嬉しい発見

「それで、相談ってのは?」


落ち着きを取り戻したフィリクスに改めて聞く。


「はい、実は彼女の事で」


彼女、アニスヒリテはサチの学友で彫金を主にした精錬技師の道に進んだ後、フィリクスと出会い共に生活をするようになっていた。


しかし、ここ最近調子が悪く、微熱を出したり眩暈がしたりという日が増えてきた。


浄化の念を掛けると若干は改善が見られるものの、完治するという事は無く、このところは寝室で寝ている事が多かった。


「じゃあ連絡が無がっだんば・・・」


「あぁ、彼女の看病をしててな。正直顔を出したとしても気になって仕事に手が付かないと思う」


「ぞれならぞうど言えばよがっだんに」


「・・・すまん」


今度はフィリクスがアストに頭を下げる。ひとまず二人の関係が悪化するような事ではなかったようで良かった。


だが、改めて浄化の念をかけたサチとアニスヒリテの表情は芳しくない。


「ダメか?」


「はい。先程の説明にあったように少し楽にはなるようですが一時的なもののようです」


「そうか・・・」


フィリクスもどうしたらいいのか困り果てた様子で出されたお茶を口にするとその表情が更に強張る。


「すっぱ。アニス、このお茶妙にすっぱいな」


「そうかしら?私はこれぐらいがいいと思ったんだけど」


その会話を聞いて俺もお茶を恐る恐る口にすると確かに柑橘系の酸味が強いお茶だった。


色々食べてきた俺は耐えられるレベルだが、一般人にこれはちょっとすっぱいな。


・・・まてよ?


「あのさ、俺が診てもいいかな?」


「ソウがですか?」


「うん。ちょっと気になる事があって。どうかな?」


フィリクスとアニスヒリテに聞く。


「私は構いません」


「アニスがそう言うなら。変な事はしないで欲しい」


「あぁ、大丈夫。ちょっと手を握らせてもらうだけだ」


サチと場所を入れ替わって貰い、その際サチに目線で念を使う事を伝え許可を得る。


「では手を」


「は、はい」


膝を付き、出された手をそっと取って目を閉じて念を使う体勢に入る。


集中、手の先からの生命の分析、可能判定、よし、実行。


念を発動させるとアニスヒリテの体の状態の詳細が手の先から伝わってくる。


あーやっぱりそうか。


「ふー・・・」


「ど、どうだった?」


目を開け一息つくとアニスヒリテの隣に来ていたフィリクスが聞いてくる。


「よかったな、おめでただ」


「ん?おめでた?何がおめでたいんだ?」


俺の言った言葉が伝わらなかったのか少しムッとした表情をするので改めて分かりやすく答える。


「落ち着け、お父さん」


そう言うとアニスヒリテがいち早くその意味に気付いて満面の笑みでフィリクスを見るとフィリクスは目を白黒させながら叫んだ。


「な、なんだってー!?」




「確かに妊娠しているようです」


専用ユニットを展開した二人の天機人がアニスヒリテを精密スキャンし、詳細な情報を本人のパネルに送信する。


「最初のページに今回の詳細情報と今後変化するであろう予測値が記載されています。次に今後体が要求する栄養値とそれを補うための栄養値です。後述の申請を行うとこちらから要員を送り生活補助や体調管理などフルサポート致します」


「う、うん」


やってきた天機人が事務的に説明をするのをフィリクスとアニスヒリテ、それに後学のためとアストも一緒に頑張って聞いている。


そんな様子を離れたところで見ながらサチに小声で尋ねる。


「彼女達はサチが呼んだのか?」


「はい。二人は育児補助施設所属の天機人です。本来なら施設であれこれ検査して判明する事なのですが、誰かさんがそれを飛ばして判明させてしまいましたので連絡して来て貰いました」


若干棘のある言い方なのは、これは恐らく一般的には使えない特殊な念を使ったって事なのだろう。俺はその辺りの違いが分からないからなぁ。


「不味かったか?」


「いえ、余計な手間が省けてよかったです。しかしよく気付きましたね」


「下界で似たような症状をしている女性を見てたからな。もしやと思ってアタリを付けて念を使ったら上手く行った感じだ」


「なるほど、普段の仕事が功を奏したわけですか」


「ま、そんなとこだ」


下界からの願いには母となる女性から子の安寧を願う願い事が結構来るからな。しかも切に願うから届きやすい。


一日一回は必ずその手の願い事を本人が気付かないよう遠まわしに叶うよう仕向けてる気がする。それだけ問題を抱える状況があるということなんだよな。


「サチナリア様、補助申請が出ましたので許可をお願いします」


「許可します」


サチが入力された内容を確認して許可を出す。


これで施設から補助員がやってきてアニスヒリテの生活補助をしてくれるようになる。


各島に一家族が一般的なここの生活スタイルだと何かあったとき大変だろうからな。いいシステムだと思う。


「住み込みでサポートするのか?」


「申請者が望めばそれも可能ですが、今回は近くから補助員が通う形ですね」


「色々選べるんだな」


「要望に応じて行った結果ですね。二人の時間も欲しいという声が多かったので」


「なるほど」


なんとなく気持ちがわかる。イチャイチャする時間は大事だ。うん。


「子供が増えてくると住み込みで頼む場合が多くなります。状況に応じて増員して役割分担したりもします」


「手厚いサポートでいいが、そのまま天機人のいる生活に慣れてしまったりしないのか?」


「少なからずありますが特に問題ありません。子供好きな天機人は多いので」


「あー・・・」


そういえばリゼがそんな感じだったな。


ということは育児補助施設所属は人気職に就くようなものなんだろうな。


アニスヒリテ、フィリクス、アストの三人を連れて日々気をつけなきゃいけない事を事細かに説明する天機人を見てふとある考えが浮かぶので更に声を小さくして聞く。


「浮気とかないのか?」


「基本的に無いですね。天機人にとっては大切な職場なのでそれを壊す原因を生む事はまずしません。稀に関係を持つ者もいますが、その場合家族全員の了承を得た上なので関係が拗れることはありません」


