第33話

瞼に落ちる強い日差しで護は目を覚ました。

 体中を走り抜ける柔らかい脱力感が抜けると護は腕を動かした。そしてそこに残っているはずの温もりが消えていることに気付くと急いで身体を起こした。

 アトリエの中には誰もいなかった。

(あれ?頼子さんは・・?)

 護は服を着ると外に出た。眩しい日差しに目をしかめた。

(母屋だろうか・・?)

そう思って母屋を見たが、人の気配がしなった。

昨晩、護は頼子を抱いた。腕の中で美しく消えて行く流れ星のような頼子の温もりがまだ腕の中で残っている。

(どこへ・・行ったのだろう。まだ汽車の時間ではないはずだけど)

 護はそう思うとアトリエに戻った。そして昨晩描いた絵の前に座った。

(ん?)

 護は絵の所に裏を向いて置かれた二枚の封書を見た。

(これは・・?)

 封書を表に向けると両方とも自分宛の名前が書かれていた。

 一枚は明らかに頼子の筆跡で、もう一枚は兄の筆跡だった。兄の封書は頼子の封書と比べると分厚かった。

 不意に昨日の頼子の態度が思い出された。

 昨日の頼子はどこか護から見ると焦りがあるようでおかしく感じた。

(やはり・・何かあったのだ)

 護は頼子の筆跡の封書を静かに開けると中に丁寧に折りたたまれた便箋を取り出した。

そしてゆっくりと読み始めた。

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