真の議会

アンナマリカに案内され別の会議室に入る。


今度は先ほどの部屋より狭い。前に技師達と話し合いした時ぐらいだ。


「待たせてすまない」


「い、いえ、お気になさらず」


待っていてくれた傍観勢の人達に言うと緊張した様子で返事をしてくれる。


席に着くとどっと疲れが来る。あの人数を相手にしてたからなぁ。


「すまん、もうちょっと待ってくれるか?」


一言断りを入れて机に頭を横にして乗せ、目を閉じ大きく息を吐く。


目だけ開くと視界にサチが移る。困惑と申し訳無さが混同したような表情だ。大丈夫、ちゃんと頑張るからちょっとだけ休ませてくれ。


数分間休憩をすると気持ちが落ち着いて来たので顔を上げ、改めて部屋の面子を見る。


先ほどの面子と比べると地味な印象の人が多い。アンナマリカは一番後ろの席に座って優しそうに微笑んでる。


「よし、それじゃ話し合いを始めよう。まず、皆がこっちに移動してからの間何があったかの説明をサチ、頼む」


「了解しました」


サチが先ほど議会員の大半を免職させたことを説明すると傍観勢の人達は不安と困惑の表情を浮かべる。


「一度来たきりの俺がこんな事をしてしまって申し訳ないとは思ったが、サチも限界に来てたので彼らには再出発してもらうことにした」


「そうですか・・・」


「・・・このまま続けて大丈夫か?急なことだし日を改めてもいいが」


様子を見て提案をすると弱々しい雰囲気だった人達の表情がキリッとしたものに変わる。


「いえ、大丈夫です。いつかはこのような事になるのではないかと思っていました」


「これでやっとまともな議論ができます」


「ありがとうございます」


「そうか。では本題に入ろう」


今度はまともな議論が出来そうな手応えを感じ、改めて廃墟島問題についての話し合いを始める。


傍観勢、いや、残った議会員達は俺が来るまでに間にも話し合いをしてたようで、既にある程度の改善案をまとめておいてくれていた。


「そもそも島保有者が放棄する原因がちゃんと調査されていない状態なのが問題解決に繋がらない原因だと考えます」


「ふむ」


「ですのでまずは保有者の特定、現在の状況、放棄した理由などを個別に調査し、原因と傾向を調べた後に現在の規則の見直しを行うのがいいかと思います」


「なるほど。調査する人はどうする?」


「最低でも二人、多くて四人。そのうち一人は必ず制圧力に長けた人であることが好ましいです」


「制圧力?」


「調査対象が規則違反者なので最悪強襲や反撃を受ける可能性が考えられますので念や格闘など一時的に無力化できる制圧力を持った人を付かせる必要があります」


「ふむ。警備隊から出してもらうのがいいかな?」


「フラネンティーヌに打診してみますが、あちらも人手不足ですから良い返事がもらえるかどうかは不透明です。それにもう一方の交渉人も用意しなければなりません」


「それもそうか。うーん、ここがネックになるな」


皆が考える素振りを見せると一番後ろのアンナマリカが手を挙げる。


「それならひとつ提案があるっす」


「聞こう」


「先ほどクビにした人達を使うのはどうっすか?元議会員だけあって口は立つっすよ?」


「ふむ・・・俺はちょっと不安を感じるが皆はどう思う?」


「・・・案外悪くないかもしれません。調査は議会の主導で行うものなので議会と完全に関係を絶つより調査員として仕事に就かせ、少しでも議会との繋がりを持たせて尊厳を保たせていた方が彼らの行動を監視できる意味でも良いかもしれません」


「調査結果次第で議会員に昇格復帰もあるとすれば参加する人も多いはずです」


「問題行動、問題発言が見られる場合は即罷免でいいでしょう」


「なるほど。サチはどう思う?」


「良い案だと思います。通知は近日中に行いますが考える時間を与えるためにも募集は期間を置いてからがいいでしょう」


「うん。大体流れが出来てきたな。参加者は必ず研修を行い、調査の時は同じ人同士が頻繁に組まないようにした方がいいだろう」


「そうですね。組み合わせを自動で組むシステムを構築する必要がありますが、出来る方はいますか?」


「では私が」


「お願いします」


「よし、一旦まとめよう」


そう言うとサチが仕事の時のようにパネルをスッと流してくる。議事録か。非常に見やすくて助かる。


「廃墟島問題に取り組むにあたり細かい実態調査を行っていなかったため情報不足が考えられる。そこで手間ではあるが調査員を派遣し調べてもらい、原因と傾向を可視化してから島管理の規則の検討、見直しを行うこととする」


パネルをスライドすると調査員の構成についても書いてあり、皆の手元にも同じものが配布されてた。ホント優秀な補佐官だ。


「調査員は最少二名から最大四名。一名は必ず抑止力を持った者であることで、後日募集をかける予定。交渉人の方は元議会員の採用も検討する。その際は抱え込みが起きないよう対策を講じること。以上かな?」


「はい。ありがとうございます」


「ふー。とりあえず問題解決に一歩前進出来たな。実態調査不足に気付いてくれたおかげだ」


「あ、ありがとうございます」


「よし、今日の議題はここまでにしよう。皆お疲れ様」


「お疲れ様でした」


終了の礼をしてから皆が立ち上がる前に改めて声を掛ける。


「それで、解散する前にちょっとお願いがあるんだがいいか?」


「なんでしょうか?」


「一応議会員は補充していくつもりだが、皆にはこのまま議会員として辞めずに残って欲しい。あくまでお願いの範囲ではあるのだが」


「あぁ。それなら大丈夫ですソウ様、人が少なくなっても辞めるつもりはありません」


「久しぶりにまともに議論できたし、問題解決に前進できるといい充実感があるよね」


「うんうん」


「そうか。ありがとう。今後もよろしく頼むよ」


なんとか議会の存続ができそうで一安心してるとサチが今後について話し合いたいと申し出て来たので俺は断りを入れその場を任せ、部屋の外に出ることにした。


「・・・ふぅ」


「お疲れ様っすよ」


「お、アンナマリカ。抜けてきてよかったのか?」


「問題ねぇっす。お供するっすよ」


「助かる。まだ会議島を把握しきれてなくてな」


「にしし、お望みの場所にお連れするっすよ。ささ、どうぞどうぞ」


俺の考えを見透かしたような笑みを浮かべ先導するアンナマリカに俺は付いて行くことにした。

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