挨拶対応
落ち着ける場所に移動して今回の大召喚の儀について改めて詳しく聞くことにした。
大召喚の儀、復活祭。
この天界こと上位天使の生活空間では浮遊島の入れ替えを定期的に行っている。
ただ、それだけでは一部鉱石などの素材の採取量を賄い切れずにいた。
そこであらかじめ要望を受け、精査が通ったもののみを神力を使ってこの地に呼び寄せる儀式が大召喚の儀と呼ばれていた。
しかし前の神がアレだったので徐々に神力が少なくなっていき、大召喚の儀は開催停止を余儀なくされた。
それからも神力は減少を続け、大召喚の儀の復活は絶望的と言われていた。
ところが俺という新しい神が現れ、神力も回復を見せ、かなりの安定量を確保できるようになったのでこの度復活させることとなった。
で、それを聞いた技師や造島師といった素材を求める人達が大喜びし、慎ましく行うのは無理だろうと判断したサチが機転を利かせて復活祭と銘打ち、各方面に打診をしたところ今回のような大規模なお祭りになってしまったらしい。
「恐らく今後も規模は違えどこのようなお祭り騒ぎになるかと思われます」
「いいじゃないか、賑やかで。皆楽しそうだし」
「はい。ですがかつての大召喚の儀とは程遠くなってしまいましたのでソウに新しく名前をつけて頂こうかと」
「名前か・・・。大召喚祭りでいいんじゃないか?」
「・・・ふっ」
「おい、なんだその笑いは」
「いえ、その、予想通りすぎまして、ぶふっ」
「くっ・・・もう少し捻ればよかったか」
「い、良いと思いますよ。分かりやすいですしっ」
「くそう・・・。それより召喚するってことは神力を使うんだろ?こっちで何かする事はないのか?」
「一応あります。とはいえ事前に召喚物は指定されていますのでソウが何かする事はありません。こちらで全て行います」
「そうか、その辺りは任せる。何か問題や対応が必要な事があったら言ってくれ」
「了解しました」
特に俺が何かすることはないということは運営側ではなく一参加者としてこのお祭りを楽しんでくれということなのだろう。ありがたい。
ただ、一般の参加者のようにはちょっと動けないような気がする。
というのもまだワカバやモミジが中央で諸注意を説明している中でも俺のいる島に次々と人が飛んで来る姿が見えるからだ。
他の島との行き来の人数と比べると圧倒的に来る数が多い。
・・・やっぱり俺に会いに来る人なんだろうなぁ。
上空から直接降りて来ず、島の端に降り立ってから歩いてる辺り、ちゃんと礼儀を弁えているのだろう。無下にはできない。
サチは召喚の方で忙しいだろうからなるべく手を煩わせないようこちらで極力応対するとしよう。
島の中央、大召喚の儀のステージと称された場所では現在召喚された大岩を天機人達がパワーアームを使いながら砕いて回収を行っている。
・・・ような音が聞こえる。
「ソウ様、研究が思うように進まず申し訳ありません」
「大丈夫だ、研究する過程自体も貴重な情報源になる。ちゃんと失敗も記録して気付いた点など残しておいてくれるとありがたい」
「ソウ様が料理を広めたというのは本当ですか?」
「広めたのは料理を良いと思ってくれた皆かな。俺は俺の知ってる料理を教えただけだよ」
「最近刺激が足りなくて・・・」
「農園に行ってみたらどうだろう?色々刺激されるものがあるかもしれないぞ」
「・・・観光島楽しかった・・・」
「そうか、それはなによりだ。気が向いたらまた遊びに行ってくれ」
「て、天機っ子を増やすご予定はないのですか!?」
「お、落ち着け。君ら天機人の気持ちはわかるがまだ検証段階だ。とりあえず触れ合う機会を徐々に増やしていくつもりだから待っててくれ」
「へー、あんたが神様か。こういっちゃなんだが思ったより普通だな」
「ははは、よく言われる。親しみを持ってくれると嬉しい」
「えっと、その・・・いつもありがと」
「どういたしまして。こちらこそわざわざ会いに来てくれてありがとな」
と、こんな感じで老若男女引っ切り無しにやってくる人と挨拶を交わしてるのでとてもじゃないがステージの様子をじっくり見る余裕がない。
ただ、長く出来た列にちゃんと並んで待ってくれてる皆を見るとそっちの方を大事にしたくなる。
一応状況をいち早く察知してやってきた警備隊のフラネンティーヌとルシエナが俺の左右に立ってくれており、列の方も情報館のアリスをはじめとしたメイド達が整理してくれてるので問題らしい問題は今のところ起きていない。ありがたい限りだ。
サチはというと自分の周りに幾つもパネルを展開して忙しそうにステージの天機人達とコンタクトを取りながら作業している。
近寄り難い雰囲気をしているからなのかパネルで遮られていて分からないからなのか誰もサチの方へは行かない。
サチがそんな状況なので俺が全て応対することになる。出来るだけ誠心誠意を心がけたい。
「・・・ふぅ。フラネンティーヌ、あとどれぐらいいる?」
「確認します・・・現在並んでいるだけでも百名は居ます。まだ新たに並ぶ人がいるのでそれ以上は来るかと思われます」
「わかった。頑張ろう」
「その、大丈夫ですか?」
