茶化したように話しかけてきた智也。


「智也おはよう、まだ時間に余裕あるだろうにそんなに走っても来なくてよかっただろうに」


「智也くんおはよう。ここのところよく一緒になるわね? 彼女と一緒に行ったりしないの? 」


 と僕たちは智也に答えた。


「ああ、寧々は早いからね。流石に一緒に行くのは無理かなあ。走ってきたのは優たちと一緒に行けるならそっちのほうがいいだろと思ってね。まあおふたりにはお邪魔だったかもしれないけどさ」


 智也にそんな事を言われてマドは照れて顔を真赤にしていた。僕は智也に慣れているせいか受け流していたけれどね。


 そんな会話をしているうちに扉も締まり、走り出すいつもの電車。いつもの時間、いつもの車両。そしてひとりだったいつもが今では僕の横にマドが居ることがいつもとなった。


 電車が走っていく。僕たちをゆるり揺らして。


 しばらくすればマドが先に降りることになる。扉が開きマドは残念そうな顔をしながらも


「またね」


 そう言いながら僕の頬にキスをして走っていった。こらっ目立つことしたら駄目だってそんなことを思いながらもマドが走り去っていく後ろ姿を眺めていた。


「ラブラブですな」


 智也がひゅーと口笛まで吹いてそう僕に言ってきた。すると電車に乗っている他のお客まで騒いで僕をからかってくる。だから僕はこうなったらと


「みなさん、羨ましいでしょう。でも上げませんよ。僕の大事な人だから」


 と宣言して先程以上に騒がしくさせてしまったのだった。



 

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