意外な関係

若干落ち着きを取り戻したオリビネージュは知り合いが来たから少し休憩を貰うと他の提供員に断りを入れてから俺とサチを奥へ案内してくれた。


「はー・・・」


出してくれたお茶を一口飲み、一息ついたところで改めてオリビネージュがサチ尋ねる。


「どういうことか説明してくれるんでしょうね?」


「どういうこととは?」


「変装についてよ!」


「それはもちろん混乱を避けるためです。迷惑を掛けたくありませんので」


「そうじゃなくて、その、どうして、そ、そんな・・・」


そう言って何か言い辛そうにチラチラこっちを見る。


「なんじゃ?」


気になるので返事をするとそれがオリビネージュの限界を超えてしまった。


「も、もうだめ!なんでソウ様がそんなおじいちゃんの格好してるの!?意外すぎて可笑しくて!」


「ちょっと、オリビネージュ、やめてください、折角私も慣れて来たところ、ぶっ!」


おい、サチ、今俺と目が合って噴出しただろう!


あーあーもうだめだ、二人揃って笑い転げてる。


まったく、落ち着くまでお茶でも飲んで待つとするか。


「ちょ、ちょっと、サチナリア!お茶の飲み方が様になりすぎてるんだけど!」


「や、やめてください!新しい面白ポイント見つけないでください!」


・・・。


・・・もう帰ろうかな、俺。


いつ落ち着くのかと黙って待っていると休憩室に大柄な人が戸を潜るように入ってくる。


「ちょっとぉ、なんの騒ぎ?うるさくて作業が進まないんだ、け、ど?」


入ってきた人物も俺も知っている人だった。出来れば会いたくない人物ではあったが。


「あぁ、ガリウス、ごめんね、うるさくしちゃって」


「ノンノン!リリックリアンって言ってるでしょ!それで?なにをそんなに楽しく笑ってたのよ・・・あら、なかなかナイスなお、じ、い、さ、ま」


「ぶふっ!」


相変わらずいつ弾け飛ぶかわからないようなピッチピチの女装をしたガリウスがこっちにウィンクを飛ばしてくる。もうサチは放っておく。


「・・・ってあら?あらあら、ソウ様じゃないの!」


「よ。相変わらず元気そうだな」


「元気・・・んーそうでもないわよ?折角香水を皆様に配れると思ったのに裏方に回れって言われちゃったの。もーホントやんなっちゃうわ!」


俺の変装姿にあまり動じてないガリウスは不満を言いながらクネクネする。目を閉じたい。


「そうか、あの香水の小瓶はガ・・・リリックリアンが作ったものか。見せてもらったがいいものだった」


「あらそうなの!?気に入って頂けたようでなによりだわん!」


こらこら、飛んで喜ぶんじゃない、飛ぶ度に床が揺れる。


「はー・・・アンタを見てたらちょっと落ち着いてきたわ」


「失礼しちゃうわね!」


呼吸を整えたオリビネージュとガリウスの会話の雰囲気を見ていてふと疑問が湧く。


「つかぬ事を聞くが、二人はどういう関係なんだ?」


「あ、そうでした、ソウ様はご存知無かったですね」


そう言って立ち上がりガリウスの隣に立つ。


「先日は弟の落し物を拾って頂きありがとうございました」


「感謝していますわ」


手を前にして礼儀正しくお辞儀するオリビネージュに対してスカートの裾を持って膝を折る形で頭を下げるガリウス。


いや、そんな違いよりも、え?今弟って言った?マジで!?