「そういうもんか」


「別に複数の相手と関係を持ってもちゃんと全員が納得できれば問題ありませんし、何か問題が起きれば各所が動きます。それにここ最近はその手の報告がほぼなくなりましたから」


「そうなの?」


「他人事のように言いますがソウの影響ですから。神様がこの地に姿を見せるようになったと聞けば平穏になるよう勤めるものです」


「そうか。そういう意味じゃ一役買ってるんだな俺。ちょっと恐れられてるみたいで寂しいけど」


「こればかりは仕方ない事かと。徐々に交流を広げ、ソウがどういう人物の神様なのか知って貰うしかありません」


「そうだなぁ。善処するよ」


「最低限の威厳は忘れないでくださいね」


「ははは。あいよー」


威厳もへったくれもない緩いトーンで返事を返すがサチはこれに対して特に何も反応はない。


今この場で話してるのは俺とサチだけだし、俺が時と場合によってそれなりに、それこそサチの言う最低限の威厳は見せているのを知っているからだろう。と、思いたい。


ちゃんと威厳を見せてられているのか若干不安になってきたところで皆が戻って来た。


「サチナリア様、作業完了致しました。情報を送信します」


「ご苦労様。・・・特に問題ないようですね。それでは紹介します。こちらソウ、私の仕える神様です」


「ソウ様!お初にお目にかかります!こんな近くでお会いできるなんて!」


「お、おう。来てくれてありがとな」


仕事が終わって業務から解放された天機人は本来の性格を出したのかサチの紹介興奮気味に深々と頭を下げてきた。


「いえいえ、それが私達の仕事ですので。はぁ、こんな近くで話せるなんて・・・」


「り、リゼさんから新しい事業を考案して下さったと聞きました!」


「あぁ、うん。まだ試験段階だけどね」


どうやらリゼ伝いに誇張されて俺のことが伝わってるようだ。


子供好きの天機人からすればそういう目で見られても仕方ないのかな。


若干うっとりした表情でこちらを見てくるのでどうしたらいいのか困ってるとサチが助け舟を出してくれる。


「握手してあげたらどうです?」


「そうだな。握手する?」


「ぜぜぜ、是非!」


片手を差し出すと両手でしっかり握られ、もうこの手は外して保管するとか言い出したので精々自慢話するぐらいに留めてと譲歩して貰った。仕事に支障が出るしな。


・・・ん?なんで後ろにアニスヒリテも並んでるんだ?


「折角来ていただいたので機会を逃すのは勿体無いかと」


あぁ、ご利益目当てか。


いいよ、特別に何かこちらからすることはないけど、気持ちって大事だから握手しよう。


フィリクスもか?いや、そんな片膝付かなくても。


「自分の場合は失礼な態度をとってしまった事に対しての謝罪があります」


「そういうことか。なら今後もアストと一緒に良い道具作りを頼むよ」


「わかりました。アストレウス、そういうことだから今後は気兼ねなく仕事を回してくれ」


「助がる。が、まず生活を落ぢ着げでがらだ」


「あぁ。今度はちゃんと連絡するからその時はよろしくな」


そう言って二人はガッシリ握手する。よかったよかった。


さてと、用事も済んだし俺とサチは先にお暇させてもらおうかな。


サチとアニスヒリテも何かの情報のやり取りを終えたみたいだし、頃合だろう。


フィリクスと話が残ってるアストに後は任せ、俺とサチは三人に感謝されながら家を後にした。




帰宅後、いつものように風呂に入ってるが、サチが帰ってから静かだ。


「・・・」


「今日は静かだな」


「そうでしたか?」


「うん。何か今日のことで気がかりでもあるのか?」


「いえ、そういうことではないのですが・・・」


妙に歯切れが悪い。なんだ?


サチはそのまましばらく何かを考えてから意を決した表情をして空間収納から石鹸を取り出し、風呂の中に投げ入れた。


「おい、サチ、今のって・・・」


石鹸があっという間にお湯に溶け、浸かってた風呂の湯がぬめり気を帯びる。


「よいしょ・・・」


ぬめぬめのお湯を纏ったサチが隣から俺の正面にまたがるように座り、体を預けてくる。いい感触だ。


・・・そうか、アニスヒリテに触発されたか。学友だと言ってたからな。


サチはこれで割と負けず嫌いなところがあるので先を越されたと思ってるのだろう。


しかしこればっかりは時の運だからなぁ。


とはいえ何もしなければプラスにはならない。それはよくない。


それに折角サチがやる気を見せてるんだからちゃんと相手をしなければ失礼だ。うんうん。


しばらくサチの体を堪能してから俺は全力を出す事にした。

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