第3話 ギルドを作ろう!
「アイナ……お兄ちゃんはもうダメかもしれない……」
「おにーたん、アイナもね……ダメかもしれない」
ある建物の入り口付近でうずくまっている男女がいる。その二人は顔色がやつれ、今にも倒れてしまいそうな表情だ。その建物を通り過ぎる人たちもなんだか同情してしまうような感じで……。
「「お腹空いた……」」
二人のお腹が『ぐー』と叫び声をあげている。
「アイナのおなかさん、もうくっついちゃってるよ……」
「奇遇だね、アイナ、俺のお腹もスカスカでくっつきそうだよ」
二人はお互いにお腹を触りながらその建物の目の前にある出店の美味しそうな肉を羨ましそうな目で見ている。
さて、どうしてこの二人がこんな状況に陥っているかというとそれは話し始めると数日前の話で……。
******
「--それで聞きそびれたがお前さんたち、ギルドはどうするんだ?」
「んーと、今あるギルドに入るのも嫌だから新しくアイナと一緒に作ろうかと」
「はい、アイナ! おにーたんとぎるどつくります!」
元気にアイナが手を挙げるとヴェンはそのアイナの頭をポンポンと優しく撫でた。
[闇夜の狼]との一悶着から数時間後、マスターのご厚意もあってしばらくの間ヴェンとアイナは酒場にいて食事をとらせてもらっていた。
そもそも酒場をめちゃくちゃにしたのでヴェンはすぐに追い出されると思っていたのだがマスターはヴェンのその強さに惹かれしばらくの間、店を閉めて話をしていたのだった。
「なるほど、でもギルド登録となるとこの町だとできねぇな、隣の都市までいかねぇといけないから」
「え、ここではできないのか?」
ヴェンはマスターからもらった水を飲みながらキョトンとした顔を見せる。
「お前さん本当に何も知らねぇみたいだな。いいか? ギルド登録は基本ギルド協会支部で行うんだ。ほんでもって登録されてギルドに所属していればここの酒場とかの依頼も受けられる」
「そうだったのか……。王国にいる時はギルドなんて存在知らなかったからな」
「まぁそりゃそうだろ。基本王国とギルドは無関係、一線引かれた関係だからな。王国の権威はこの大陸だけ、でもギルドの権力は他の大陸でも伝わるから、ギルドの方が割とお得だな」
マスターは得意げな顔をしてグラスを拭いている。
マスターの言う通り、この大陸ではギルドに入るか、元々ヴェンが所属していた王国騎士団に入るかと二つの道が存在している。
王国騎士団直下の職に就く、簡単に言えば大陸内で手厚い支援などを受けられる。
それとは反対にギルドに入れば微量なギルドの支援だが他の大陸でも依頼を受けられるなど両者ともにいろいろなメリット、デメリットが生じる。
しかしながらマスター的に仕事は基本的にギルドがないと出来ないためギルドの人員を増やそうとしたいのである。
「他にもギルドは基本どんな奴でも入れちまう。王国に追われる犯罪者だろうが」
「へぇ〜そうだったんだ」
「そこんところがなんだかんだ王国とギルドの確執に繋がるんだがな」
ギルド協会の規則では基本的にギルドに所属できる者は身分や過去の遍歴が無視される。
自由をモットーにする動きによってこの規則は生まれたのだ。ただ実際、犯罪者も入れると言うがそもそも犯罪者を入れるギルドはあまりないわけで……。
「おにーたん、はんざいしゃって?」
「んー。悪い事した人たちかな?」
「えー! こわい! アイナ、はんざいしゃこわいっ!」
「ちょっとマスター、アイナを怖がらせるなよ」
「理不尽すぎないか!?」
アイナが半泣きをしてヴェンが戸惑っている。少ししてヴェンがアイナをあやすと徐々に場の空気は元に戻ってきた。
「……まぁとりあえずギルドに入っちまえば依頼は受けれる。そしたらお金が手に入るぞ?」
「そしたら美味しいご飯も食べられるよな!?」
「あぁもちろん、腹一杯食えるぞ?」
「うまうま!? うまうま!?」
ヴェンとアイナはバーカウンターで前のめりになってマスターを見ている。
「ふかふかのベッドや暖かい部屋に泊まれるんだよな!?」
「あぁもちろんもらえる金額によっては豪華な部屋に住めるんじゃねぇか?」
「ふかふか!? ふかふか!?」
もはや二人の目はお金の形に変わっているようにマスターの目には見えた。
「よーし! アイナ、絶対ギルド作ろう!」
「うん! おにーたんといっしょにつくる!」
