閑話 あるマドの1日



 優と思いが通じ合った日の翌日の朝、白石 マドカは勤め先の学校へと向かった。そんな私の気持ちは優のおかげで夏休みの時期にあった憂鬱感や喪失感はなくなっていた。その上学校側に優との関係を伝えられるという幸福感まであり私はルンルンな気分だった。


 学校へ着くとすぐさま校長先生へと向かう。校長は出校時間が早いはずだから居るはずだと。そして校長室の扉をノックし入っていく。


 校長先生に優との関係を説明した。校長先生はちょっと困った顔をしていたが


「きちんとした交際ならなにも言えないんだろうね。ただし法律に触るようなことは絶対しないこと。そして、いくら清らかな関係と言っても周囲の目にはどう映るかわからないので気をつけてください」


 と私に言葉をかけてくれたのだった。




 その後は職員室で授業の準備をした。そして職務開始前の職員会議が行われる中で校長先生からの言葉の後に私自身から私と優の関係の説明を行った。


 はっきり言えば良い印象は持たれなかった。やはり教師としては高校生と交際するというのはなかなか受け入れられないのだろうなあと。苦言を言いたいという雰囲気の人もいた。けれど正式に結婚を前提に交際するという名目があるせいか言葉を飲み込んだという感じだった。


 そんな状況に私は思った。何を言われようとも思われようとも好きになったものはどうしようもないのだから。ただ好きになった人が高校生だったと言うだけ。高校生や年齢等関係なく優という人を好きになってしまったのだから。


 だから周りに受け入れられなくともこの気持は変わらないと私は気にしないことにした。



 

 そう言えば私の話も大きかったようだけれど、それとは別に昨日からある人の噂がたっていることを耳にした。近くの女子高生と交際していたにも関わらず二股をかけようとしバレるとその交際相手を捨てたという噂。職員室でなぜかその噂について話している先生方がいた。廊下を歩けば生徒たちもその噂で持ちきりのようで。


 それを耳にした私はどうしても増田くんにしか聞こえなかった。いや多分そうだろうと。


 というのも朝に優から私のことを心配してくれたようで連絡があった。その時に遠藤さんが私のような被害者が出ないようにと女子校で話を広めたらしい。


 それを聞いた私は本人が振られたのにみんなのためにそういうことをするって勇気があるなあなんて思ったっけ。


 そういうわけでそれがこの高校まで広まってきたんだろうなって私は気付いたのだった。




  ある教室に向かっている私。夏休みあれほど嫌になっていた人のいる場所へ。優と引き離した根本的な原因を作った人の近くへ。でも、考えてみると増田くんがいたから、遠藤さんと付き合ってくれたから私が優と会うことができたということも考えられるわけでとても複雑な気分にもなる。だって優が振られたから出会えたなんて考えてしまう私が嫌な女だって思えてしまうから。


 そんな複雑な考えをなんとか押し込みその教室へと入り、授業を行う。教科は数学。私は増田くんを見ないように授業を進めた。増田くんの私を見る目を見たくなかったから。


 授業が終わると私は即座に教室から出て職員室へと向かった。するとしばらく向かったところに後ろから声がかけられる。私が聞きたくなかった声が。


「マドカちゃーーん。今度またデートしよ? 」


 そんな事を言ってきた増田くん。私は振り向きもせず


「申し訳ないけど無理よ。私あなたが大嫌いだから。それにね。今日学校側へきちんと結婚を前提にして交際している人がいることを告げたから。あなたから脅されてももう言うことは聞かないわよ」


 と私が言うと増田くんは


「は? なんだよそれ? 俺、彼女と別れたのに」


 と言ってきた。私から「別れて」なんて伝えてないのになに勝手なことを言ってるのかしらと私は呆れてしまう。


「それにね、もしなにかあって学校を教師をやめないといけなくなったとしてもそれはそれでいいわ。彼の側にいることがいちばん大事なのよ。あなたみたいな脅したり、二股かけようとしたりする不誠実な人とは大違いでね」


 と私はそう伝えると


「くそっ言いたいこと言いやがって。はぁ別れた意味ないじゃないかよ。おまけに噂までたってるし。女子校の女達に嫌われたくなくて男でも俺を避けるやつもいるし……何だよこれ。どういう状況だよ、これは」


 と困惑したような感じでぶつぶつと呟いていた。


「自業自得なんじゃない? ということでもう関わらないでね。じゃさよなら」


 そう言って私は増田くんを無視して職員室へと向かっていった。これでもう関わってくることがないようにと思いながら。


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