第8話

わからないまま

私も仕事に戻った


グッズ販売のブースを

のぞいたり、

会場のスタッフの

配置を見回ったりした


ライブ中の彼は、

やっぱりかっこいい


さっきまでの

モヤモヤを取っ払うくらい

素敵だった


ファンとして

座席から応援するより

近くに行きたくて

この仕事を選んだ


だけど

実際の仕事は

ライブ会場の中で、

P席に座っていたときより

ずっと彼から遠くて、

近づくとは無縁だった


ライブはその日ごとに

違うから、

仕事も大変で

辞めたいと思ったことも

何度もあったけど、

どんな仕事であれ、

彼のライブに

携われることだけを

誇りに

続けてきた


そんな私が

なぜ彼に急接近したのかと

言うと…


数日前、

仕事終わりに

同僚と飲みに行った店で、

偶然、上司に出くわしてしまった


もう酔っていて

よくわからないまま

連れて行かれた別室


同僚と

運の悪さを恨んだのは

一瞬で、

個室のドアが開かれ

奥に座る彼を見つけた途端

思わず息を飲んだ


ツアーの打ち合わせ後の

飲み会の場に

連れてこられたんだ…


ツアースタッフとして

紹介をされて

その場に入れてもらった


でも、突然のことに、

彼の隣など行けるはずもなく、

話すことすら出来ないまま

ただただ

この場にいる有り難さを

噛み締めながら、

彼の一挙手一投足

逃さぬよう

見てた


いつもより

美味しいお酒だった


何杯飲んだかわからないし、

隣の人とした会話も

記憶にない


ただ飲みながら、

彼を見る幸せを感じていた





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