子供達の活躍と閉幕

サチとルミナの専門用語が飛び交う技能談義を右から左に聞きながら料理をつまみつつ、ステージの様子を見たり他の人達と話しているとそれまで一定間隔で歓声が上がっていたのがピタリと止まった。


「どうした?」


「なかなか破壊できる者が現れなくてねー」


「ふむ。難敵なのか」


「えぇまぁ。ちなみに素材召喚の希望者はこちらです」


サチがパネルを見せてくると研究者らしき人物が映る。


「ンフ・・・ンフ・・・ンフフフフフ!いいぞいいぞー、この調子で全て受け切って見せるんだ!」


「・・・またか」


「またです。これだから研究者というのは困るのです」


「んー・・・。ルミナならどうにかできるんじゃないか?」


「それがねー私は参加禁止になってるのよー」


「そうなのか?」


「ルミナテースが特出しすぎなので誰も破壊できなく提供中止になった物のみ挑戦可能とし、仮に破壊できても消滅処理行きになります」


「やるせないわー」


ぶーぶー口では言うものの、サチの意図するところを理解してるのか受け入れてる感じがする。こういうところは大人なんだよなぁ。


ルミナが出られないとなると少し困るな。


サチは運営側だから参加しないだろうし、フラネンティーヌやルシエナのような要職に就いてる者は体裁があるのでやはり不参加だろう。


うーん・・・とりあえず俺の方でどうにかできるかちょっと考えてみるか。


目を閉じてステージにある素材へ意識を向ける。・・・あぁ、俺の念ならいけるな。やり方も何通りか可能なようだ。


さて、問題は俺がその場に行けないことだな。飛行装置は故障してしまったし、誰かに抱えてもらう飛ぶのは多分サチが嫌な顔するので却下だ。


となると誰かに頼むのがいいんだが・・・。


良い候補がいないか自分の周囲をぐるりと見渡すとある人物が目に留まる。


「アリス、ちびアリス、ちょっと来てくれないか?」


「はーい」


「なんでしょうか、主様」


「ちびアリス、アレに挑戦してみないか?」


ちびアリスを少し見上げるようにしゃがみながらステージを指差す。


「やる!」


「え!?主様、さすがにちょっとちびアリスでは難しいかと・・・」


「勿論一人じゃない。ちびアリス、一緒に手伝ってくれそうな子供のお友達を連れてきてくれ」


「あい!」


意気揚々と飛んでいくちびアリスを見送りながら動揺を隠せないアリスに加えて指示する。


「アリスはリゼに連絡して補助をしてもらう人員を確保してくれ。マンツーマンで付き添えるようにしたい」


「了解しました」


後は技師達に道具があるか聞いて、ワカバとモミジにも盛り上げるのを手伝ってもらおう。


ふふ、なんだか楽しくなってきたぞ。




「新しい挑戦者が現れました!ななななんと、総勢二十三名の子供達です!!」


ワカバの実況が響き渡る。


モミジが各島の近く、ステージの下側に大きな映像パネルを各島方向へ展開する。主に頑張る我が子を応援する人達のためだ。


子供達は素材を囲うように一定間隔を空けて配置されており、個別に画面に表示されている自分の子供を関係者は島端で食い入るように見ている。


「アリス、ちびアリスの方はどうだ?」


「問題ありません。各々補佐との関係も良好です」


各子供には一人ずつ天機人の補佐が付いている。


その手にはV字の剣と小さいハンマーがあり、各ペアこれを使って作業してもらう。


「よし、じゃあ始めてくれ」


アリスに伝えるとアリスからちびアリスに指示が行き、ちびアリスは補佐のリゼと共に素材の横を一周してロープを張る。


補佐の天機人から剣を受け取った子供はロープに沿って剣をゆっくり挿し込んでいく。


剣はそこそこな重さがあるのでフラフラする子もいるが、そこは天機人が力を貸してくれるので大丈夫だろう。


「がんばれー!」


各島から応援の声が飛ぶ。


子供達はその応援に応えるべく頑張って剣を突き挿して行くが、剣が沈んでいくにつれ徐々に入り辛くなるので皆必死な表情になっている。頑張れ。


「主様、そろそろ次の段階に移って宜しいかと」


「うん。間違えて怪我しないように気をつけるようにしてくれ」


「了解」


各々自分が出せる力の限界まで剣を突き挿した子供には一回離れ、呼吸を整えて貰う。


「みなさんお疲れ様です!さて、この後突き挿した剣をさらに奥へ入れるため一斉にハンマーで柄を打ち付けるそうです!打ち付ける合図はリーダーであるちびアリスさんにして頂きます!ちびアリスさん、緊張してないですか?」


