西の領の観光資源
今日も主に西の領の情報収集と観察をする。
西の領は塔というダンジョンが一番の観光名所ではあるが、それ以外にも観光資源が豊富に存在している。
まず、海。
基本的に下界の海や川は人を襲う危険生物が棲んでいるのだが、この地は入り江という地形を活かして危険生物が進入できないような構造にしてある。
そのおかげで食用に向いた魚の養殖が盛んで、安定的な供給が出来ている。
他の地域でも漁業は行われているがここまで安全かつ安定した漁業が行われているところはない。他では少なからず危険が伴っている。
安定供給のある食材があればそれを活かした料理も増える。
手軽に食べられる屋台寿司から高級コース料理まで様々な魚料理が作られている。どれも美味そうだ。
他にも輸出用の加工場があり、すり身にした練り物や干物、酢漬け、魔法による冷凍保存食なんてものも作られていて、その一部は土産品としてお土産屋に並んでいる。
海自体も安全に泳げるビーチとして整備されており、海水浴の出来る貴重な場所として重要な観光資源となっている。
次に大きい観光資源になっているのは広大な果樹園だ。
熱帯系の植物が多いこの地域では気候に合わせた果物の栽培を大々的にしている。
果樹園からは生の果物をはじめ、ジャムやジュースなどの加工食品、樹液や果汁で作る化粧品、剪定や間伐、摘蕾摘花などで発生する廃材を利用した小物細工など様々なジャンルの商品が生み出されている。
生産品自体は領内であればどこでも手に入るが、現地に赴くと体験や試食、その場でしか得られない限定品などがあり足を運ぶ人が多く見られる。
周辺の生物に対しても果物を狙いにこないように対策がしっかりされていて、防護柵などの設備はもちろん、そもそも狙いに来ないように一定の生息地域を保護区に指定して
専用の餌を用意したり、適度に間引きをすることで被害が出ないようにしてある。
これ以外にも牧場や自然をそのまま整備して観光資源化させたものなど、とにかく観光を前面に押し出した領になっている。
そしてこのような観光地の管理をほぼ全てドワーフが担っている。
実働従業員自体は業種によって様々ではあるが、各事業の人種分布を見ると管理職は必ずと言っていいほどドワーフ種しかいない。
どうやらこの地のドワーフは管理主義気質な人が多く、安全で安定した事業を展開しようとすると自然と管理が得意なドワーフが就くことになるようだ。
ドワーフの管理は各事業展開を見ればわかるが、かなり徹底している。その徹底ぶりはこっちの世界に通ずるものを感じる。
徹底と言っても最高効率を求めるのではなく、最良効率を求めてる辺りが良い。
最高効率は利益は最大になるものの、従業員や資源などどこかに負荷がかかった状態で生み出される事が多いので一見良くてもいずれ崩壊を招くことが多い。
一方で最良効率は従業員や資源への負荷を極力かけずに利益を出す方法で、利益こそ大きく出ないものの士気を高く維持できるので離職率が低く欠員による損失がかなり抑えられるというのが大きい。
元々ドワーフは物作りが得意な人種で、勘であれこれ作り出せていたらしく、その組み立て能力を物作りから組織作りに転用した結果今のような産業形態が生み出されたようだ。
その転用のきっかけを与えたのは予想通りというべきか、塔を作った勇者だ。
勇者自体は自分の塔にただ人を呼びたいだけだったかもしれないが、結果として西の領は多くのドワーフ種が管理する領になった。
勇者としても子孫や好きなドワーフが自分が骨を埋めた地を治めてくれてるのなら本望なんじゃないかなと思う。
とりあえず西の領は非常に安定してるし、塔を作った勇者という存在がいるので信者が増える気がしないことはよくわかった。残念だが仕方ない。
北の領の関係で人の出入りは今後増えそうなので今後も視野範囲から消えないでもらえると嬉しい。
塔に挑む人達についてももうちょっと詳しく観察したいし。信者の皆、頼むぞー。
仕事が終わって片付けの最中、サチがパネルを開きながらこっちをチラチラ見てくる。
「どうした?」
「・・・その、怒らずに聞いていただきたいのですが・・・」
とても申し訳なさそう表情で上目遣いでこっちを見てくる。そんな顔されたら何言われても怒ったりしないぞ、たぶん。
「そろそろ議会の人達を抑えるのが難しくなってきまして」
「議会?」
「上位天使の生活空間内で新たに発見されたことや問題を取り扱い、解決策を模索したりどの程度公開するかなど話し合う場なのですが、そろそろソウに会わせろという声が強くなってきまして」
「ふむ。もう少し詳しく」
「ソウが私達の生活空間に来てから料理や食事、建築関係、精霊の生態の発見など本来ならば長期スパンで起こる変化を次々もたらした事で話題に上がることが増えた事と各地でソウと会った人が増えてきた事への焦りから徐々に声が大きくなってきた感じです」
「そうか。すまんな、面倒を掛けてしまって」
「いえ、私は刺激的な日々を過ごさせて頂いてるので問題ありません。そもそも議会自体派閥が出来上がってしまっていて問題解決の効率が落ちてきてしまいどうにかしたいと思っていたところでして」
「で、俺に見てもらってどうしたらいいか一緒に考えて欲しいと」
「はい」
「ふーむ・・・行くのはいいが、力になれるかなぁ」
「正直ソウが感じた事をそのまま伝えて頂ければ。最悪解散させても構いません」
「え?それは流石にまずくないか?」
「問題ありません。既に再編する場合の候補者リストも作成済みです」
サチの目が据わってる。むしろ一旦解散させた方がいいとまで考えてるなこれは。
「うーん、とりあえず行くだけ行ってみよう。どうするかは見てから考えるわ」
「すみませんがよろしくお願いします」
「うぃー」
返事こそ軽くしたが、サチがこれまで俺に会わせず抑えていたことを考えるとちょっと気を引き締めておいた方がよさそうだ。
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