第23話 呼び出し
その後の僕はしばらくは抜け殻のように家で過ごしていた。心配なのだろう智也からたまに誘いがあったりしたけれど僕は申し訳ないと思いながらも断っていた。そして家でただぼーっと過ごしていた。
母親も部屋にこもってばかりな僕を心配してたまに声をかけてくるが、その時の様子を見みては「ゆっくり休みなさいよ」と心配しながらもそっとしておいてくれた。母親にも見てわかるのだろう落ちこんでいる僕のことが。
夜になるといつもマドとやり取りをしていたからかどうしてもマドのことを思い出してしまう。もうできないと分かっていながらも。そしていつまでも未練がましいなと布団を被り眠りにつく……しばらくはそんな日々だった。
そういえば智也から遠藤さんと増田さんが別れたと聞いていた。結局遠藤さんは増田さんに伝えはできたけれど話にならなかったらしい。増田さんは遠藤さんに対して開き直り詫びもせず別れを切り出したということだった。
本当に遠藤さんもそんなやつだなんて思ってなかったんだろうなって同情してしまう。なんとかこの別れを乗り切ってくれたら良いなと思った。そして、マド……別れたということならこれからマドに対して増田さんが向かっていくことになるかもしれない。マドも乗り切ってくれたら良いなって思った。どう選ぶかはわからないけれど……
うん。もう思うことしかできない。考えることしかできない。僕にはもうなにもできないのだから。
さて、落ちこんでいても時間はどんどんと過ぎていきあっという間に夏休みが終わりに近づいていく。
時間が心を癒やすというのは本当らしく僕も次第に少しずつ持ち直し、母親も安心してくれたかなって思えるくらいにはなれたかなと思う。家でゴロゴロは変わらないけれど、部屋から全く出ないということはなくなってきた僕。だってすこしでも前を向き始めないといけないって僕でも流石に分かっているから。
夏休みも後2日という頃にどうしてもお礼が言いたいと遠藤さんから呼び出されていた。智也から連絡を受けて前回の時は僕から呼び出した手前もあり断るわけにはいかないなと了承し今駅前に居た。
するとしばらくすると遠藤さんがひとりでやってきた。
「お待たせしました。呼び出してごめんなさい。どうしても会ってお礼を言いたかったから」
と遠藤さんは言った。僕は
「ううん。お礼を言われる筋合いはないよ。僕はあの時酷いことしか伝えてないから。聞けば遠藤さんが悲しむことしか話をしてないし」
と告げると
「ここではなんだし少し歩きましょうか? 」
と特に行くところもないのでぶらぶらと歩きながら話をすることにした。
もし遠藤さんが好きだったあの頃なら今僕は大喜びしていたことだろう。でももう僕の心には遠藤さんはまったくいなかった。いるのはマドだけ。もう喜ぶなんて気持ちは全く現れないなんてほんと心って不思議なものだと思いながら一緒に歩いていった。
遠藤さんは増田さんとのやり取りを説明してくれた。話自体は智也から聞いていたことと同じだった。
「彼と話をしている時点で私なんでこんな人が好きだったのだろうってその時泣いてたのに涙が止まってしまうぐらい彼に対して落胆してしまいました。こんなにあっさり彼に対しての思いが無くなってしまうなんて……いえ嫌悪に変わってしまうなんてちょっと自分がわかんなくなってしまいました」
「人の心なんてなにかのきっかけで変わってしまうことってあるよ。僕もそうだったし」
僕がそう言うと
「山下さんもそういう事があったんですか? 」
と遠藤さんは聞いてきた。それはあなたへの思いですよと言いたくなったけれど話しても今更だって思いそのことについては口をつぐむことにした。
「ええ、想い人に振られまして……その時ですかね。まあ、変わったのはその落ちこんでいる時にマドカさんに助けて……支えてもらったって言うのが大きかったかもしれませんが」
と遠藤さんのことはぼかしてマドとのことを思い出しながらそんなことを遠藤さんに伝えた。
「私以外もそういうことがあるんですね。私って冷たい人なのかなって不安になってたんて……ちょっと安心した気分です」
と笑っていう遠藤さん。ほんと遠藤さんは吹っ切れているんだなって思える笑顔な気がした。
「でも……マドカさん羨ましいですね。山下さんにあんなに思われていて……今度は私もそんな人と出会えるよう頑張りたいなあ」
遠藤さんはそう言った後
「そしてありがとうございました。たとえ山下さんが自身のためと言っても話のおかげで私がつまらないことにはまる前に抜け出すことができましたから。これからはもっと内面をもっとしっかりと見ていきたいなって思います。頑張ります」
と僕にそう告げたのだった。
それを聞いた僕は……「マドに一人でも大丈夫だよって言えるように」って思ってたんだっけとそんなことを思い出した。
離れられるように頑張るってマドに伝えていたんだっけと。
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