「らいじょーぶ!」


ワカバの質問に腕を突き出してサムズアップするちびアリスに情報館の子達から黄色い声を上げる。・・・いつの間にかサチも混ざっているな。


インタビューの間

に各ペアの状況を確認したリゼが問題なしの合図を送る。


「どうやら準備が整ったようです。それではちびアリスさんよろしくお願いします」


「みんなーいくよー。せーのっ!」


ワカバから可愛く装飾された拡声マイクを渡されたちびアリスが掛け声を掛けるとハンマーを手にした子供達は合図に合わせて挿した剣の柄頭めがけて振る。


カンカンカン!と小気味良い金属の音がする。若干ずれてる辺りはご愛嬌だろう。


中には外して柄の方を叩いてしまったり空振りして素材の方を叩いてしまった子がおり、補佐の天機人が落ち込まないよう励ましている。


「次いくよー。せーのっ!」


再びちびアリスの合図と共に子供達がハンマーを振ると僅かだが剣が少しずつ沈んでいく。


これを何度も繰り返して貰う。


子供達にも体力があるのでそう多くはできないが、俺の予想ではそこまで回数は要らないと踏んでいる。


五回ほどやったところで一部の子供が挿した剣を指差して嬉しそうにしている。どうやらヒビが入ったようだ。


そこから更に二回やると全員の剣と剣の間にヒビが入ったようだ。そろそろかな?


「いくよー。せーのっ!」


ちびアリスの掛け声に先ほどより音が一致した金属音が響くと、直後バキッ!と大きな音がする。


それを聞いたリゼは素材回収の天機人達と共に素材の下側を掴んで引っ張るとゆっくりと素材が上下に分断されていき、それを見た子供達をはじめ周りの島から歓声が上がる。


ふぅ、どうやら上手くいったようだ。


俺が指示したのは下界の人達が大きな岩などを切り出す時に行う工法のひとつを参考にしたものだ。


時間はかかるものの魔法や特殊な道具を必要とせずに大きく分断できるのがこの工法の特徴だ。


「主様!やりましたね!」


「うむ。皆よくやったぞ」


こちらに手を振るちびアリス達に手を振り返す。


これで子供達に少しは良い自信と経験ができたんじゃなないかなと思う。


何も力や念だけではない、工夫と技術を駆使すれば難しい事もクリアできると知って貰えれば万々歳だ。


「ば、バカな・・・あんな子供に真っ二つにされるなんて・・・」


俺の前にサチが放置していったパネルにさっきまでほくそ笑んでいた研究者がうなだれた姿になって映っている。


確かに彼が考案して生み出した素材は優秀だった。


物理、念問わず衝撃を受けると分散して緩和させるのは凄いと思う。


ただ、逆方向からの同時衝撃に弱いというのが欠点で、今回はそこを突かせて貰った。


本来ならもっと色々な手順を踏んでから気付くことなんだろうけど、ちょっと今回はズルしてしまったかな?いや、遅かれ早かれ発覚することだろうから問題ないだろう。


彼には壊れたことで獲得となった今回の素材を基によりより素材作りの研究をして貰いたいところだ。頼むぞー。


さて、ステージの方はというと子供達と補佐の天機人は解散し、次の素材挑戦の場が作られつつあるが先ほどまでとは雰囲気が少し変わった。


これまで力のある者だけが挑んでおり、大半の人が観戦だけという状況から自分達も参加してみようという動きになってきた。


良い傾向だ。


実際ステージに素材が召喚されると真っ先に挑戦したのがご婦人達。


さすがにノーヒントで破壊するのは無理だろうと思っていたらあれよあれよと言ううちに破壊方法が確立され、バラバラにしてしまった。


「えぇ・・・」


確かサチが言うには徐々に難易度が上がっていくはずだったよな?


それをこうもあっさりクリアされるととっても複雑な気分になる。


ちびアリスに頼んで良かったと思う。もし俺自身が出て行った後こんなことになっていたらと考えるとそれだけで嫌な汗が吹き出てくる。良かった、本当に良かった。


「ソウたまー」


そんな俺のみっともない心境なんぞ露知らなずなちびアリスが迎えに行ったアリスと共に帰って来る。


「お帰り、よくやった」


「おやくめかんりょーれす!」


ふふんと仰け反るちびアリスの後ろでアリスが自分の頭をポンポンと叩くジェスチャーをする。あぁ、撫でればいいのね。


「がんばったな、偉いぞ!」


「えへへー」


俺が頭を撫でてやるとにっこりと可愛さ満点の笑みを浮かべる。なるほど、そりゃ皆落とされるわけだ。


可愛いのでつい長めに撫でていると鋭い視線を感じるのでそっちを向くとサチをはじめとした情報館の子達がこっちを凄い恨めしそうに見ていた。


よし、ちびアリス、あっちの情報館のお姉さん達に報告に行くんだ!


俺が指示すると恨めしい視線が一気に感謝に変わった。現金すぎるだろうお前ら。


「・・・ふぅ。難は逃れた」


「お疲れ様です」


苦笑いしながらアリスが差し出してくれたお茶は妙に身に染みた。



夕日が大分赤く染まる時間、ルミナが大穴を開けた素材を再び亜空間に返還したところで大召喚の儀はお開きとなった。


「これにて大召喚の儀、復活祭は終了となります。最後までお付き合いくださった皆様ありがとうございました!」


「またきて」


最後まで司会進行をやり切ったワカバとモミジの挨拶が終わると自然と拍手が沸く。


最後まで残った人数は開始時の半分ぐらいだろうか。結構残った方だと思う。


「想定より長くなりましたね」


「皆頑張ったからな」


子供達が活躍した影響で挑戦者が増えたのが遅くまでかかった要因だろう。


「意外な才能を持った人も見つかりましたし、開催してよかったです」


「それはなにより」


「・・・」


「どうした?」


良かったと言う割にサチの視線は落ちている。


「ソウにひとつ、報告があります」


「聞こう」


「今回の召喚で使用した神力が想定より多くなってしまいました」


「どのぐらい?」


「およそ倍ほどです。私の見通しが甘く、想定していた個数より多く召喚したのが原因です。申し訳ありません」


「倍ぐらいなら今の供給量でも問題ないだろう。これまで行わなかった期間を考えれば安く済んだぐらいだと思うが」


「しかし・・・」


「負い目を感じてるなら次回の大召喚祭りで挽回すること」


「わかりました」


軽くサチの頭をポンポンとしてこの話は終わりにする。


「あとは全体の改善点を洗い出したいところだが、ルミナ、ワカバとモミジは?」


「二人なら先に帰らせたわよー、長丁場だったしねー」


「そうか、感想とか色々聞きたかったんだが、今度にするか」


「んー・・・。この後打ち上げをうちのレストランでするのよねー。・・・チラッチラッ」


「・・・わかったわかった、俺も行けばいいんだな。サチも問題ないか?」


「大丈夫です。参加者は農園の人達と私達だけですか?」


「んーん、情報館の子達と警備隊の子達、それに職人さん、研究者さん、他にも挑戦した人とか何か手伝いしてた人とか片っ端から声かけたわよー」


「それ農園内に収まり切る人数なのですか?」


「・・・えへっ」


「・・・はぁーーー。ソウ、申し訳ありませんが手伝って頂けますか?」


「足りない料理を作ればいいんだな?わかった。ただしサチは功労者の一人だから労われる側にいること」


「しかし・・・わかりました。ソウが作ったデザートを頂きながらルミナテースに命令を出します」


「そうしてくれ」


「え?あれっ!?私の自由は!?」


「貴女が独自で動くと捌ける人も捌けなくなります。仮にも園長なのですから招いた人ぐらいちゃんともてなして下さい」


「はぁい。がんばりまーす」


園長という単語を出されたので子供のように頬を膨らませて指示に従うことを承諾する。


とはいえ農園の敷地を考えると全員その場に残るのは物理的に難しいと思う。何か対策を考えておいた方がよさそうだ。


そんなことを思いながら皆で移動すると既にリミ達が持ち帰り用の配布場所を用意していた。


「既に長蛇の列が・・・ルミナテース、貴女はリュミネソラリエの手伝いに当たって下さい。具体的に言いますと列整理と並んでる人への対応です」


「りょうかーい」


「終わり次第レストランの方に顔出してください。次の仕事を与えます」


「ひー。ソウ様ーサチナリアちゃんが鬼なんだけどー」


「自業自得だ。ちゃんと全部終えられたら何か作ってやるから頑張れ」


「うぅ・・・はぁい」


列整理に向かうルミナを見送ってからやれやれとため息を付くサチの顔を見ると俺の意図を察したのか、キリッとした表情に戻る。


「ソウはレストランの方をお願いします。会話主体の場だと思うので軽食が良いかと」


「あいよ。サチは何がいいんだ?」


「私は後でいいのですけど、出来ればプリンを所望します」


「了解。皆の分もまとめて作ろう」


「よろしくお願いします」


サチとの打ち合わせも終わったことだし、それじゃ頑張った皆に料理を振舞うとしよう。


今日は沢山の人に会ったからか、妙に気分が高揚してるし色々と作りたい気分なので丁度良い。


よし、いっちょ頑張るか!

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