-子供好きの天機人 上-

私は天機人。ANGE-T-D001346。名前はまだ無い。


一応研究員の補佐業務に就いてるが研究員達は相当気に入った天機人でなければ名前を付けない。大体呼ぶのは型番全部か型番の番号で呼ぶ。


特にそのことに今のところ不満は無い。むしろ変な名前を付けられるよりずっといいと思ってる。


天機人にとって名前というのはそれだけ大事なものだ。


私の同期で親友かつ同志でもあるANGE-T-D001328も同意してくれている。


私達は共に崇高な夢を持つ者。


たとえ就いた職が違えど夢を決して諦めない。


そう二人で誓い合っていた。




「私、名前を頂いたの」


ある日、親友が私にそう告げた。


「え?誰に?」


「ソウ様」


ソウ様。最近私達の世界の神様に新しくなられた方で、前の神様と違いこちらに顔を出して下さるということで密かに噂になっているお方。


そういえば親友の職場である情報館は主神補佐官であるサチナリア様直轄の情報管理機構だったっけ。


利用者が少なくて天機人の仕事先としてはあまり人気が無かったけど、そうか、ソウ様がおいで下さったのか。


「おめでとう。リゼ」


「ありがとう。貴女もいつか良い名前を貰えるといいわね」


「うん」


ANGE-T-D001328改めリゼはソウ様が来て以来情報館が生まれ変わったかのように賑やかになったと嬉しそうに語る。


夢とは違う形ではあるものの、神様から名前を頂く以上の名誉は無い。不人気な職であろうとも地道に頑張っていたリゼの努力の成果だと思う。


「そういえばあの話どうだった?」


「天機人の小型化の話?」


「うん」


リゼが聞いてきた天機人の小型化計画。


小型の天機人を製造して軽量化や消費エネルギーの軽減化、メンテナンスのしやすさなどを追求する研究プロジェクトなのだが・・・。


「あまり芳しくないわね。一時的な代替用試作機を何体か製造するつもりみたいだけど、性能がかなり落ちるからそれでプロジェクト終了になりそう」


「そう・・・残念ね」


「うん。一応そっちに試作機を一体配備するよう手配申請するから、色々試してみてくれる?もしかしたら何か新しい発見があるかもしれないから」


「えぇ、わかったわ」


情報館には研究所程大きくはないものの天機人の整備プラントがある。


他にも天機人の多くいる場所に試作機を送り、何とかしてプロジェクトの存続を狙うつもりだ。


全ては夢のため。私は努力を惜しまないつもりだ。




試作機を情報館に送ってからしばらく、リゼから映像付きのデータが送られてきた。


「ちょっとりぜ?なんれすか?これ。あ、ちょっと、にげないれくらさい!」


映像には送った試作機が動く様子が映っていた。


「ふおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


私は叫び、転がり、あちこちにぶつかってもこの喜びを全身で表現し続けた。


・・・叱られた。


故障したかと思った?大げさな。天機人と研究員を数人を吹き飛ばしたぐらい大したことないでしょう。


・・・こっぴどく叱られた。うぬぅ。


ただ、それだけ私にとって嬉しいことだった。


何せ私の夢である子供を持つということに一歩前進したのだから。


リゼからの報告には映像に映ってる人は情報館館長のアリス様で、本体のメンテナンス中の子機として現場の指揮を執るため稼動させたと書いてあった。


「ふむ。しかしこれではな・・・」


しかし、映像を見せた研究員達は口を揃えて渋い返答しかしてこなかった。ダメだ、こいつらにはこの良さが通じない。


どうせプロジェクトが終わるのであればと思った私は半ばヤケになって全ての研究員が閲覧できる場所にこの映像を流すことにした。


えぇ、どうせまた叱られますよ、そのぐらい覚悟しないでやるわけないでしょう。


それぐらい私にとってこのプロジェクトは意義のあることだというのを示したかった。共感してくれる人が少しでも欲しかった。


だが私の行動は何も動きを生まず、私は叱られ、研究員補佐から臨時従業員に降格となり、しばらくの間自室待機となっただけだった。




私が自室で待機を命じられている間、様々なことが起きた。


まず、アリス様の子機であるちびアリスが稼動した。


なんでもちびアリスが情報館に在籍することで情報館内全体のパフォーマンスが向上する事が判明したのでサチナリア様から正式な認可が下りたらしい。


おかげで私の元にはリゼから毎日ちびアリスの動画が送られてくるようになり、暇な自室待機は動画を見ることで暇ではなくなった。


次に、ひとつ事件が起きた。


特殊天機人秘匿製造事件。別名天機っ子事件。


