第02話 沼にはまる前に



 僕は初めてあったこの年上の女性に今日あった出来事を素直に話していた。普通ならそんな事はきっとしないだろうに。

 それでも話してしまったのはひとりでしまっておくには辛くて吐き出してしまいたかったのかもしれない。


 年上の女性は途中で口を挟むこと無く最後まで聞いてくれた。そんな年上の女性が今の僕にはとても温かく感じた。


 話し終えると僕の頬には流れるものがあった。ほとんど接点のない一目惚れの彼女にここまで惹かれていたのかと理解する。


 そんな僕の頬に手が当たる。年上の女性の手だ。流れるものを拭ってくれて……




「そんなに惚れていたんだね。一目惚れってやっぱりあるんだなあって君を見て理解しちゃったよ。でもさ、こんなこと言ったら君は怒るかもしれないけれどこの程度で済んでよかったと思うよ。もっとその一目惚れの娘を知ってしまっていたらきっとこの程度じゃなかったでしょ? 悪い言い方だけど彼氏がいるって早く分かって良かったんだと思う」


 この言葉を聞いて心の整理がついていない僕は最初ムッとしてしまった。だってその言葉はさっさと諦めろと言っているようにしか聞こえなかったからだ。でも思わず睨んでしまった時、年上の女性は寂しそうなそして僕を包むようなそんな顔で見てくれていたんだ。

 それを見てしまうと別に年上の女性が意地悪で言ったわけでないことがわかる。僕に元気になってほしいと思って言ってくれたって事だってわかる。


 我に返った僕は


「彼氏がいればさすがに諦めないといけないんだよね。あなたの言う通り深みにはまる前……まあ片足以上突っ込んでたと思うけど早く分かってよかったんだろうね、きっと」


 と精一杯やせ我慢をしながら僕は年上の女性にそう言葉を返すのだった。




「ごめん、名前を聞いても良い? 呼び方わかんないや。僕は優」


「まさるね。私はうーん、「マド」って呼んで。まどかだから。名前だと呼び捨てしにくいでしょ? 」


 そう言って微笑んでくれるマド。




 それからなんとなくふたりで他愛のない話をした。マドが住んでいるのは一目惚れの彼女の学校の近所らしい。今日はたまたま親から呼び出されて地元に帰ってきていたということだった。


「まだ23歳なんだけどなあ。早すぎだと思わない? でも親は心配性なんだかわからないけど早く結婚しろ結婚しろってうるさくてね。今日も見合いしろって……ね。でもさ。私高校からずっと女子校だったんだよね。そうすれば男の人との付き合いとか殆ど無いでしょ? おかげで慣れなくてね。あっ話したりが苦手なわけじゃないよ。なんていうかジロジロ見られるのが苦手でね。なんで男の人ってあんなにジロジロ見るんだろう? 」


 なんて言うマドに


「マドが綺麗だからでしょ? 男の人って綺麗な人には目がないもんだよ、きっと」


 と僕がそう返すと


「ん? でも優はジロジロ見てないよね? ということは優は私を見ても綺麗とは思わないってことかな? 」


 なんてマドは尋ねてくる。


「いや綺麗だと思うよ。多分今は落ち込んでてそんな余裕がないだけじゃないかなあ。普通なら見てるかもしれないよ? 」


 と僕がそう返すと


「ふふふっ優も私を綺麗だと思ってくれているのね、安心したよ」


 そう言って笑うマドは今の僕でもわかるほどに綺麗に見えたのだった。

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