荒れる議会

会議島に移動してサチに続いて広めの一室に入る。


部屋の中では大きな長机に片側二十名程の人達が並んで座っており、視線が一斉にこちらに向く。


「そちらの中央の席にお座り下さい」


「了解」


長机の短い側、座ってる人達が一望できる位置に座り、顔を上げるとこちらを見ている人達の顔と視線が一気にわかる。そして分かりやすい違いがあった。


右側に座る人達は嬉しそう、いや、羨望に近い表情や視線を向けてくる。


ぬ、末席の方に見た顔が居る。あれは確か以前うちに押し売りに来た二人組の女の方だったか。議会員になったのか。


一方左側に座る人達の視線は懐疑的な視線が多い。品定めされてる気分だが会合で慣れたから気にしない。


そして一番奥の机とは違う部屋の端、足元に麦わら帽子を置いた女性が一人こっちに嬉しそうに小さく手を振っている。アンナマリカだ。


何故あんな場所に座ってるのかはわからないが、どんな場所でも自分のスタイルを崩さない彼女を見ると少し緊張が解れる。ありがたい。


「さて。本日は急な召集に応じて頂きありがとうございます。これより主神ソウを迎えての議会を開催致します。よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


座ったまま一礼する一同に合わせて俺も一礼する。顔をあげたら全員が少しだけ驚いた顔をしていた。


「まず最初に議長を務めていただくソウから一言お願いします」


事前に打ち合わせした通りの進行をサチがしてくれるので振りに頷いて全員を見る。


「神をやっているソウだ。今日は議長を務めさせてもらう。とはいえこういった経験は浅く、至らない部分はあると思うが皆よろしく頼む」


頭は下げず、目を閉じる形で礼をする。威厳維持威厳維持。


「ありがとうございます。では本題に入らせて頂きます」


さて、挨拶は済んだし、議会の様子をしっかり見させてもらおう。




議会の場は俺の予想を大幅に超えてヒートアップしていた。


「ですから、この方法なら問題解決になりますでしょう!?」


「その案はサチナリア様に却下されたではありませんか。分からない人ですね」


「なっ!?私を侮辱するのですか!?」


「本当のことを言っただけです。頭働いていますか?」


「なんですって!?」


「あ、今のは分かりやすく侮辱しました。例に丁度いいでしょう?」


「・・・このっ!!」


「なんです?やりますか?」


「代表!落ち着いてください!」


俺の一番近い席の左右で意見のぶつかり合いが起き、そこから言い合いに転じ、今にも肉弾戦になりそうなどころを同じ側の人達が止めに入る。


・・・なんだかなぁ。


さっきからこんな感じで言い争いから一触即発な雰囲気に何度もなっている。勿論議題は何一つ解決できていない。


最初のうちは俺も止めに入ったが、途中で他の者が止めるので任せて俺は疲れて落ち着くのを待つ体勢になっている。


「なぁサチ、議会っていつもこんな感じなのか?」


「今日はいつも以上に酷いです」


サチにだけ聞こえる小さな声で聞くとうんざりした口調で返答してくれる。


正直俺は既に議論を切り上げて解散させてしまった方がいいんじゃないかと考えており、解散についてもサチの同意も得ているが、それでは今後この人達の成長に繋がらないので切り出すタイミングを見計らっている。


