アストの職人仲間

今日はサチと共に相談を受けに指定された島へやってきた。


「お、いたいた」


見知った大きな背中を見かけ、声を出すと相手側も気付いたようで振り返り凄い速さでこっちにやってきた。


「ソウ様!ごの度ばご足労ありがどうごぜぇまず!」


顔に似合わず野太い声を出す男、精錬技師のアストレウスはいつものように気さくな感じで俺とサチに深々と礼をする。


「いやいや、アストの頼みとあらば足も運ぶよ。いつも色々作って貰ってるし」


「勿体無ねぇお言葉でず!」


「それで、相談とは?」


話が進まないと見たサチが本題に切り出す。


「実ば、会っで頂ぎだい人物がおりまんず」


アストの相談とは職人仲間の一人の男についてだった。


その男は腕こそ確かなのだが、依頼は知った人からしか受けないという堅物で、これまでアストからは部品の依頼などをしていた。


しかし、ここ最近俺からアストにあれこれ頼んだおかげでアストの手が回らなくなり、見兼ねて手伝ったりしてくれたそうだ。


それまでアストが作る物を見知ってた分、ここ最近作る物が変わってきたことにその男は敏感に察知し、依頼者が誰かアストに問い質した。


アストはその質問に対して言いよどんで答えられなかったそうだ。


「なんでだ?普通に俺からの依頼って言えば良かったんじゃないのか?」


「・・・あいつは今のソウ様に対して疑問を持っているんです」


いつの間にか職人喋りになってたアストは俯き気味に言う。


「俺に疑問?」


「疑問というか認めてないという感じですかね。ソウ様の各地での活動は我々職人の耳にも届いているんですが、あいつは見たものしか信じない性格でして」


「あー・・・なるほどな」


その男も以前会った寝具職人のカルファのように自分の感性を大切にしているタイプなのだろう。


「それ以降奴は一切顔を出さなくなりました。一応連絡は取り合ってはいるんですが、依頼主を明かせない限り手伝えないと。あいつの作る部品の精度はなかなか真似できるものではないので、出来ればあいつの部品で製作したいんです」


「そうか。わかった、会いに行こう」


「感謝じまず!」


「それで、その人物がいる島はあそこの島か?」


「っ!ハハハ!さずが、お見通しでじだが!」


来た時俺の指差す島の方を心配そうに見てたからな。


さて、一体どんな人なんだろうか。


出来れば道具作りを手伝ってくれてる感謝を伝えられればいいな。




サチに抱えられ、アストの案内で目的の人物のいる島へ降り立つ。


「フィリクス!いるが!?アストレウスだ!」


家の前に行くとアストはそのまま戸を力強く叩いて中の人を呼ぶ。


程なくすると扉が開き、迷惑そうな顔をした一人の男が出てくる。


「アストレウス。もう少し静かにしてくれといつも言ってるだろう」


長身で細身の男性で、長い髪を後ろで束ねた黒髪が特徴的だ。なんとなく刀傷の神を彷彿とさせる。


「おめぇが連絡じねぇがらわざわざ来だんじゃねぇが」


「あぁ。すまんな、ちょっと立て込んでてな。・・・それで、そっちは?随分お偉い方が一緒のようだが?」


フィリクスと呼ばれた男はサチを一瞥してからこっちを値踏みするよう目を細めてに見て来る。ははは、もうその視線は慣れたぞ。


「ごぢらソウ様だ。サチナリア様がお仕えずる神様だ」


「・・・神?」


「・・・どうも」


フィリクスの表情が更に険しくなる。うーん、凄い疑われっぷりだ。


「前に依頼者を教えられないど言っだろ。ごの方が依頼者だがらだ」


「そういうことか。・・・ふむ」


アストから紹介を受けてフィリクスは口に手を当ててこちらを凝視しながら何かを考えているようだ。


その様子を見てアストは俺とフィリクスの間に入ってくる。


「悪い癖ででんぞ。失礼だろう」


「・・・ん?あぁ、すまん。そうだな、顔を出さなかった理由も話しておきたいし、上がってくれ」


そう言ってフィリクスは家に俺達を招きいれてくれる。


「・・・」


「・・・?」


なんだ?今フィリクスが複雑な視線をこっちに一瞬送ってきたように見えた。


困っているような、悩んでいるような、そして助けを求めているような、そんな視線だった。


「ソウ?」


「あぁ。じゃあお邪魔させてもらおう」


ひとまず話を聞かないと始まらないか。


何か力になれればいいんだが。



「あ?じゃあ何か?依頼者を知らされなかったから来なくなったわけじゃねぇのか?」


職人喋りになったアストがフィリクスが来なくなった理由を聞いて声を上げる。


「優先度が下になってたと言うのは否定しないが、直接的な理由ではない」


「なんだ、そうだったのか。てっきり依頼者を知らないから来なくなったのかと」


どうやら今回俺とサチが呼ばれたのはアストの勘違いだったようだ。


「すまねぇ、ソウ様、サチナリア様。わざわざ足を運んで下さったのに」


「気にするな。道具作りに携わってくれてるんだろ?俺も顔を見ておきたかったから丁度よかったよ」


「ありがとうございます」


深々と頭を下げるアストにフォローを入れてると少し驚いた様子でフィリクスがこっちを見てくる。


「ん?」


「・・・いえ、あのアストレウスがここまで礼を尽くすのを見たのが初めてで。本当に神なのか?」


「一応な」


「あのってなんだ!あのって!」


抗議するアストを完全に無視してフィリクスはやはりどこか悩んだように視線を泳がせてからこちらをしっかり見据えて口を開いた。


「神と言うならひとつ相談が・・・っ!?」


そう言い掛けたところで何かに気付いてフィリクスは立ち上がった。


「アニス!」


急いだ様子で向かった先には一人の女性がトレイにお茶を乗せて立っていた。


栗色のウェーブの髪をした女性だが肩に羽織をかけていてどこか病弱そうな雰囲気を醸し出している。


「ダメよ、お客様がいらしたのならお茶を出さないと」


「だからってお前、立ち歩いて大丈夫なのか?」


「大丈夫。それに久しぶりの学友に顔出しておきたかったから」


「学友?」


アニスと呼ばれた女性はフィリクスに補助して貰いながらゆっくり歩いてトレイに乗せたお茶をこちらに出してから席に着く。


「お久しぶりね、サチナリア」


「えぇ、お久しぶりです、アニスヒリテ」


そう言って優しく微笑むアニスヒリテとサチに知らなかったと言わんばかりにフィリクスとアストは声を出さずに驚いて二人を見比べて固まってしまった。

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