第24話

権田少年は体力を取り戻し、やがて憲介と一緒に神戸へと向かう日が来た。

去り際に少年は玄関に見送りに来た全ての人に丁寧に別れの挨拶をした。

「このご恩は一生忘れません」

 少年ながら大人びた眼差しで皆に言う言葉にこれからの戦後を生きる少年の希望を護は見た。

 数日を過ごしただけだったが洋一郎と権田少年は強く握手をすると何も言わず無言で抱き合った。

 洋一郎の頬を涙が伝っているのを見た頼子が目頭を押さえる。 誰もがその光景に目頭を押さえることができなかった。

「洋一郎君、また会えるかな」

 少年は洋一郎の背から手を放すと後は無言で頷いた。

 そして頼子と護の前に立った。

「護さん、向日葵の絵。ありがとうございます。戦後の野原に輝く太陽のような絵を沢山描いて下さい」

 うん、と護が頷く。

「次、会う時、二人はもう結婚しているかな」

(え・・)という表情で護と頼子がお互いを見て少し頬を染めた。これは少年なりの心配りだと、直ぐに二人は気が付いた。

 少年はそんな二人を見てはにかむ様に笑うと憲介が待つ車に乗り込んだ。最後に乗り込む前、全員に対して深くお辞儀をした。

 車が進みだすと洋一郎が後に続くように走り出す。

「清君!」

 その声に権田少年が窓から顔を出した。

「また会おう!それまで元気で!」

 手を振る権田少年を乗せた車が埃を立てながら荒れた道を進むのを全員が見送った。

 そして少年が去ってから時代が幾年か過ぎて行った。

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