部屋で動いた

 高校二年か三年生の頃、自分の部屋で起きた出来事だ。


 わたしの自室には、テレビの後ろにやや空間があって壁があり、そこの上の辺りにはお面が飾ってあった。

 わたしは据え置き型のゲームをしていてそれが映されるテレビに対向していた。お面がある壁には視界を遮るものもなければ部屋は窓まで締め切られており、そこにはわたししかいなかった。


 そのはずが、やにわに、壁のお面が動いたのである。

 動いた瞬間はテレビに着目していたので目にしなかった。音がして、見ると面が反対になっていたのだ。

 まあ、お面は壁の釘みたいなところに引っ掛けてあってそこから落ちれば自然にそういう向きになる状態だったので、これだけなら何かの反動でありえる範疇だったかもしれない。


 ところが、ほぼ同時にテレビの後ろで動くものがあったのだ。


 ゲーム画面にはやや斜めに向かい合う形になっていて、テレビの後ろの空間も若干見通せた。そして、お面の真下より幾分横にずれた位置には、中学の授業で作った工作品が置いてあったのである。

 そいつが倒れたのだ。

 これは一キロ近い重さと相応の大きさがあって、立っている状態のバランスもよく、地震などで転倒したことさえなかった。最低限、猫くらいの生物が力を加えでもしなければ倒れそうになかったのである。

 ちなみに、そういうペットも飼っていなかった。ネズミのような害獣がいたとかいうことも未だかつてない。


 なのに、工作品はお面が動いた直後に倒れたのだ。

 お面に釣られて視線を向けていたため、工作品のほうは倒れた瞬間を目撃したが、それを可能とするような存在は全く見えなかった。まるでお面かその上の空間から猫くらいの不可視の何者かが現れて、それらを動かしたような印象を受けた。


 もっともわたしはちょっと懐疑的なので、まず、このとき隣室で家族がタンスをいじっていたことを怪しんだ。その衝撃かとも疑ったのだ。

 そこでお面と工作品を元に戻して、家族に事情を話して実験を試みた。隣の部屋で、同様にタンスを開け閉めしてもらったりしたわけだ。

 けれども、やっぱりお面も工作品もぜんぜん動かなかった。

 というより、そもそも隣でタンスをいじるようなことはそれまでにも何度かあったし、お面や工作品は長らく同じ場所にあったのだ。ところが以前も以後も、そんなことで動いた試しはなかったのである。

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