第4話 食べ物につられる
支部を出されて数時間が経った。
アイナとヴェンの食料は尽き、無我夢中でこの都市に向かってきたため空腹が二人を襲っていた。
「お恵みを〜」
「アイナにごはんをわけてくれませんか〜」
二人はというと目の前を通る通行人に物乞いをしていた。
二人の献身的な物乞いは何人かの通行人の心に刺さりどこかのパン屋で買ってきたパンを置いてくれるなどなんとか食べ物をゲットできていた。
「なぁ兄さんら何してるん?」
二人でギルド協会支部の入り口付近で座っていると横から女の子が話しかけてきた。
その女の子は長い茶色の髪を左右二つで結び、少し丈が短いトップスに短いズボンといった腹部の露出が特に目立つ格好をしていた。
「ん? お前もご飯分けてくれるのか?」
「ありがと〜アイナうれしい!」
二人はその女の子も自分たちに食べ物を分けてくれると思い、皿を女の子の目の前に出す。
「いやいやそうじゃないんやけど……」
「なら何のようだ! まさかお前も物乞いか!?」
「アイナ、まけないよ!」
「ほんま兄さんら大丈夫か? 安心せぇウチはそんなもんじゃないから」
敵対した目で見てくる二人をなだめるように女の子は落ち着かせる。
「なんやさっき受付嬢と揉めとったから何があったんやろと思ってな」
「あぁ……そのことか。俺たちギルド作ろうと思ったのにメンバーが足りないから追い出されたんだ」
「へぇ〜兄さんらギルド作るんか、そりゃ大変やん」
「そうだ! お前で良いから入れよ」
「……お前でって言葉が気になるけど。残念、そりゃできんわ。ウチもう他のギルド入っとるし」
「なんだよ、じゃあどっか行けよ」
「切り替え早いな! 兄さん」
あっち行けと手でひょいひょいとヴェンは促すと女の子は呆れてヴェンの隣に座る。
「ウチの名前はミュラーや、よろしゅう頼むわ!」
「……物乞いのライバルに俺らは名乗らなーー」
「ーーあのね! アイナはアイナっていうの! よろしくね!」
「…………」
「えーと……こういう時、ウチどんな表情すればいい?」
「……何も言うな。……あと俺はヴェンだ」
ヴェンは真顔で今さっきの発言がなかったように振る舞った。
ミュラーと二人は少し雑談をしていると支部から何やら大きな声で騒いでいるのが耳に入った。
「…………!」
「…………」
「ん? なんや中で誰が揉めとるな?」
「ん? どれどれ」
三人はそろ〜と入り口から顔を出し支部の中を見ると、
「お願いだ! オラ達の村を助けてくれ!」
「それで? 依頼金は?」
「そっそれは……その、金目のもの何て無くて……」
「あぁ?」
「話になんねぇな、金ないならどっか行けよ!」
机に座ってる三人の男に背丈が小さい大きなリュックを背負った青年が何やら頼み事をしていた。
三人の男はというとどこかのギルドのエンブレムが入った服を身につけており、腰には標準なハンドガンを身につけていた。
頼み込んでいる青年はというとどこか田舎臭そうな服装で気弱そうな表情を見せている。
「そっその代わりにオラ達の村で取れた新鮮な野菜なら……」
小さい青年はリュックから大きな球型の野菜を取り出した。
「ハハハ! そんなもんで埋め合わせできるわけないだろ!」
「あっ! ちょっ……!」
一人の男がその野菜を奪い取り地面に叩きつける。
「こんな……! 簡単に……! 壊れるもんじゃ無くてな……! 金とか貨幣持ってこいよ!」
「あ……あぁ……」
その男が何度も何度も野菜を踏みつぶすとブシャ! ブシャ!と音を立てながら野菜は細々とぐちゃぐちゃになった。
何も出来ずその光景を見ている小さな青年は涙を見せ始めた。
