花畑地区

竹林地区を歩いて出た俺達は橋を渡り花畑地区に移動した。


花畑地区は他の地区と違い木が少なくちょっとした丘一面に花が植えられていて綺麗だ。


ここは主要道から細い小道が多岐張り巡らされており、それがそれぞれの花壇を区分けするようになっている。


花壇は花の色でまとめられていたり、種類でまとめられていたり、中には模様を描くように植えられている花壇もあってそれぞれコンセプトを感じて見ていて楽しい。


それに何より花壇は上を見上げる必要がなくて体に負担がかからないのがなによりありがたい。自然と皆同じような体勢になってるぐらいだ。


「・・・」


そんな花をジッと真剣な眼差しでサチは見ている。


あまり知られていないことだが、サチは花が好きだ。


特に俺がサチと共に生活するようになり、島の土いじりをするようになってから花に対しての興味が増したらしく、最近は花や植物の情報収集をしている姿をよく見かける。


日々の世話はサチが担当し、植え替えや土作りは俺が担当するという感じで役割分担してうちの島の花壇はいつも綺麗に保たれている。


そんな花好きのサチが俺の腕をさっきからガッシリ掴んで離さない。


どういうことなのかと最初は思ったが、その理由はすぐにわかった。


「さ、次にいきますよ」


「え?もう?」


「まだまだ花壇はありますので」


そう言って一見支えてるように見せて実際は凄い力で早くとせがむように引っ張って来る。


もうちょっと年寄りを労わってと思うが偽の年寄りだし、相手は俺だから遠慮する必要もないということなんだろう。


ま、それだけ内心興奮しているのだろう。そう思うと可愛く見えてくる。


仕方ない、限られた時間で俺もそれぞれの花壇を楽しむとしよう。


こっちの世界の植物は前の世界の植物と若干違っていて見ていて面白い。


例えばさっきまで見ていた竹林の竹なんかは円ではなく六角形をしている。


逆に言えばそのぐらいの変化であって、水と日の光を栄養とし、育ち、葉を芽吹かせ、花を咲かせ、種を作り散る、そんな基本的なところは大体同じだ。


たまに羽綿草のような予想外な植物もあるが、前の世界にも虫を食べるような植物もあったのでどっこいどっこいな気もする。


そんな感じで異世界であっても金属で出来たよくわからない形状のものが植物として扱われているなんてことは無い。


ただ、こっちの世界は技術力があるので品種改良が進んでいるため、基本的に居住島で植えられている植物は環境変化に強い品種が多い。


永久花はその品種改良の結果生まれたとかなんとか。


なんでも花びらが葉と同じ役割を持っているので散らせる必要がないからずっと咲いていられるんだったかな、確か。


そのような高度な品種改良技術を持っていてもこの世界には手付かずの植物の方が圧倒的に多い。


それは品種改良基準がかなり厳しく、その他に害を与えないというのが最低条件になっているからだ。


このその他というのは当植物以外のすべてにあたり、人体はもちろん、他の植物や地質や環境などあらゆるものに対してなのでこれが最低条件というのは相当厳しい条件だと思う。


ま、それぐらいでいいのかなと前の世界を考えると思う。


人の都合に合わせすぎた結果、人にすら合わなくなってしまった植物が生み出されてしまってたからな。


「おじいちゃん?大丈夫ですか?」


「ん?あぁ、すまんすまん。大丈夫だ」


花を楽しもうと思ってたのについ考えに耽ってしまっていた。


「疲れた時はちゃんと言ってくださいね」


そう言って取ってた俺の腕をギュッと自分の体に押し付ける。その素晴らしい感触に疲れも考えも吹き飛んでしまった。


「わかった」


変装しているからか、普段人のいる場所ではあまりしない大胆な行動に若干驚きつつもそのまま体を押し当ててくるので俺は今晩がんばることを心に決めた。



サチと花畑地区を堪能し、ここから車両に乗ろうということになったので花畑地区の駅前までやってきた。


駅前には駅の他に数件建物や休憩所が建っており、車両に乗るまで時間がありそうだったので二人で見て回ることにした。


建物では花にちなんだお土産を提供しているようで、どこも華やかな印象を受ける。


そんな中俺は見覚えのある人物を見かけた。


「のう、ナリア。あれ・・・」


サチにだけわかるように小さく指をさした先を見たサチの眉間に皺が寄る。


「オリビネージュ、ですね」


以前占いをしてくれた占い師のオリビネージュが何故かチェック柄の可愛いエプロンと花の刺繍が入った白い三角巾をして他の提供人と一緒に小瓶らしきものを来た人に配っていた。


「見に行ってみるかえ?」


「それは勿論。こんな面白いこと滅多にありませんから」


悪い笑み浮かべてるなぁ。


意気揚々と向かうサチに付いて行き、何を提供しているのか確かめる。


テーブルの上には茎と葉のような細工が施されたガラスの小瓶が沢山並んでいた。


「あら、おじいちゃん、その瓶に興味があるの?」


俺が瓶を見ているとそれに気付いたオリビネージュが気さくに声をかけて来た。


「これはこの蓋と合わせて一組として使うものなんですよ」


そう言って近くにあった花型の蓋を見せてくれる。


蓋には管のようなものが付いており、その管を瓶の口に滑り込ませて閉めると瓶がひとつの花の形になる。


「おぉ、これはこれは」


「瓶の中に香水を入れると中の香水を吸い上げて蓋の花から香りが出るようになってるんです」


「ほうほう」


「ここではお好みの花の香りの香水も提供しております。よろしければそちらの方・・・も・・・」


オリビネージュがサチの方をしっかり見たところでそれが誰だか分かったようで、続く言葉がどこかに飛んでいってしまった。


「ちょ!?え!?なんで貴女がっ!」


大きな声を出しそうになったのでサチがオリビネージュの口を手で塞ぐ。


「静かに。騒ぎにならないよう変装しているのです。分かりましたか?」


若干目を白黒させつつもうんうんと頷くので口を開放する。


少し息を整えてから改めてサチの姿を上から下へ吟味するように見てオリビネージュは感想を言う。


「・・・変装ねぇ。確かに普段の貴女じゃしない格好ね」


「今はナリアということになっています」


「ひねりが無いわね。・・・ん?え?じゃあこちらのおじいちゃんは・・・?」


ギギギと音がするような動きでこっちに振り向いたオリビネージュの顔は嫌な予感を感じた時の顔をしていた。


「・・・」


「・・・や。久しぶり」


「ソ、ソ!むぐっ!?」


軽く挨拶をするとさっき以上の反応をしそうだったのを予知してたサチがすかさず手で口を塞ぐ。


口を塞がれてもなお手がバタバタ動くオリビネージュをサチは冷静に落ち着かせようとする。


ただ、よく見るとサチの肩が小刻みに震えていた。


こりゃ確実に面白がってるな。やれやれ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る