オーラ技

ステージで次々と素材が斬られたり砕かれたりして行く。


「へ、へへ・・・へへへへへ・・・」


そしてステージを見ていた研究職の人が地面に手と膝を付けながら怪しい笑いを浮かべている。


今破壊された素材はどうやら彼の研究の成果だったようで、数人の猛攻を耐え切る素材となっており、仲間に自慢気に話していた。


ところが挑戦者が二桁人数に差し掛かる辺りで警備隊の子が現れ、綺麗に一刀両断されてしまい、今の状態になった。


自分の研究成果が一刀両断されたショックと研究物が手に入る喜びが同時に来るというのはなかなか味わえない感情だろう。そりゃあんな風にもなるわな。


「馬鹿だなぁ。精製前の素材を指定しろとあれほど言っただろうに」


「つ、つい自分の研究成果がどの程度か気になっちゃって、ふへへ」


「気持ちはわかるけどな。ま、折角精製品が手に入るんだからより良い物を研究しような」


「も、勿論さ。そしてまた召喚してもらうんだ・・・へへへ・・・」


「やめろ!変な性癖を開花させるんじゃない!」


・・・。


・・・見なかった事にしておこう。先輩研究員も大変だなぁ。がんばれー。


ステージに目を戻すと召喚された素材に三人同時に挑んでいるのが見える。


挑戦は何人でも可となっており、グループ毎に申請をして挑む形になっている。追加での飛び入りは不可だが再挑戦は可なので一人で挑んだ後、複数人で組んで再挑戦している人もいる。


