公共施設の屋上

 高校時代わたしは自転車通学だったが、冬は積雪によって自転車に乗れないとき、家族の車で登下校を手伝ってもらうこともあった。

 そういうときは、帰りに比較的近くの駐車場のある公共施設に車で迎えに来てもらって、そこまで歩いて移動していた。そんな高校二年か三年のある日のこと。


 放課後に件の公共施設へ歩いていると、視界の端に誰かがいた。

 ごく普通の、二十代くらいの若い女性。それが立っているだけ。

 ただし、いる場所が普通でなかった。

 

 彼女は公共施設の屋上の、端っこにいたのだ。

 今にも飛び降りそうな姿だった。

 

 それなりの高さがある場所だ。当然、わたしは「危ない!」と案じて彼女の方を注視した。

 瞬間。――女性は消えた。

 これと同じ体験は、三度ほどある。

 同じ場所で同じ女性が、同じように現れる。なのに、目線を向けると消えるのである。


 ちなみにこの体験をした公共施設であるが、『平家物語の声』の話で、中学の国語教師が存在しなかったはずの音声を録音してしまったというのと、同じ場所である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る