「お、驚いてるようですが、本当です。私がガリウスを知っていたのもオリビネージュの弟だったからですし、くふふっ」


「そ、そうだったのか・・・」


こっちに来て色々驚かされた事はあったが、その中でも上位に食い込む驚きだぞ。


とりあえず俺の反応を見て肩を震わせながら満足そうな顔をしているサチは後でお仕置きしよう。俺が知るのを黙って待ってやがったからな。


「私としてはソウ様のその姿の方が驚きですよ。ガリウスもそう思うでしょ?」


「お爺様になってもス、テ、キ!」


「ソウ様に色目使ってんじゃないわよ!」


そう言ってガリウスの素肌が出てる部分を的確に平手打ちしていい音が響く。相変わらずいいつっこみをする。ガリウスはノーダメージのようだ。


「今は好々爺イチロウってことで頼むよ」


「わかりました。そうだ、香水の瓶の説明が途中でしたね、ガリウス、ちょっと何本か出して」


「リリックリアン!もーお姉様ってばいつもこんな感じで横暴なのよ!ひどいと思いません!?」


「ははは、ノーコメントで」


ぶーぶー言いながらテーブルの上に次々と香水の瓶を置いてく。


先ほど外で見た花型の瓶のほかにも草や木の形をした瓶もある。


「ほう、こっちの木のモチーフの瓶は比較的シンプルなデザインだな」


「あら、わかる?こっちはどちらかといえば殿方向けの香水なの。吸い上げる量も控えめになっているのよ」


「へー」


「本当は作るつもりなかったんだけどね。作る気にさせてくれたのは他ならぬソウ様、あ、な、た、よ」


「お、俺?」


「そ。殿方でも好む香りがあるって知れたのは大きかったわ。感謝してるっ」


「お、おう、そうか。それはよかった」


新たな考えの助けになれたのは嬉しいが、そのウィンクはいらないぞ。


「もし気に入ったのがあれば仰ってくださいな。これらは試作品なので後日お渡しということになるけ、ど」


「ふむ。それならまた次来た時改めて見させてもらおうかな。前に貰った香水もまだあるし」


「あらそう?なら頑張って良いものに仕上げておくわ」


「あぁ、楽しみにしてる」


一見女装の大男だが、こういう部分は職人なんだなと感じさせる。


「そういえばオリビネージュはガリウスの手伝いでここに来ているのですか?」


ちゃっかり自分用の一本を決めたサチが改めてオリビネージュの格好を見ながら聞く。


「半分は正解。ここは数日置きに提供するものが変わるの。私みたいに別で本業をやってる人が出張出展する場になってるのよ」


「へー。じゃあ出張占いするのか?」


「はい、本格的なものではなく花を使った簡易的な占いをするつもりです」


「この前俺達を占ったときのようなものか」


「あれよりもっと簡単なもので、その日のラッキーカラーを占うだけです。しばらくは質より回転を取ったほうがいいでしょうから」


「なるほどー」


どういう占いをするのかちょっと気になる。


「いつ占いするのですか?」


「んー・・・んふふー、内緒にしとこうかしら」


サチの問いにオリビネージュは少し考えてから勝ち誇ったように笑って答える。


「な!?」


「占って欲しければ足繁く通って確率を上げることね。そういうところにも運はあるのよ」


「ぐ・・・」


実に占い師らしい理由にサチが言葉を詰まらせる。仲いいなぁ。


そんな二人のやり取りをしていたらガリウスがこっちにやってきて俺にだけ聞こえるようにそっと耳打ちをする。体から発せられる熱を感じるが匂いは前ほどきつくない。


「お姉様はああ言ってるけど、実はまだ準備が出来てないだけなのよ」


「そうなのか?」


「しばらくの間はここに来る人を観察して占いの精度を上げたいって言ってたわ。詳しいことは教えてくれなかったけど」


「なるほど」


占いというのは全てがその場の運だけで決まるのではなく、ある程度統計や傾向から導き出す部分がある。


オリビネージュは簡単なものと言ってはいたがその辺り占い師として真っ直ぐ取り組む姿勢が伺える。


この辺りガリウスと姉弟なんだなと感じる。


「ま、他にもどんな出展があるか気になるし。暇が出来たら来るようにするよ」


「そうして下さると嬉しいわ」


ガリウスが作る男向けの香水というのも気になるしな。


「ならばトーフィスに問い合わせて来るだけです!」


「残念でした、管理人さんにはフェイクを混ぜるように言ってありますー。貴女の行動なんてお見通しなのよ!」


「汚い占い師ですね!そんな可愛い服着てるのに!」


「可愛い服は関係ないでしょうが!」


・・・仲いいなぁ。


言い合いを止めるべきか少し困っているガリウスを尻目に俺は残ってたお茶を啜って状況を楽しむことにした。

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