第21話

「護さん!」

 少年の声に護は振り返った。

 新しい土を崩れた屋敷の土塀に塗り込みながら護は憲介の息子の洋一郎少年が駆け込んでくるのを見た。

慌てているのが見て分かった。

「どうしたの?洋一郎君」

「子供が、僕と同じ頃の子供が門の前で倒れているのです」

「え?」

 それで護は横に居た頼子の方を見て、急いで門の側まで駆け寄った。

 頼子も同じようについてゆく。

 門まで来ると確かに少年が倒れていた。

 護は直ぐに少年の側に寄り、地面にうつぶせになった身体を抱きかかえると声をかけた。

「おい、君。どうした?大丈夫か?」

 身体を少し揺さぶられた少年はそこで薄く目を開けた。そして右手を上げて「火を・・少し火を貸してくれませんか」とか細い声で言った。

 それは先程まで芋を握りしめていた手だった。しかしそこにはわずかな土の塊があるだけで何も無かった。

少年は朦朧とした意識の中でそこにあるはずの小さな芋を見たのかもしれない。

護は頼子の方を振り返って「水を」と言った。頼子はそれで奥へと走り出した。

「おい、しっかりしろ。もう大丈夫だからな。安心しろ」

 それを聞いて少年は閉じられた瞼から細い涙を流した。

 急いで頼子が屋敷の奥に走り水をコップに入れてそれを少年の口を開いて飲ませた。

 少年の喉が動くのが見える。

 洋一郎が護に言った。

「これを持っていたの」

護はそれを手に取った。

小さなやせ細った芋だった。

奥から表の騒ぎを聞きつけた憲介が出て来た。

護が少年を抱えているのを見て、驚いたように聞いた。

「護君、その子は?」

 少年を頼子に任せると洋一郎から芋を取り出し、憲介の目の前に出した。

「お父さん、どうやらこの少年、芋を焼こうとして火を借りに来たようです」

門を出て洋一郎が荷物を持ってきた。

「これ、あの子のものでしょう」

 憲介と護が荷物を見て少年を見た。

少年は所々泥で汚れ、左頬に大きな青痣が在った。

 憲介は洋一郎を見て頷くと護に言った。

「護君、この子は空腹で倒れたのだろう。屋敷に入れて布団を敷いてくれないか。それに頼子さん、すまないが家内に言って何か食べ物がないか聞いておくれ。洋一郎、お前は風呂の準備だ」

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