それと、来る前にサチが言っていた派閥というのが大体見えてきて彼らに言いたい事が出来たので今はぐっと堪えて状況観察に徹している。


派閥は大きく分けて三派閥あり、右側に並ぶのが神様絶対主義派で、神という存在は絶対と思ってる若干思い込みの激しい連中が揃っている。


一方左側に座る人のうち、手前四分の三が親サチナリア派で、サチこそこの空間で大事にすべき存在と考える連中で俺に対して若干懐疑的なところがある。


そして左側の奥の残りの四分の一が大人しい傍観勢。


言い争う二派閥から一歩離れた位置で黙ってパネルに何かを書き込んでる人達。良くも悪くも目立たない。


今までサチはこんな連中達相手に議長をやってたんだよな。なんだかとってもサチの頭を撫でてあげたい気分になった。


サチの方を見るととても申し訳なさそうな表情をしている。うーん、撫で回したい。


「ソウ様。ソウ様はどのようにお考えですか?」


「ん?なにが?」


「私達の提案についてです。ソウ様のお考えを伺ってもよろしいでしょうか」


俺の視線を妨害した右側の人をサチがとんでもない形相で睨んでいる。左側は若干びびってるが右側は気に留めずこちらに視線を集中させて来る。


「考え、か。確認するが廃墟島問題の打開策として召喚や再召喚する浮遊島をあらかじめ利用予定者が指定したものにしてはどうか、だったか?」


「その通りです」


横目でサチを見るとため息をしながら首を振っている。


「さっきサチに却下されたと言われてたが?」


「はい。ですのでソウ様に直接判断して頂こうかと思いまして」


「そうか。ちなみに却下された際に問題点の指摘があったと思うが、具体的にそこはどうやって解決するんだ?」


俺が疑問を投げかけると急に右側の連中が左右の人の顔を見合わせ小さく首を振る仕草をし始める。


「どうした?」


「い、いえ。その、問題点の指摘はありませんでした」


そう答えた次の瞬間親サチナリア派の連中が一斉に立ち上がった。


「嘘です!しっかりサチナリア様が指摘していたではないですか!」


「落ち着け。・・・と言ってるが?俺もサチが却下する際に理由を言わないとは思えん。どういうことだ?」


「えっと・・・私達はその問題点を問題と思いませんでした」


「何故?」


「ソウ様ならどうにかできると思いましたので」


・・・。


一旦目を閉じて自分の中に湧き出た感情を何とか抑えようとする。ここで感情を出しては議長失格だ。落ち着け俺。


何度か大きく深呼吸をして目を開く。


「そうか。俺がどうにか出来る出来ない以前に勝手に出来ると思い込み、問題点を見なかった時点で提案として不完全だ。却下とする」


「そう、ですか」


俺が却下を伝えると神様絶対主義派としてるだけあって反発は無く、大人しくなる。


「ふふん。サチナリア様のお言葉をちゃんと聞いていればよかったのよ」


静かになった連中に親サチナリア派の一人が言い放った言葉が俺の琴線に触れた。


「ではちゃんと聞いてる君達は廃墟島問題について何か考えは無いのか?」


「・・・え?」


「廃墟島問題はサチも頭を痛める問題のひとつだ。完全解決には至らないものの改善に繋がりそうな案はないのか?」


「そ、それは・・・」


「ないのか?全く?」


「・・・」


強めに問い詰めると親サチナリア派も完全に沈黙してしまった。なるほどな、サチが解散も辞さない理由がよくわかった。


「誰か、この件に関して案を出せる者はいないか?完璧ではなくとも前向きな案であればいい」


先ほどまでの喧騒はどこへ行ってしまったのかと思うほど長い沈黙が流れる。


やはり解散か、と諦めかけてたら奥に座ってるアンナマリカが左側の奥、傍観勢がここからじゃ挙げてるのかどうなのか判断できない程小さく手を挙げているのを教えてくれる。


「奥の一番手前の子」


「は、はぃ・・・その、ひっ!す、すみません、やっぱりなんでもありません」


一斉に視線が向いたことで怖気づいてしまったのか、せっかく挙げた手を皆一斉に下げてしまった。


「・・・アンナマリカ、すまんが今手を挙げてた人達を別室に案内してくれないか」


「了解っす。さ、皆さん立って立って、移動するっすよ」


アンナマリカに連れられ傍観勢の人達は部屋から出て行き、足音が遠くなるのを待ってから切り出す。


「さてと、俺も議長として話を聞きに行かなくてはいけないのでここではっきり言い渡しておく。今ここに残ったサチを除く者は議会員資格を剥奪とする」


「なっ!?」


さすがの事に驚いたのか皆一斉に立ち上がり抗議の声を上げる。


「ど、どういうことですか!?」


「ソウ様!それはあまりに横暴ではありませんか!?」


なんというか予想通りというべきか、これも議長の仕事かと思って落ち着くのを待っていたら俺の隣でバン!と大きな音が立った。


見るとサチが机を叩いて立ち上がっていた。うん、凄い怒気だ。


「正直、今すぐソウを連れて別室に移動したい気分ですが、私の主義に反するのできちんと説明してから退出したいと思います。文句ある人は居ませんね?ソウも私から先に説明してよろしいですか?」