「あちゃーギルドの良くないところが出てもうとるがな。兄さんも気をつけな、あぁいう奴らに絡んだらえらいめんどいことに……」
「なぁミュラー、アイツら何踏んでるんだ?」
「んー? 遠くから見えるぐらいだけどなんかの野菜やな?」
ミュラーは目を細めると確かに男達は何やら野菜らしき何かを踏み潰していた。
それを確認し、視線をヴェンのいたところに戻すと、
「あれ? 兄さんは……?」
「おにーたんならあそこにいる」
いなくなったヴェンの姿を追うようにアイナが指を指した方をミュラーが見る。
「へぶ!? なんであそこに!?」
ミュラーが驚くのも無理はない。今さっきアイツらと関わるなと警告しておいたにも関わらずヴェンは既にその男達の近くにいたのだ。
「オラッ! オラッ!」
「やっやめてくれ!? オラ達の村の大事なものなんだ!」
「知ったこっちゃねぇよ!」
「……あのさ?」
男達が野菜を踏みつぶしているとヴェンが声をかけた。
「あ? なんだ? がきんちょ!」
「見せもんじゃねぇぞ? コラッ!」
「ちっ! クソみてえな野菜踏んじまったおかげで靴が汚くなった!」
「片付けとけよ!? 田舎もん!」
「あ……あぁ……!」
男達が笑っているとそれと相反するように小さな青年は大切な野菜を踏みつぶされ、侮辱されたためか涙を流す。
「ったく、野菜の片付けは田舎もんの得意分野だろ? だから早くーー」
「んーと……とりあえず……よいしょーー!」
「ぐぼはぁ!?」
一人の男が喋っていると一瞬でその男の姿はその場から消えた。
気がつけば男は支部の壁にぶっ飛ばされていた。
残された男たちが確認すると今さっきまでその男のいた場所にはヴェンが拳を出していたのだ。
今、一度男達は認識した。
この少年が仲間を一発の拳で壁までぶっ飛ばしたのだ。
「こっコイツ、なっ何しやがる!?」
「てってめぇ!? よくも俺らの仲間を!」
「何してんのか分かってんのか!?」
「お前らこそ何してんだよ……俺とアイナがーー」
二人の怒号を打ち消すようにヴェンは叫ぶ!
「ーー俺とアイナが空腹だってのに美味そうな食べ物を潰しやがってぇぇ!」
「なんなんその理由!?」
ミュラーがその声を聞いて遠くからつっこむ。
入り口付近にいたミュラーに届くほどヴェンの声は響いたのだ。
「何言ってんだコイツ!? 頭おかしいんじゃねぇか!?」
「おい、コイツやっちまおうぜ!」
「おうよ!」
合図とともに二人の男は腰には身につけていたハンドガンをヴェンに突き出す。
そのハンドガンは威力ではショットガンなど他の武器よりも見劣りするところがあるが人を殺すには十分な物だった。
「ヒィィィィ!!」
「…………」
ヴェンの後ろにいた小さな青年は突き出されたハンドガンを見て悲鳴をあげ大きなリュックを盾のようにして身を潜めた。
ヴェンはというと悲鳴をあげるどころか黙り込んでいる。
「へへ、ビビって声も出ないか? 言っとくがなコイツはマジの銃だぞ?」
「御託はいいから早く撃てよ」
「なっ!? なっなめてやがんなぁ?」
「言っとくが、撃つ奴は撃たれる覚悟のある奴だけだからな。そこんところ分かってんだろ?」
ヴェンはビビるどころか銃を持つ相手に挑発紛いのことをしている。
「おい! びびるこったねぇ、撃っちまえ!」
「あぁ! うらぁぁ!」
バァン! と轟音がした。ハンドガンは正常に放たれたのか銃口から硝煙が出ていた。
しかしながら実際に放たれた弾はというとヴェンの身体を貫……かず、ヴェンと銃を放った男の間の地面にコロンと横たわっていた。
「は? 誤作動ーー」
「ーーせーの、よいしょーー!」
「おぼはぁ!?」
