-子供好きの天機人 下-
リゼとは情報のやりとりは続いてはいるものの、なかなか直接会う時間が取れないでいた。
こっちの仕事が人手不足で忙しいというのもあったが、あっちはあっちで何やら忙しいようだ。お互い頑張ろうと伝える。
しばらくしてリゼが忙しかった理由が分かった。
新規に立ち上げられた特殊天機人プロジェクト、それにリゼが関わっていたのだ。
コミュニティに流れてきた映像と画像には特殊天機人、天機っ子が羽を生やした動物と戯れる様子が映っていた。
「ふおおおおおお!!」
「な、なんで廊下で逆立ちしてるの?」
「自制中です!」
「そ、そう、ちょっとは成長したんだね」
映像を見て逆立ちをすること十数回。やっと耐性が付いて来たので映像を見ながら本人に連絡を入れる。
「ちょっとリゼ、これどういうこと?」
「ごめんなさい。私も突然任命された上にサチナリア様から守秘義務が課されていて言えなかったの」
「むぅ・・・」
それでももう少し分かるような素振りを見せて欲しかった。
「お詫びにコミュニティには出せないプライベートな情報を送るから」
「ナイス!」
持つべきものは友だと改めて感じる。
しかし映像や画像を見れば見るほど募る想い。どうにかならないものか。
そんな気持ちで日々過ごしていると大召喚の儀が行われることになった。
大召喚の儀は研究所所属者にとって非常に重要なもので、もう催されないと思われていたのもあって告知されてからというもの所内はずっと浮き足立っていたぐらいだ。
私も勿論参加する。というか強制参加で、とにかく盛り上げて来いという雑な通達があったのでとりあえず足を運んだ。
最初は知り合いが見つかったら挨拶と雑談でもすればいいかなという軽い気持ちで参加してたが、ソウ様がいらっしゃってる事を知り、是非一目見ようとソウ様のいらっしゃる島へ向かった。
「これ、全員ソウ様目当てなんですか?」
「そうよ。並ぶなら早いほうがいいわよ」
メイド姿の情報館の職員らしき人の案内に従って最後尾に並ぶ。
どうやらソウ様とは数十秒程度しかお話できないようで、一言二言話したら終わりらしい。
列が進む中、私は何を話せばいいのかと色々と考える。どうしよう・・・。
あれこれ考えているうちにあっという間に直前まで来てしまっていた。ええい!ままよ!
「て、天機っ子を増やすご予定はないのですか!?」
私は両手を握り締め、心にある想いの丈を全力でぶつけた。
「お、落ち着け。君ら天機人の気持ちはわかるがまだ検証段階だ。とりあえず触れ合う機会を徐々に増やしていくつもりだから待っててくれ」
ソウ様は気圧されながらも具体的な回答をして下さった。
これがソウ様か。
来る人みんなに誠心誠意応対する姿はとても素晴らしく見えた。
いいなぁリゼ。あんなお方に名前を付けて貰えて。
列から外れた後もぼんやりと後に続く人の対応しているソウ様をぼんやり眺めていると声を掛けられた。
・・・叱られました。
ソウ様を困らせるような事を言ってしまったのでそれについて注意を受けました。申し訳ない。
ところで先ほどから腕に抱えられてるお子さんはもしかしてちびアリスちゃんではないですか?
え!?貴女がアリス様!?こ、これは大変失礼しました!親友のリゼがお世話になっています!ちびアリスちゃんはアリス様の子供ではない?妹?重ね重ね申し訳ありません!
はい、え?私は現在研究所所属で主に雑用担当をしています。今は特に決まった研究に携わっていません。
アリス様は私についてあれこれ聞いてきたので包み隠さず答えると一言礼を言って去って行った。なんだったのだろう?
それより私を不思議そうな目で見るちびアリスちゃんが超可愛かった。くっそー、突然のことだったので映像記録に出来なかったのが悔やまれる。
それでもいい、私は今幸せだ。今日はいい日だ。うんうん。
そんな風に思って島をブラブラしているとリゼから連絡が入った。
「ごめん、ちょっと手伝ってくれる?」
友の手伝いとあれば是非もなし。私は今とても気分がいいし何でもやるぞ!
意気揚々とリゼの元に向かうと先ほど会ったちびアリスちゃんと大勢の子供達、それにコミュニティでよく話す天機人の同志が集まっていた。
「えっと?これは?」
ちびアリスちゃんが子供達に何をするか話してる横でリゼに聞くと同志全員に説明をしてくれた。
「これからこの子達とあの素材に挑んでもらいます。私達は子供達の補佐役で、一人一名ずつ補佐として付いてください。補佐役は素材への接触は禁止です。発案はソウ様なので心して取り組んで下さい」
な、なるほど!これが触れ合う機会!ソウ様、感謝します!
リゼの話をしっかりと聞き、私は一人の男の子とペアを組むことになった。
「よろしくお願いします」
「う、うん」
落ち着け、落ち着け私。息を荒くするな。あくまで大人なかっこいいお姉さんでいるんだ。
心の中で逆立ちをしながら男の子の補佐に全力で当たる。
「・・・んっ!」
男の子が力一杯剣を押し込んでいる。いい・・・。
「・・・くっ・・・はぁっもうダメだー」
「よく頑張りました」
他の子より少し浅い位置で限界を迎えてしまったが、他は他、この子はこの子、精一杯力を使うのが大事だと私は思う。
全員が剣をある程度挿し終えたら今度はハンマーで叩いて更に押し込む作業に入る。
「あっ!」
掛け声と共に振ったハンマーは柄頭を外れ、素材の方に当たってしまった。
「大丈夫ですか?」
「う、うん。結構難しい」
「では一緒にやってみましょう」
私は男の子の後ろに回り男の子と一緒にハンマーを持つ。
抱き込むような体勢になったためか男の子の体が強張る。おほー!
