樹木地区を歩く

中央広場には小さな雛壇が用意されており、どうやらそこで挨拶をするようなので他の人達に混ざって待機する。


「・・・遅いのぅ」


「そうですね」


ところが十分以上経ってもトーフィスは現れず、待ってる人達も次第に不満の声が漏れ始める。


不味いな、と対策を考えようとし始めたところで広場に拡大化された声が通る。


「お待たせしました!これより観光島管理人より挨拶があります!」


声の主はヘリーゼのようだ。相変わらず勢いのある声をしている。


ヘリーゼの案内の声が無くなると壇上にゆっくりとトーフィスが上がる。


・・・大丈夫か?アイツ。


緊張に緊張してそれこそ目を白黒させてるのが手に取るようにわかる。


そういえば前にストレスで具合悪くなったって聞いたな。うーん・・・。


「あ・・・えっと・・・」


多くの視線に晒されて完全に声が出なくなってしまってる。


・・・仕方ない。


そう思って持ってる杖から手を離すと言葉を待つ静かな場にカランといい音が響き渡る。


すると壇上を見ていた人達が一斉にこっちを振り向く。


「おぉ・・・杖が・・・」


「大丈夫ですか?」


「すまんのぅ」


すぐさま杖を拾い上げたサチが声を掛けてくれるので感謝を言う。


特に問題ないと思ったのか興味を失った人達は再び壇上のトーフィスを見るが、そのトーフィスの顔つきが先ほどの緊張からいつもの仕事のできる男の顔に戻っていた。


よしよし、上手く行ったようだ。


「皆様、本日はご来島いただきありがとうございます。私、この観光島の管理人のトーフィスと申します」


一礼して自己紹介をし、観光島の成り行き、職人達の協力、各名所の簡単な案内、注意事項などを手短に説明する。


「ご静聴ありがとうございました。それでは観光島、これより開園致します!」


トーフィスの声と同時に空で弾ける音がする。


念による花火のようなものだ。実はこれの提案をしたのは俺だったりする。


セレモニーをすることもそこで使われることも知らなかったけど、いい使い方だと思う。


開園のセレモニーが終わると客達は各々目的の方向へ歩き出す。目玉である観光車両と町地区に向かう人が多い。


そんな様子を見てからトーフィスは壇上を降り、駆けつけたヘリーゼに倒れこむように体を預けていた。


挨拶ご苦労様。よかったぞ。


「さて、ワシらも行くとするかの」


「はい」


トーフィスの事は少し心配だったが、こちらの視線に気付いたヘリーゼが軽く会釈してきた。


どうやらヘリーゼには俺の正体がばれてしまったようだが、特に止めに来ないようなのでこのまま楽しんでいいのだろう。


トーフィスはヘリーゼに任せ、俺とサチは予定通り観光島を散策するため中央広場を後にした。




一足先に町地区で軽食を買ってきたサチと共にゆっくりと樹木地区の脇道を歩く。


どの木も手入れが行き届いており、小さな花を咲かせていたり、新緑が芽吹いていたりと目に優しい。


そんな気持ちのいい並木道だが一緒に歩くサチの機嫌はちょっと悪い。


「あにもあみさまがろうけをえむしらくても」


団子を頬張りながら喋ると何言ってるかわからん。もう一回。


「んぐ。ですから、何も神様が道化を演じなくても、と」


「神のソウなら威厳維持でやらないかもしれないが、今は好々爺イチロウだから別に問題ないだろう」


「むぅ・・・」


町地区を覗いて来たサチが言うにはかなり混雑していたようで、その分今歩いてる並木道は俺たちぐらいしか居ないので口調は元に戻している。


「それに俺はちょっとしたきっかけを与えたに過ぎない。あの短い間で冷静さを取り戻してちゃんと開会式をやりきれたのはトーフィス自身の力だよ」


「ソウはトーフィスに対して少し甘くないですか?」


「そうかなぁ。そもそもこの島自体俺の趣味全開で召還したものだし、それを管理してくれてるんだから多少の手助けするさ。実際よくやってくれてるし」


並木道を実際歩いてみると様々なところに気配りがされている。


要所要所に休憩所やベンチがあってそこから見える景観が良かったり、程よい曲線を描く道筋が歩いてて楽しかったり、細かい部分まで造島師の趣向が凝らしてある。


恐らく他の場所もこのように職人が持ちうる才を遺憾なく発揮しているのは容易に想像できる。


そんな職人たちをまとめ、ここまでの島にしてくれたトーフィスの能力を俺は高く評価している。


「いい人材見つけたな。褒めて使わす」


ちょっと王様風に言ってみるとサチは一瞬驚くが気に入ったのか直ぐにノリを合わせてきた。


「ありがとうございます。今後も適材適所を努めていく所存です」


「うんむ!・・・やっぱガラじゃないな」


「違和感が凄いですね」


日頃威厳云々言うサチでもこれは違うようだ。


「やっぱりこれがいいかのぅ」


「ぶっ!なんでお爺さんだけそんな出来がいいのですか!」


「ほっほっほ」


やはり明確なイメージがあるとないとでは差が出るようだ。


イメージの元は前の神のあの爺さんだ。


接した時間なんて俺がこっちの世界に来てほんの僅かしかないはずなんだが、妙に印象に残っている。


それとも神としての力を受け継いだからだろうか。わからん。


ま、折角の利用機会だ。サチも喜んでることだし、存分に活用させてもらおう。

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