田園の怪鳥

 これも高校生頃の体験だ。二年か三年の頃の冬だったと思う。

 ちょっと離れた店に、オカルト否定派の友人と買い物に行ったときだ。遠いので、近道しようと畦道のようなところを突っ切っていた。

 確か雪があった上にそんな道を通ったので、わたしたちは降りた自転車を押しながら歩いて進んでいた。

 そこは幅六、七メートルほどの川と、そこに沿った畦道だった。


 友人はやや前にいてちらちら後ろを向いてたまに喋りながら歩いていたのだけれど、あるとき川の水面が盛り上がるのがわたしの視界の端に窺えた。

 川はコンクリートで整備してあって、水面までは数メートルほどの深さがあり、水深自体はたいしてなかった。道はそこからだいぶ横にずれているので、普段は歩いているところから水は見えないはずなのだ。

 なのに水が視界に映ったのだから、一部水面が迫り上がったようだった。

 でもそれは一秒ほどで、また死角に沈んだ。感づいて顔を向けたら沈んでいる感じだ。局地的な高波でも発生しているみたいだった。


 最初は気のせいかと思ったが、それが三回くらい繰り返されたので、ついに「んっ?」と声に出した。

 友人は振り向いてどうしたのかと訊いてきた。その時期は、『自転車のカエル』を目撃したあとだったので、そういうものの一部は幻覚じゃないかとわたしも疑いだしていた頃だった。

 だから友人には、「気のせいかも」というようなことを答えたと思う。


 ところがすぐあと、また水面らしきものが迫り上がったのだ。


 バサアッという羽音と一緒に。

 そう、それは水面などではなかった。川幅とちょうど同じくらいあったので、水が迫り上がったのではと考えていたわけだが――。


 なんと。

 そいつは六、七メートルくらいの怪鳥だったのである。


 翼を広げた横幅がそのくらいだ。また、水と勘違いした理由は巨大さの他にもあったと、飛び立つそいつを見て知った。

 この怪鳥には羽毛が全くなさそうで真っ黒、濡れた両生類みたいに肌がぬめぬめと輝いていたのだ。


 あまりのことに呆然として眺めているうちに、そいつはわたしたちがいるのとは反対の方角に飛んでいった。

 ところが呑気なことに、友人はわたしの方を向いたままこちらの目線も追わず、「どうしたの?」などと尋ねているのだ。

 わたしが我に返って怪鳥を指差し、友人がようやくそいつを確認したときには、もう距離が遠すぎて大きさがよくわからなくなっていた。それでもなお友人は、「おお、でかい」と言ったものだった。


 「でかいなんてレベルじゃないよ!」とわたしは力説し、その友人とよく話のネタにしていた超常現象を扱ったドラマで、オカルト肯定派である主人公は超常現象と遭遇するのに、懐疑派のパートナーに証拠を披露しようとすると超常現象が消えたりしてしまっているシーンみたいだと愚痴るはめになった。

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