ちびアリスを見た一人の研究者が自身の島で小型の天機人を製造したという事件でソウ様自ら解決に携わった事件ということもあり、私のいる研究所で大きな波紋を呼んだ。


研究所から事件の主犯を輩出してしまったこと、ソウ様、サチナリア様の手を煩わせてしまったこと、そして特殊天機人、天機っ子という新しい存在が生まれたこと等々。


中には私が全ての元凶ではないかと言う者も現れ、わざわざ私の自室まで来て文句を言うので録音して不穏分子としてリゼを通じてサチナリア様に報告した。


確かに私のした行動によって事件が起きたのできっかけは私にあったかもしれない。


だが私は私の行動が正しかったと思っている。


天機っ子事件後、天機人達向けに大きなコミュニティが作られ、ちびアリスや天機っ子の情報をはじめ、天使の子供達の様子の報告、将来の展望など、これまで天機人達が心の奥底に燻らせていた想いを熱く表現するようになった。


勿論本人や保護者の無許可の情報は公開してはいけないなどルールがある。ルールを破ると厳しく罰せられるが今のところ誰も破った者はいない。


コミュニティの設立者がサチナリア様というだけで十分な圧力になるのに、各界の名だたる方も参加しているのでとてもじゃないが破ろうという気が起きないというのが正しいかもしれない。


ともあれ結果として同志や仲間がリゼ以外にも沢山いたというのを知れたのは嬉しい。


「・・・えっと、何をしているのかな?」


「自室待機ですが」


「そんな大量のパネルを開いて?」


「情報の制限は受けていないので待機中は基本情報収集を行っています」


「へー・・・わかった、ありがとう」


「はい」


私の様子を見に来た研究員は詳しく聞かずそのまま去っていった。何だったのだろう?


まぁいい。気にせずコミュニティから情報を収集する作業に戻ろう。




私の様子を見に来た妙な研究員が来てから数日後、私の自室待機は終了した。残念。


仕事は研究補佐から雑用になった。


雑用と言ってもここは研究所、様々な研究部門へ出入り出来る環境というのはなかなかに面白い。


コミュニティを見る時間は減ったが、得た情報から今の研究部門を見ると新しい利用方法が思い浮かぶので今度リゼに教えようと思う。


しかし、私が自室待機になる前より随分人が減ったように感じる。


「あぁ、ちょっと色々異動があってね。今人手不足なんだ」


人が良さそうな研究員にそれとなく聞くとあっさり教えてくれた。


そういえば仕事を再開しても私に文句や嫌がらせをするような人はいなかった。いや、居なくなっていたが正しいか。


噂によれば誰かの不興を買って異動させられたとかなんとか。ほー、そーなんですかー。


そのおかげか研究所自体も前より和やかな雰囲気になり、研究部門間での行き来が増えたように思う。前はもっとピリピリした雰囲気だった。


「あぁ、多分それはソウ様の影響だろうね」


人が良さそうな研究員が嬉しそうに語る。


なんでもソウ様の一言はこれまでの研究所の人達の思考に大きな影響を与えたそうな。


「凄い方だよ。おかげで視点を変えると欠点が利点に変わることもあるということを我々は知ったよ」


「へー」


「部門間での行き来は違う視野を持った人に研究を見てもらうことで新たな利点や問題点を発見するためだね。うちの研究も行き詰ってたところだったから大助かりだったよ」


「よかったですね」


「あぁ。別の部門の人と話すのは楽しいし良い刺激にもなる。君が感じた雰囲気というのはそういった会話が増えたところじゃないかな?」


「なるほど、確かに仰るように研究員同士が会話していることが増えた気がします」


「思ってたより雑談というのはいい気分転換になってね。誰かと話すことで仕事の効率が上がったよ」


「それはなによりです。しかし話すのが苦手な人も居たはずですがそのような方はどうしてるのですか?」


「そういう人は個別に研究施設を持ってもらうことになったよ。廃墟島が問題になってただろう?そこに建てることにしたんだ。所有権はそのままだから何も問題ないしね」


「・・・本当に問題ないのですか?」


「島の所有者が文句を言ってきたらその時はちゃんとした話し合いの場に出てもらうだけだよ。出て来られるなら、の話だけど。フフ」


「・・・」


人が良さそうというのは撤回しよう。やっぱりこの人も研究員の端くれだった。しかも敵にしてはいけないタイプだ。要注意要注意。


しかし話を聞けば聞くほど私が待機中に物事が大きく動いたのがわかる。


そしてその大きな動きには必ずソウ様の名が挙がる。


一体どんなお方なのだろう?ちょっと興味が沸いて来た。今度リゼに聞いてみよう。

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