失敗作の再利用

家に帰ってキッチンに立ち準備する。


「今日は何を作るのですか?」


「んー・・・秘密」


「むぅ」


「とりあえずクレープ生地出してくれる?この前失敗気味になった奴も一緒に」


「失敗気味の?あの硬いやつですか?」


「そそ。それも使おうと思う」


サチに空間収納から普通のクレープ生地と硬いクレープ生地を出してもらう。


この硬いクレープ生地は俺の生地の配合が悪くて焼いた時に分厚く硬くなってしまい、曲げると割れてしまう薄いパイ生地みたいなものになってしまったのでクレープ生地としては失敗作だった。


ただ、これはこれで何かに使えそうだと思ってサチに頼んで取っておいて貰っていた。


今回はそれをアクセントとして使おうと思う。


まず、イチゴやバナナなどの果物を薄く平たくなるよう刻む。


次に刻んだ果物をクレープの硬い方に乗せて並べる。


「よし、ここからはスピード勝負だ」


サチにミルクアイスを出して貰い、普通のクレープの生地の上に薄く塗り、その上に果物の乗った硬いクレープを載せ、そこにアイスを塗り、普通のクレープ生地を乗せる。


この工程を繰り返し、何層ものクレープ生地とミルクアイスの層を作り上げ、分厚いホールケーキのようにする。


「後は切れ込みを入れて、完成だ」


奥から手前に包丁を斜めにしながら引くだけで積み上げたクレープが綺麗に分断される。


普通なら少し潰れて中身がはみ出たりするのだが、この包丁はそんな事にはならない。相変わらずとんでもない包丁だ。


切り分けたクレープを一ピースずつ皿に盛りつけ、仕上げにベリーソースを掛けて残りは空間収納に仕舞って貰う。


「さ、とけないうちに食べよう」


「・・・」


サチが目の前に作ったクレープケーキに目を奪われ固まってる。


「サチ?」


「・・・はっ!?そ、ソウ!これはなんですか!?」


「何って見れば分かるだろ、甘いものだ」


「そ、そうでなく!今までこんな芸術的な料理は見た事ありませんよ!」


「芸術的か?まぁ確かに色合いは綺麗だけど」


横から見ると包丁で寸断された層から一緒に切った果物がカラフルに見えて綺麗だ。


皿を目線まで上げてまじまじと観察するサチを引っ張って席に着く。


「こ、こんな凄いもの頂いてもいいのでしょうか・・・」


「大げさな。一緒に作ってるところ見ただろ、そんなに難しくないぞ」


「発想が凄いのですよ!以前クレープを頂いた時もその汎用性の高さに驚きましたが、まさか生地を包むのに使うのではなく重ねるなんて・・・」


「贅沢と言えば贅沢だが、今回は失敗したクレープ生地の再利用が目的みたいなところがあったからな。とりあえずとけるから、召し上がれ」


「はい。で、ではいただきます」


サチが恐る恐るフォークを入れるのを見てから自分の分を口にする。


んー・・・硬いクレープ生地が存在感あるけどアイスの水気を吸ったからかそこまでパリパリしないな。


情報館のクッキーを荒く砕いたものを入れたほうが食感的にはよかったかもしれない。


味の方は色々な果物の味が一気に楽しめるのはいいな。及第点を出して問題ないだろう。


サチは・・・目を閉じて至福の笑みを浮かべてフォークを咥えたまま固まってる。


「・・・美味いか?」


「えぇ、とっても」


「そりゃよかった」


「この料理の名前はあるのですか?」


「んー、ミルフィーユとミルクレープの間みたいな感じになっちゃったからなぁ。普通に創作フルーツアイスケーキでいい気もする」


「また適当な」


「いいんだよ適当で。ちゃんとした名前は同じクオリティで何度も作れるような人に任せる」


「むぅ・・・」


「そうむくれるなって。これだってまだまだ改良点があるし」


「え?まだあるのですか?」


「うん。考えればいくらでも出てくる。今回のは試作一号でしかないよ」


「はー・・・奥が深いのですね」


「料理に限らないが何でも追求し始めると底なし沼だからな。探究心が尽きない限りはずっと楽しんでいられる」


「・・・なるほど、ソウは料理を提供するより研究する方が楽しいのですね」


「どっちかと言えばそうだな。もちろんサチが美味いって喜んでくれるのは嬉しいけど」


そう言うとサチは一瞬動揺を見せたが一回目を閉じて落ち着いてアイスケーキを口にしてから冷静な声で答えた。


「では、今後も私のために美味しい料理をお願いします」


「ははは、了解」


精一杯の抵抗を見せるサチについ笑いが出てしまった。可愛い奴。


そのうちサチの舌も肥えてくるだろう。


そんな時でもサチと楽しく食事が出来るよう頑張ろう。うん。

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