『えい、えい、オー!』と二人でガッツポーズをするのを見ると少しマスターは笑いながら奥のキッチンに入っていった。
そしてマスターがバーカウンターに戻ってみると……。
「そういえばお前らギルドを作るにも条件が……あれ? アイツらもう行っちまったのか?」
マスターは店の中を見渡すと二人の姿はもうすでになくなっていた。
「……ったく、アイツらあのままじゃギルドを……」
一人ポツンと寂しくなったマスターのため息が店の中に響いたのだった。
******
大陸から南に位置するアドラス地方……王国から距離が離れているため辺境の地と言われている。
王国の権力があまり行き届いてないのか他の地方に比べてギルドが多く点在しており、そこら中にどこぞのギルドに所属している者たちがいるのだ。
アドラス地方の東に位置するカーナーンは通称『荒くれ都市』と呼ばれている。王国にいる貴族たちが偏見も兼ねて名付けたとされているがその由縁はひとえにギルド協会支部があるからであり、大陸には唯一この場所にしかないためにそう呼ばれている。
実際にギルドが依頼を受けるのはどこでもできるのだが、ギルドを創設させるにはこの都市でしか出来ない。
荒くれ者たちが在籍する組織がこの都市で生まれる……王国の貴族からはそんな都市がある事自体毛嫌いしているので『荒くれ都市』と言った名前をつけているのだ。
カーナーンの街並みといえば、『荒くれ』という言葉が霞むのどの活気があり、人々が集まる栄喜な都市である。
そしてその『荒くれ都市』に二日と一時間をかけ歩いてきた二人組がいたのだ。食べ物もそこをつき、寝る道具もなく野宿をするのが当たり前のその二人とは--
******
「--作れません」
「え?」
「ひぇ?」
目の前にいる女性の口から投げられた言葉にヴェンとアイナは口を開け、目が点になっていた。
ここはギルド協会支部。ヴェンとアイナはマスターに言われた通り急いでカーナーンを目指してやっとの思いで着いたのだが待っていた言葉は一言……『作れません』。
「なっなんでだ? ここにこればギルドは作れるとマスターから聞いたぞ?」
「きいたぞ?」
二人は受付の女性に前のめりになりながら聞く。その二人の熱気に受付嬢は少し冷や汗をかいている。
「いやマスターとか知りませんけど……ルールはルールなんです。ギルド登録条件はどこのギルドにも所属していない、三人以上がその場にいないと登録できないのです」
「三人?」
「そう! あなた達二人だけだと現状作れないんです」
受付嬢は優しく幼い顔つきの二人に教える。
ギルド上規則では基本ギルド創設にはどのギルドにも所属してない三人以上がその場で必要とされている。
その理由としては一人で何個も作られるのは困るなどいろいろなものが挙げられるが現状、今、ヴェンとアイナだけではギルドが作れないのだ!
「ここはどうか俺の顔を立てる形で……」
「いやいやあなたの顔なんて……」
「それじゃアイナの……」
「いえ、いりません」
「え!? いらないのか!? 立てないと国民が後悔するぞ?」
「あなたの妹はなんなんですか! 国宝ですか!?」
「まぁ……それぐらいには属するかと」
「おにーたん、アイナいまほめられた? ほめられた?」
受付嬢にこれでもかと食らいつくが首を縦にふる動作は一向に見られなかった。
「あの、アドバイスと言ってはあれですがあなた方の場合、作るよりも既存のギルドに入った方が良いと思いますが? なにぶん子供だけではギルドを運営することも」
ヴェンたちの容姿を見てなのか作るよりも入る方をおすすめするがヴェンの答えとはいうと、
「大丈夫だ、俺は竜殺しをやってたから」
なんの悪気もなく無垢な笑顔で受付嬢に伝えた。
「ぶぶっ! 冗談はよしてください! あのみんなが憧れる英雄職がギルドに入るわけないじゃないですか、そもそもあれは王国を代表している者、ギルドと対立している方々ですよ?」
受付嬢は何やらヴェンが言った言葉に笑いが止まらなかったようでずっと笑っている。
「まぁ元だからな。今は何者でもないよ」
「ははは……! えーと、こほん! とりあえず、冗談はさておき、あなた達が必死に説得しても変わりません。ギルドは今のままでは作れません!」
「「がーーん!!」」
二人は追い出されるようにギルド協会支部を足取り重く出て行ったのだ。
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