「折角の機会だから頑張るよ。一応二時間後を一旦区切りの時間にしておいてくれ。あと口が渇いてくるので何か飲み物があると助かる」
「了解です。ルシエナ」
「はっ、ご用意します!」
フラネンティーヌの指示を受けてルシエナが動く。助かる。
さて、それじゃ応対再開しますかね。
二時間半後、やっと最後の挨拶の人を見送ることができた。
俺の元には一段落したサチと手伝ってくれたフラネンティーヌ、ルシエナ、アリス達情報館の子達、それに挨拶が終えるのを待っててくれた顔馴染みが集まった。
「お疲れ様でした」
「色々ありがとう。アリス達も助かったよ」
「お力になれて何よりです」
「サチの方はどうだ?」
「滞りなく」
「ステージが静かだが、終わったのか?」
「いえ、一区切りしたのを見てルミナテース達が料理を振る舞い始めたので休憩となりました」
「そうか。じゃあ俺達も座れる場所を確保しておくか」
「それでしたら我々にお任せを」
話を聞いてたヨルハネキシ、アズヨシフ率いる造島師達が素早く動き、あっという間に広々としたウッドデッキを作り上げた。
一段上がるだけの低いウッドデッキの中にもう一段上がって座れる間仕切りされた座敷が用意されており、俺はその中の一番ステージが良く見える席に通された。
「これならゆっくりくつろげるな」
「そうですね」
デッキの中央にテーブルを置いてもらい、その上に俺の作った料理を並べ、好きに取って行って席で食べるような方式にしてみた。
男性陣は塩気のあるもの、女性陣には甘いものが人気なようだ。今後の参考にさせてもらおう。
「落ち着いたことだし、これまでステージで何をやっていたか教えてくれるか?」
「了解です。記録映像を残してあるので出します」
サチがパネルを開いて見せてくれると、そこには俺の予想通りパワーアームを展開して作業している天機人の姿が映っていた。
「これは召喚した岩石から鉱石を採取している様子です」
「小さな浮遊島を削り切るのか。鉱石だけ召喚するわけにはいかないのか?」
「可能ですが鉱石の価値に対して消費神力が見合わないのと一種類ずつしか召喚できず時間効率が悪いので、このように小型の浮遊島で召喚すればある程度ランダムにはなりますが複数の鉱石をまとめて採取できます」
「なるほど。ランダム性と消費神力が反比例してるんだな」
「その通りです。他にも天機人の技術力披露や向上の場にもなるのでこの方式が最適かと」
「そうか。この後も似たような感じでやるのか?」
「いえ、この後は・・・そうですね、そろそろ再開するでしょうし、説明があると思うのでそれが終わってから補足します」
「あいよ」
再開するまでの間、他の席にいる人達と話しているとステージの方からワカバの威勢のいい声がしてきた。
「長らくお待たせしました!これより大召喚の儀、本戦を行います!」
そう告げると周囲から大きな歓声が上がる。
「うおおお!頼むぞー!」
特に造島師や技師、研究職といった技術職の人達の熱気が凄い。
「本戦?」
「本戦です。ある意味戦いなので間違いではありません」
「ふむ・・・。あまり傷つけ合うのは見たくないんだが」
「大丈夫です、相手は人ではありませんから」
ちゃんと説明がありますとサチがワカバの方を見るよう指を指すので一旦質問を止める。
「初めて参加する方もいらっしゃると思いますので本戦のご説明をします!」
「よく聞いて」
「これから召喚されるものはこれまでの鉱石とは違い、獲得するには条件が必要になります。それは破壊すること!最低でも真っ二つ、粉々に砕いても構いません。参加資格は召喚希望をされた方やその関係者以外どなたでも!腕に自信のある方は奮ってご参加ください!」
「消滅はダメ」
モミジが分かりやすく図入りのパネルを皆に見えるよう拡大して表示させている。
「面白い条件だな。壊せないといけないのか」
「誰も手出しの出来ない素材は行き過ぎたものと判断するためです。その場合その素材は提供中止とします」
「なるほど。熟知した者が参加できないのもそのためか」
「はい。知らぬ者が壊してこそ価値が出来るのです。技術者達の多くは応援しかできませんが破壊できた際には手元に素材が来るので必死に応援します」
「そうか、それでさっきから技術職の連中が盛り上がってるのか」
「そういうことです。尚、本戦から単一素材を含んだ岩石もしくは素材のみの召喚となりますので神力の消費が増えます」
「了解。消費量はどのぐらいだ?」
「全召喚物含めて現在の下界供給量六十日程ですが、徐々に難易度を上げていくため全て召喚することは無いとして二十五日程度の消費を想定しています。加えて破壊失敗があった場合消去にかかる分がありますので若干増えるとは思いますが、そちらは微々たる量でしょう」
「うん。問題なさそうだしこのまま進めてくれ」
「わかりました。では順次召喚をしていきたいと思います」
「よろしく」
技術者達が強く求める素材か。
果たしてどんなものを求めるのだろうか。楽しみだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます