第5話

リハーサル後の彼に呼び出されて、

なぜか今、

何もない部屋に、

彼と2人きりーー


メイクや衣装が置いてある

楽屋とは別に、

本番前に彼がひとりで

過ごす部屋があると

聞いたことがあった


ライブ前、

気持ちを作るために

彼が篭る部屋。


きっとそれが

ここだ。


どうして呼び出されたのか、

どうしてここに居るのか…


私は彼との約束を守っている。


彼との夢のような一夜を

誰一人として口外したことはない


なのになぜ?


私は何かしてしまったのだろうか…


恐縮する思い。


静かな空間で、

ふーっと溜息をつかれて

余計に緊張が増した。


「俺のこと、避けてる?」


予想外過ぎて、

聞き間違えたのだと思った



「ん?え?…え?」


彼はいたって普通に

もう一度同じ質問をする


「俺のこと、避けてる?」


…避けてる?…いや、


「避けてません」


「目が合っても、無視したり」


無視?


「してません」


そもそも、

目が合う距離にいたことないし。


「してる」


「!?してません。

そんなに近くで

お会いしないじゃないですか。」


つい言ったら、


「やっぱり。避けてるから?」


え?何?


「避けてないです!」


「近くにいないのは

避けてるからじゃない?」


「そうじゃなくて…仕事の配置が

そうだからです。

それも私が決めたわけではなく、

上司からの指示でそうなっています!」


これ以上はないだろう。

私が配置を決めているわけでは

ないのだから、

意図的に避けたりしていないと

伝わったはず。


彼はそれに関しては

納得したようだった


「会いに来たりしないんだね?」


後から知ったことだけど、

彼と関係をもった女性は

誰であれ、

秘密は守っても

態度は〝私の男〝〝知ってる仲〝と

手を振ったり、アイコンタクトをしたり

彼に近づくものなのだとか。


私はそれをしなかったから


「〝何もなかった…〝方がいいんじゃないですか?」


誰にも知られないようにーー



私は気づいた。


彼は職業柄、人に嫌われることを

酷く怖がっているんだ


人気商売だから、

どこで誰に嫌われるか

それによって出る影響が

怖いのだ

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