自由研究の写真

 小学校中学年頃。夏休みの自由研究で様々な液体の性質を比較する実験をして、それぞれの液をコップに入れて写真撮影したときだった。その中で水を用いたものに変なものが写ったことがある。


 コップの中に、肌色の何かの姿があった。


 最初は写真撮影を手伝ってくれた親の姿が反射したのかとも思ったが、それにしては肌色の部位が広く、撮影に用いた黒く大きな一眼レフのカメラ自体が写っていないようだった。

 それでもわたしは内心、親が写り込んだのではと思っていたものの、当時、学校では心霊写真がちょっとしたブームになっていたこともあり、それを持って登校してみることにした。


 そして、たぶん放課後にクラスメイト達に披露していたときのことである。

 みな、なんだかわからない肌色の物体を不思議そうに観察していた。誰もが、わたしのような疑念も持っていたのかもしれない。怖がってもいたが、それほどの反応はなかった。


 ところが、一人の女子だけが異常に怯えた。


 わたしは、「たいしたものが写ってるわけじゃないのに、何でそんなに怖がってるの」などと、おもしろがって訊いてみた。

 すると彼女は恐る恐る、写真の一部を指さしながらこう言ったのである。


「……だって、これが目でこれが口でしょ」


 瞬間、わたしたちは悲鳴を上げて心霊写真を放り投げ、飛び退いた。

 不定形な肌色と黒の物体であったはずのコップの中のそれは、実のところ、騙し絵のように一度気づくとそれと認識できる顔だったのだ。


 眼球も歯もない、三日月形の真っ黒な目と口だけで笑顔を表現した仮面のような肌色の顔形だった。あとで家に帰って家族に解説したところ、父はなぜかそれを〝坊さん〟と表現した。

 ちなみにこの写真は、母からは後に「不吉なので父が燃やした」と聞いたが、父は「どこかにしまってあるはず」と言い、今どこにあるのかは判然としない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る