ヴェンはすぐさま銃を撃ったその男の顔面をぶん殴り、さっきの攻撃で壁の近くで倒れている男を目掛けてぶっとばした。
「ったく、何やってんだ! ちゃんと銃をメンテナンスしとけって言っただろ!?」
「さて、あと一人……」
「へっ……アイツとは違って俺はちゃんと撃てるからな? 安心しろ?」
そういう男は隣の誰もいない机に目掛けて銃を撃った。
ガシャン! という軽快な音がしてグラスが割れる。
『きゃーー!』
『おいおい、なんだなんだ!?』
その銃声とグラスが割れた音で周りの人達も騒ぎ始めた。
「ほらな?」
男は得意げな顔を見せてすぐさまハンドガンでヴェンの頭を狙う。
「これでしめぇだ!」
男が叫ぶとヴェンはなぜか笑っていた。
「ハハハ! あのさ一つ言っておくけど、昔の時代、銃は世紀の発明と言われたのは知ってるよな。--鉛玉一発で簡単に人を殺せるんだから……」
「へっどうした? 気でも狂ったか?」
さっきまで静かにいたヴェンが急に流暢に話し始めたのを見て男は少し不気味がった。
「……しかし今では魔導銃が主流になった。なぜなら魔力を媒介としている魔力弾の魔導銃より火薬だけで普通の鉛玉を放つ銃の方が……」
「死ねやぁぁ!!」
男は銃の引き金を引いた!
「……止めやすいから」
ヴェンは銃が発射される寸前、右手を出した。
バァン! と轟音が再び鳴る。ハンドガンが正常に機能を発揮したのだ。
しかしその銃弾はというと……。
「あ?」
「なんやあれ!?」
男とミュラーの目には不思議な光景が見えていた。
確かに銃口から銃弾は放たれた。
しかしその銃弾はヴェンの身体を貫くどころかちょうどヴェンと男の間の空間……空中で静止していたのだ。それはまるで時が止まったように、銃弾が何かで抑えられているのだ。
「一方向から飛んでくる鉛玉を止めるくらいわけない」
「なにが起きてんだ!?」
「そして……引力を逆に向ければ」
ヴェンは出していた右手の人差し指を男の方に向けると、銃弾はなにかの力に引かれ、元あったハンドガンの銃口に戻っていく。
「はい、綺麗に片付けれました!」
「な!?」
「そして、よいしょーー!」
「へぶはぁ!?」
ヴェンの拳が唸り、男は壁に吹き飛ばされた。その反動で三人の男は同じところにまとめられた。
「ふぅ〜野菜の片付け……じゃなくてクズの片付けは終わりっと」
手をパンパンと叩き、ヴェンは笑っていた。その様子を見るとすぐさま小さな青年はヴェンの手を握る。
「あっあの……ありがとうございます!」
「あのさ、礼は良いからこれって食べていいか?」
「いや……流石にここまで踏まれたのだと……」
「そっか、確かにここまで細かくなったら食べ応えないよな」
「そっそういう問題じゃ……」
小さな青年が戸惑っていると、ゾロゾロと男達が走ってくる音が聞こえた。
『おい! 何の騒ぎだ!』
見ればギルド協会の警備員達が騒ぎを聞きつけて集まってきたのだ。
「あかん! 兄さん、協会の警備や! この場から逃げよか!」
「ん? なんで?」
「なんでもや!」
「あはは! アイナもおにごっこするぞー!」
ミュラーはアイナとヴェンの手を引っ張り警備に顔を見られないようにすぐさま支部から出て行った。
「アイナ! おにーたん、食べ物を大事にしないやつをぶっ飛ばしたぞ?」
「うん! えらい! おにーたんえらいよ〜!」
「ハハハ! だろぉ!」
「んな事言っとる場合ちゃうてぇ!」
「あっオラも行きます!」
大きなリュックを持ってその小さな青年も三人と共に立ち去ったのだ。
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