第25話 智也くん



 僕は困惑していた。なぜマドが? と。普通なら学校へと向かっていないとおかしいマド。それがなぜ今ここに? そんな僕を他所に……


「はぁ……やっと会えた。やっと繋がった。ほんとに何してくれてんのよ、優は」


 と一気に捲し立ててマドはそう言った。


「上手く行ったなあ。マドさんが来れるかどうか不安だったけど」


 と横で智也が意味がわからないことを呟いていた。


「上手く行った? 」


 と僕が疑問に思いそう呟くと


「ああ、優は言ってただろう。学校に行くしか連絡をつける手段がないって。その事を考えてたらさ。なら学校に電話すればいいじゃんって思ってね。マドさん……白石 マドカしらいし まどか先生に連絡を入れたってわけ。ちなみに名前はマドさんの学校に行ってる友人に聞いておいた」


 と智也は何事もなかったようにそう僕に答えた。


「君が石井 智也いしい ともやくんね。智也くん……優の大事な友達。本当にありがとう。優に会えないだけでなく連絡がつかないことがこれだけ辛いなんて思ってなかった……そんな時にあなたから連絡があって。嬉しくて。また会えるって。だから決心がついたの。教師なんて立場より優のほうが大事なんだからこの機会を逃しちゃ駄目だって」


 話の様子を考えるとどうも智也がマドに連絡をとってくれていたみたいだった。ほんとおせっかいめなんて思いながら


「智也? 」


 僕はマドに抱きつかれたままながらも智也をジト目で見つめていた。


「はははっいいだろ? また大事なものを失うなんて辛いだろ? それにさ、優。お前だけじゃなかったんだよ。会いたいって思っていたのは。マドさん人目も気にせずお前に抱きついてるだろ? 見てるこっちが照れてしまうくらいだよ……ほんと」


 とマドはその言葉に電車の客が生暖かい視線をこちらに向けているのに気付き、照れて急に僕を離す。


「あっ離しちゃ逃げちゃう」


 けれど逃げられないよう僕の手を握りしめ直す。いや……逃げるところなんてないよなんて僕は思ったが。


「優、おまえどうする? 風邪でも引いたんじゃないか? 俺が先生に伝えとこうか? 今日は休みますって? 」


 智也は僕にサボれと告げるようにそう伝えてきた。うん、ここまでされたら僕もきちんと話をしなければいけないよと


「ああ、智也。頼んでもいいかい? 」


「あいよ、任された。あっただし家の方は後できちんと連絡しとけよ? 母さんに心配はかけないようにな」


 と智也は親指を立てて了解の意思を表しながらそう言ってくれた。




「マド……とりあえずどうする? 」


 僕がそう言うと


「優……教師なのにごめんなさいね。でも、この機会だけは逃せなかったから……バレてもいいの。会えない、関わりを失うくらいならバレてもいいの」


「マド。もういいから。僕も会えて嬉しいんだからさ」


「うん。ねえ? だったらあの海に行かない? ふたりが出会えた場所に」


 マドはあの海に行きたいと僕に伝えてきた。だから僕は


「うん。いこうか。この電車に乗って」


 そうマドに答えたのだった。




「ふぅ……上手く言ってよかったけれど……見てるだけでこっちまで照れるな、これ。まあ優にマドさん、頑張ってよ。幸せになってくれよ」


 呆れながらも智也は降車する駅を待ちながらも俺達を見てそう呟くのだった。

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