再び掛け声でハンマーを振り下ろすと今度は綺麗に当たり、金属の弾ける音が響く。
「やったっ!」
「いい調子です」
二回、三回と当てていくと男の子の体から緊張が抜けていくのを感じ、私は後は一人で出来ると判断しそっと離れる。あぁ、名残惜しい。
剣の刃が完全に素材に埋没してから何度か叩くと亀裂が入り、最後は大きな破断音を立てて素材は真っ二つに割れた。
「やった!割れた!」
「お見事です!」
「お姉さん、どうもありがとう!」
満面の笑みでこちらにお礼を言う男の子は間近で光を見たかのように輝き、私の心を射抜いた。
その後、男の子の親御様にもお礼を言われ、リゼとちびアリスちゃんにも感謝された。
残りの時間はよく覚えていない。
補佐に参加した同志達と感想を話し合ったり、思い出して気絶する者を介抱したりしていたら大召喚の儀が終わっていた気がする。
自室に戻った後、今日のことを絶対に忘れないと心に誓った。
きっともう今後このような至福な時はもう訪れない。それほど今日の出来事は貴重に感じたから。
翌日。
「辞令が下りた。今日付けで君は異動となった。荷物をまとめた後、指定の浮遊島に向かうように」
「了解しました」
天機人にとって突然の辞令というのはよくある事。
気分的にはついにか、と思うぐらい。色々しでかしましたので。やはり逆立ちが決定打だったのだろうか。
自室に戻り荷物をまとめ、話したことのある研究員に挨拶をし、私は研究所を後にした。
最近はちょっといい場所かなと思い始めていたところだった。少し残念だ。
だが、そんな気持ちは異動先の島に到着した瞬間はるか彼方に吹き飛んで行った。
「リゼ!」
「いらっしゃい、待ってたわ」
私を出迎えてくれたのは親友のリゼだった。
私の新たな仕事先は特殊天機人養育施設だった。
「な、何故?」
「人員の補充を要請してたらアリス様とサチナリア様から今日付けで何人か来るって突然連絡が来てね。まさか貴女が来るとは思ってなかったけど、嬉しいわ」
「ゆ、夢じゃない?」
「現実よ。貴女で最後だからみんなと顔合わせしましょ」
リゼに付いて行き建物の中に入ると昨日熱く語り合った同志が驚いた顔で私を見ていた。きっと私も同じ顔をしてたと思う。
挨拶を済ませ、ここでの業務内容を聞いた後、リゼが切り出す。
「そういえば貴女まだ名前貰ってないでしょ」
「えぇ。研究所勤めだったから」
他の同志達は既に名前持ちで、所属も元の所属から出向という形でやってきた人達だ。
私は元々研究所所属でここも研究所管轄だから私だけ異動という扱いになるが、管理人はリゼがそのまま受け持つ。ややこしい。
「うーん、サチナリア様から全員名前で呼ぶよう言い渡されてるんだけど・・・」
一同で悩む。
名前は天機人にとって大切なものだからおいそれと付けるわけにはいかない。
どうしたものかと悩んでいると部屋の奥から小さな影が二つ出てきた。
「りぜー・・・」
「あ、ごめんなさい、ちょっと席外すわ。どうしたの?目、覚めちゃった?」
奥から出てきたのはお昼寝中だった天機っ子の一人。そしてその隣にはこの世界では珍しいと言われている動物だった。
「・・・」
私も新しくやってきた同志職員もその二つの姿に声を発することができなかった。そう、昨日感じた何かが突き抜けるものが再び私の心を襲っていたからだ。
「お待たせ、寝かしつけてきたわ。・・・何か以前の自分を見ているようでとても恥ずかしい気分だわ」
戻ったリゼは私達を見て複雑な表情をする。
「後で子供と動物達に紹介しなきゃいけないから、それまでに心の準備をしておいてね」
そうか、後で私はみんなに紹介されるのか。・・・そうだ。
「リゼ、名前について提案があるんだけど」
私の勤め先が変わってから数日が経った。
天機っ子や動物達とは一日で打ち解け、仕事にも徐々に慣れてきている。
同志職員達とも仲良くやれており、仕事量は以前より増えたものの毎日がとても充実している。
「まーちゃ!まーちゃ!」
「はいはい、なんですか?」
天機っ子に手を引っ張られ一緒に移動する。これは多分何かを見せたいのだろう。
私は天機人。ANGE-T-D001346。名前はマー。
天機っ子と動物達が一緒になって考え名前を付けた珍しい天機人。
特殊天機人養育施設の職員で、子供達は私の事をマーちゃんから派生したまーちゃと呼ぶ。
不満?あるわけが無い。こんな最高の職場、何処を探しても見つからないと思ってる。多分同志職員もそう思っているに違いない。
私の崇高な夢、子供達の近くで働くという夢は叶った。
だが、同時に新しい夢が出来た。
まだまだ私のように恵まれた天機人は少ない。
そのような人達が幸福を感じられるようにするのがこれからの私の夢であり目標だ。
いつか叶えられるはずだ。私と親友と同志と、そしてここの子達がいればきっと出来る。
そんな決意を新たにし、今日も一日頑張って働こうと思う。
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