だが挑戦者としてのプライドなのか、それとも必要になる前に素材が破壊出来てるからなのか、五人以上で挑むグループは今のところ見ていない。


それに基本的に皆力押しで挑んでいる。


今も手当たり次第に念で属性攻撃放ったり、剣や槌で斬ったり叩いたりしている。


「うーん、もうちょっと上手い方法があるような気がするんだけどなぁ」


「まだまだ序盤ですから仕方ないかと。徐々に難易度が上がっていくので次第に力量のある者が現れてくると思います」


「身の丈に合った難易度を選んでるってことか」


「簡単に壊せるものに挑んだところで面白くないですから。一定時間経過すると先ほどのように次に進める要員が現れたりしますが」


「あーなるほど。その辺りちゃんと考えられているのか」


「見る側への配慮も必要だと司会の二人から提案がありましたので採用しました」


「さすがワカバとモミジだな。エンターテイメントを理解している」


確かに今のところテンポ良く破壊と召喚が繰り返されて行ってる。


適度なタイミングで見栄えのする人が現れていたが、そうか、あれは要請があって挑戦申請していたのか。


今回は全員参加のイベントではないので如何に観覧者を飽きさせないかがひとつのポイントなんだな。


ワカバとモミジはその辺りをこれまでのイベント司会の経験から学んでいたわけか。凄いなぁ。


「続いて出てきたものは・・・おっと、これはちょっとプニプニしてて表面が柔らかいですね」


「ひんやり」


今もああやってどのような素材か少しだけヒントを与え、挑戦者の心をくすぐっている。


料理の方向性はちょっと万人受けしなさそうな方向に向かっている気がするが、司会業の方は良い方向に成長していってるみたいだ。


もしテンポが悪くなりそうになったらちょっと手助けしようかな。


サチに相談してみよう。




それなりの個数の召喚物が破壊され、難易度が上がってきたところでステージでは知った顔が三人並んでいる。


ヨシカ、ヒカネ、それにエルカートだ。


「珍しい組み合わせだな」


「最近一緒にいることが多いみたいよー。稽古付けてるんだってー」


「へー」


料理配布が一段落して遊びに来たルミナが三人の関係を教えてくれる。


二人から何かを言われたエルカートが前に出て自前の剣を取り出す。


「どう見ます?」


「そうねー。まだちょっと気の練りが甘いかしらねー。でもいい線まで行くんじゃないかしら?」


「ルミナテースにしては随分買いますね」


「私は素直に視ただけよー」


サチはルミナがこっちに来てからこのようにどの程度やれるかの寸評をしている。


それなりに腕の立つ人が出てくるようになってきたからか、どの程度やれるか気になって来てたようだ。


俺じゃその辺り見極められないから、来てくれたルミナが話し相手になってくれて助かっている。


「・・・ハーーーーーーーッ!!」


大きな声と共にエルカートが勢いを付けて剣を振り下ろすと剣が素材の中に沈んで行き、三分の二程進んだところで止まった。


「あー、惜しい!」


各所から俺と同じような惜しむ声が漏れ聞こえる。


「どう?サチナリアちゃんの予想は当たったかしら?」


「・・・正直侮っていました。あのナマクラ剣ならば素材に触れた瞬間に折れるかと思っていました。しかし折らずにあそこまで行くとは、なかなかやりますね」


「すごいわよねー」


二人の感想を聞く限りどうやらエルカートは腕を上げてきてるようだ。次会う時がちょっと楽しみになってきた。


そのエルカートはというと少し不貞腐れた顔をして二人の元に戻ると笑うヨシカに背中を叩かれて痛そうにしている。


そしてエルカートの代わりにヨシカとヒカネが前に出る。


「あらー、サービスいいわねー」


「ソウ!二人の妙技が見られますよ!」


興奮気味のサチに袖を引っ張られながら二人に注目する。


先に動いたのはヨシカでエルカートが切れ込みを入れた右半分側に立ち構えを取る。


・・・凄い、赤い炎のようなものが体の周りに見えて奥の景色が歪んで見える。


「破ッ!!」


ヨシカが正拳を繰り出すとエルカートが付けた切れ込みが下まで到達し、右半分が奥へずれた。


そして彼女が振り返った瞬間ビシビシッと亀裂が入る音がして、右半分の素材が粉々に砕け散った。


下で待機していた回収班の天機人達が緩やかに落ちてくる素材を悲鳴を上げながら慌てて回収している。がんばれー。


ヨシカと入れ替わるように今度はヒカネが残った左半分の前に立ち、手を手刀の形にして居合いの構えを取った。


目を凝らして見るとヨシカの手刀から青い刃のようなものがうっすら見える。


「・・・フッ」


素早く彼女が十字に手刀を刻むと左半分の素材は綺麗に十字に切断され、直後更にサイコロ状に細かく分解された。


そしてやっぱり下で待機していた回収班が悲鳴を上げる。あぁ、今度はヒカネが天機人達に手を振って微笑んだからか。クールビューティだからなぁ彼女。


「はー・・・いいものが見れました・・・」


興奮冷めやらぬサチを放置しつつルミナに小声で聞く。


「あれが二人の妙技という奴なのか?」


「んー・・・私からすると攻撃のひとつに過ぎないんだけど、サチナリアちゃんは念主体だから念を使わずにあれだけのことが出来る人を見ると興奮するのよー」


「ルミナに対してもか?」


「そうねー、私が技を出す時だけはキラキラした目で見てくれるわねー。もういっそのこといつでも技を披露できるようにしようかしら」


「それだと価値が薄れるんじゃないか?」


「そうなのよねー・・・難しい問題だわー」


頬に手を当てて悩むルミナにサチが駆け寄って来る。


「ルミナテース、今の妙技の解説をお願いします」


「いいわよー」


ルミナはヨシカとヒカネが放った技をどのようにして使ったかを詳しく解説してくれた。・・・はず。


俺にはちょっと専門用語が多すぎて半分も理解できなかった。


とりあえずヨシカもヒカネも気やオーラと呼ばれる念とは違う方法で攻撃を繰り出したらしい。


エルカートも今回念ではなくオーラを使った攻撃だったらしく、まだまだ練りが甘くあのような結果になってしまったが、俺からすると十分凄いと思う。


これからの成長が楽しみだ。頑張って欲しい。

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