「あぁ、頼む」


「そもそも議会とは問題に対して意見を出し合い相談し、良き解決方法を見つける場だったはずです。ですがどうですか?ここ最近の貴方達の行動は。派閥を作り、案をひとつだけに絞り、反対意見が出ても無理やり通そうとする。とても健全とは思えません」


主に右側を睨みながらサチは言い、今度は左側に向ける。


「一方では新しい発見や事象に考えがついていけず、発言権が強い者を盾に他者を煽るだけの思考停止した愚か者が現れる始末。私はそんな人に慕われても嬉しくありません」


はっきりそう言い放つと左側の人達はまるで叱られた子のようにうなだれる。


「最後に、そんな状態をそのまま神様であるソウの前で見せ付けたこと。ちょっとはまともな議論が交わせるかと期待していましたが、実際は更に酷くなっただけ。貴方達、学校で何を習ってきたのですか?神様の前で醜態を晒した上に抗議の声まであげて、自分達の行動を思い返して恥ずかしくないのですか?」


「・・・申し訳ありませんでした」


「すみません」


一人が搾り出すように謝罪を言うとそれに続き漏れ出すように謝罪の声が出る。


「・・・はぁ。今更無駄です。資格剥奪が覆ることはありません。ですよね?」


「あぁ」


「そんな・・・」


「どうしても再び議会員になりたいのであれば考えを改め一から出直してきてください。基準をクリアできれば再度採用もします。ソウからは何かありますか?」


「んー、大体はサチの言った通りだ。正直見ていて気持ちのいいものではなかった。俺はもっと建設的な意見の出し合いが出来る場である方が好ましい。とはいえしばらくは議会も人手不足になる、改めて議会員を目指してくれる者が出てくれるのは助かる」


ここの面子ではそうそう考え方を変えられそうではないが、言うだけは言っておく。


「あとはそうだな、再び議会員になるつもりなら自分の考えをしっかり持ち、他人の意見に対し受け止め、考え、時には歩み寄って妥協点を探せるような風になってるといいだろう。それと特定の人に傾倒し、全てを肯定して思考を停止してしまうような人は議会に必要ないし、数で反対意見を潰そうとする人や文句だけ言って改善案を示せない人も要らない。意味のある反対意見は議会が取り扱う問題と同義だ。それを重んじる事が出来る人が議会員として理想だと俺は思う。参考にしてくれ」


「はい・・・」


「最後に、神という不確かな存在が急にこの地に現れたことで戸惑いやイメージとの違いを感じる者もいると思う。それについては申し訳なく思うが神となってしまった以上俺はこの世界を維持するために精一杯頑張るので受け入れてもらえると嬉しい。それでもどうしても受け入れられないという人は移民の申請を受け付けているので無理するよりは適した別の世界に移った方が俺は良いと思ってる。そういった方向でもこれからどうするかよく考えて欲しい。以上だ」


「ありがとうございました。これをもちまして議会を終了致します」


サチが礼をすると一同礼をするので合わせる。この面子でするのはこれで最後になってしまったのが残念だ。


立ち上がり部屋を出ようとすると左側の人達がサチに寄って来る。


「サチナリア様、私、なんてご迷惑を・・・」


「今回を機に考えを改めて貰えればそれでいいです。慕って貰えること自体は嬉しいので自分と違う考えを持つ人を受け入れられる広い視野と心を持ってください」


「はい・・・頑張ります」


「では。ソウ、行きましょう」


「うん」


部屋を出るとアンナマリカが廊下で待ってくれていた。


「お疲れ様っす。案内するっすよ」


「頼む」


後は残った傍観勢と話し合いか。


真の議会はこれからなんだよな。頑張ろう。

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