-魔神-

僕はマナタンク。


日向ぼっこが好きな人工生命体。


マスターは僕の事をタンクちゃんって呼ぶ。


よく僕のぷよぷよな体を見てオスモウサンみたいと言うけどなんだかよくわからない。


でもマスターはそんな僕を全身で抱きしめるのが好きみたい。


僕もそんなマスターが好き。




「タンクちゃんの役割は世界に漂うマナを体に溜めること。そしてそれをみんなの役に立てることよ」


マスターは僕に寄っかかりながら僕に色々な事を教えてくれる。


錬金術や魔法、それに科学。


あらゆる知識が手に入るというマスターにしか読めない言葉で書かれた本を片手に僕に毎日授業をしてくれる。


そして最後に必ず同じことを言う。


「いい?知識や力はひけらかすのではなく、必要に応じて使いなさい」


「はぁい」


マスターはなんでそんな事を言うのか分からなかったけど、きっと何か意味があると思って言うとおりにしようと思った。


だって、僕のマスターだもの。




「それじゃ、頼むわね」


「うん。いってらっしゃい」


ある日、マスターは出かけると言って住処から出かけて行った。


僕はここに残り、いつものようにこの場の維持をする。


最近マスターはよく出かける。


その日に帰って来る日もあるけど、大半はなかなか帰ってこない。


ちょっと寂しいけど、マスターのことだからきっと何か意味があるに違いない。


それにマスターの留守になるとお友達がやってくるようになった。


「チチチッ」


「へー、森の木の実は赤くなると美味しいんだ」


この子は最近この辺にやってくるようになった鳥達のうちの一羽。僕の話友達。


なんでも住んでた森が慌しくなってしまって避難してきたんだって。


マスターは特に誰も入れるなとは言わなかったので軒下を貸すことにした。


あ、できればあまり汚さないでね。汚すなら決まった場所でお願い。その方が掃除が楽だから。




それなりの時間が経ったけどあの日からマスターは一度も帰ってこなかった。


僕の話友達の鳥は世代交代し、気付けばその子孫達皆が友達になっていた。


他にも同じように追われてやってきた動物達が住居のあちこちに住むようになった。


おかげでここはとても賑やかだ。


・・・あとはマスターさえ居ればいいのに。


そんなある日、人がやってきた。


住民である動物に危害を加えようとしたので止めた。


「な、何者なんだお前!?」


その人は酷く怯えた様子で僕を見る。


大したことしてないんだけどなぁ。ちょっと武器を粉々にしただけなのに。


とりあえずその人に落ち着いてもらい、なんとか話せる状態になってもらった。


「ここの動物達を攻撃したのは謝る!だから頼む!ここに居させてくれ!」


やってきた人は僕の庇護下に入りたいと言って来た。どうしよう・・・。


すると動物達は迎え入れてもいいと言う。みんな優しいね。


「皆がいいって言ってるからいいよ」


「本当か!ありがたい!」


こうして一人、新しい住人が増えた。


新しい住人はよく働いてくれた。


今まで僕が掃除していた場所を率先してやってくれ、修繕するべき場所があったら逐一報告してくれる。


目つきが悪くて笑った顔が怖いけど悪い人じゃないみたいだ。




「魔神様。折り入って相談があります」


いつ頃からか新しい住人は僕の事を魔神と呼ぶようになった。


僕の名前はちゃんとあるんだけど、動物達は皆好き好きに僕の事を呼ぶので特に止めずにそのままにしていたらこうなっていた。


「外には自分のような流れ者が他にもいます。そのような者達をここに呼んでも宜しいでしょうか」


「その人困ってるの?」


「はい」


「じゃあいいよ」


「ありがとうございます」


マスターは僕にみんなの役に立てと言った。これもきっとその一つだと思って了承した。


でも、やってきた人は必ずしも全員がちゃんとした人ではなかった。


元々流れ者だったためか一箇所に集まると衝突が起こるようになった。


直接僕や動物達には影響の無い範囲だったけど僕のテリトリー内で争いをするのはよくないと思った。


そこで僕はマスターから教わった技術を使って住居全体を覆うような魔法を展開する事にした。


ちょっとマナの収集量が落ちるけど、この程度なら常時展開してても問題ないかな。


僕の展開した魔法のおかげで争いは無くなり、出て行く人もいたけど皆仲良くなった。うんうん、よかったよかった。




「魔神様。折り入って相談があります」


「また?」


最近このフレーズ多くないかな?


「それでなに?」


「外の大地、特に南部の地は荒れて行っておりいずれ人が住めぬ土地になるのではないかと思われます。そこで魔神様のお力を借りたいのです」


人が住めない土地というのがよくわからなかったけど、困っているみたいなので力を貸すことにした。


とりあえずその土地の土を持ってきてもらって見るとマナが不足しているみたいだ。


じゃあ僕のマナを少し分け与えればいいと思う。


マナを結晶にしたものを荒れた土地で使うようにと渡した。


これでよくなるといいな。




マナの結晶を渡してからしばらくしてからいつも会う人が別の人を連れてきた。


鎧や武器を持ってて物々しい。


でも雰囲気は冷静そう。マスターのような知恵のある人の顔をしている。


その人達はここの待遇について話したいそうだ。


ここに住んでる人が外で悪い事をしたのなら止めないけど、動物達は無関係だから見逃してあげてほしいな。


僕?僕はただここでマスターの帰りを待ってるだけだよ。


ごめんね、外には出ちゃいけないって言われてるんだ。


無理やり連れて行く?


んー・・・君達じゃ無理だと思うよ。ここは僕のテリトリーだもの。すっぽんぽんになりたくないでしょ?


話が通じる人でよかった。


あ、そうだ、今マスターどうしてるか知らないかな?そろそろ帰ってきて欲しいんだけど。


やってきた人は僕にマスターの特徴を聞いてからどうするか改めて伝えに来ると帰って行った。


「魔神様!ありがとうございます!」


僕は特に何もしてないけどね。


でもダメだよ、他人に迷惑かけちゃ。ちゃんと言わなかった僕も悪いけど、皆仲良くしなきゃ。


いつも会う人は何度も謝りながら住人達に強く言い渡すよう約束してくれた。




それから数日。


この前やって来た人と一緒にある人がやってきた。


その人は萎れた草木のようにヨボヨボになってしまってたけど、僕はそれが誰だか直ぐに分かった。


「マスター!」


「ただいま、タンクちゃん」

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