-エルカートの修行-

オレはエルカート。最強を目指す者だ。


・・・正確には目指してたが現在一時休止中だ。


最近ある出来事のおかげで最強とは何か疑問を持つようになってしまった。うぬぅ。


とりあえず日課の素振りをする。


これだけは間違ってない。


あのルミナテースがそう言ってたからな。




さて、最近のオレは見聞を広げる事を主にしている。


働け?馬鹿いうな。これも立派な仕事だ。詳しくは言えないがな。本当だぞ!


まったく、久しぶりに会った友に酷い疑いの目をされてしまった。


まぁアイツは造島師として着々と技術を身につけているみたいだしな。


この前ついに竹を攻略したとかでオレの家で試したいらしい。まず自分の家で試せよ。


とりあえず造島師の話は友から色々聞けた。


日々オレ達が何気なく使ってる島に造島師達の細やかな気配りがされてる事がわかった。


凄いことだが・・・さすがに道幅や植物の配置とかは言われないと凄さがわからないと思う。少なくともオレは気付かなかった。


ただ、オレは知ってしまったからな。今度誰かに教えてやろう。




次にオレは警備隊がよく演習をやる島にやってきた。


なんでも今日は農園の連中が指導に来るらしい。


別にオレは警備隊ではないが、今日はオレのように戦いに興味がある奴も参加していい自由参加講習の日だ。


今までオレは他人から教わる事はしなかったが、自分一人では限界があるのを感じたからな。


「えー、このように接近戦になったり武器が無くなった場合、関節技が一つの攻撃手段となります」


「いだだだだだだだ!!」


立って腕を組んで聞いていたら指名され、前に出て行ったらいつの間にか関節技の実演題材にされたんだが!?


おのれ!いでででで!くそ!全然外せない!そして痛いから念にも集中できん!密着してるからかなんかいい匂いするし!


その後も解かれては掛けられを繰り返しされた。


「はー、はー、はー」


「大丈夫?」


題材から解放され、地面に大の字で寝る俺をルミナテースが覗き込んできた。


「はー、はー、大丈夫じゃない」


「ゴメンねー。キミ目立つから警備隊時代の癖でつい選びたくなっちゃったんだと思う。許してネッ」


そんな可愛い素振りを見せても俺は許さんぞ。


農園のトップをやってるならちゃんとその辺りも指導しろ。あー体のあちこちが痛い。


「ルミナテース様ー。ちょっとこっちに来てください。新型の関節技見せるので」


「なぁに?え?ちょっと!?イタタタタタタ!!リミちゃん痛い!あれ!?これ外せないわよ!?」


「新型ですので」


「なにこれ!?的確に痛いところだけ決めてるでしょ!参った!参ったから!」


「ダメでーす。練習にならないのでもうちょっと抵抗してくださーい」


「そんなぁ!?」


あのルミナテースが部下に関節技を決められている。珍しい光景だしいい気味だ。オレと同じ痛みを受けるがいい。


ただ、アレ全然本気出してないな。余裕を持って痛がってる。


あれが強者の余裕というやつか。


オレも見習・・・いや、見習わなくていいか、男がやったら何か変態っぽく見える。それに痛いの嫌だしな。




今日回る場所はここで最後だ。


「止まれ。何の用だ」


湧酒場の入口で警備の二人が入場を阻む。


「この中に居る人に用がある。通してくれ」


「・・・しばし待て」


二人のうち一人が中に入って確認し、もう一人が湧酒場の注意事項を説明する。


一見融通の利かないように見えるが、悪くない。オレはこの二人を見てそう思う。


なんだかんだで緩い雰囲気のところが多い分、ここの仕事の徹底ぶりは好感が持てる。


服装も色は違うものの同じようなデザインだし、視線だけで相手の言ってる事を理解してるし、良き相棒という雰囲気がいい。・・・デキてるとかそういうんじゃないよな?


「中のお二人から許可が出ました。どうぞお入り下さい」


「お気をつけて」


・・・お気をつけて?


中は酒気で満ちてるぐらいだろ?それぐらい念でどうにかできるのに何に気をつけろと言うんだ?わからん。


オレは二人が心配そうな顔をする理由がよくわからず中に足を踏み入れた。


何度か湧酒場には来てるが相変わらず凄い酒気だ。


だがオレには効かない。割と酒には強い体質らしい。酒自体はあまり嗜まないからよくわからんが。


中を歩いていると目的の人物を見つけた。


何か作業をしているようだが・・・何やってんだ?


「ん?なんだ?青年。興味があるのか?」


「あぁ、まぁ」


作業をしていた女性の片方がオレに気付いて作業を止めて話しかけてくるが曖昧な返事しか出来なかった。


その動きにオレは聞いた話が確信に変わった。


この人、できる。


「貴女が助っ人をやってるヨシカか」


「あぁ、そうだよ。なんだい?手伝いの依頼か?ヒカネ、依頼だってよ!」


額に角を生やした紅の美女、ヨシカが振り向き奥に居たもう一人を呼ぶ。


「あら、お客さんですか?」


手を拭きながらもう一人の蒼の美女、ヒカネがこちらに来る。


こちらも動きに隙が無い。


ヨシカは攻撃を仕掛けても通る気がせず、ヒカネには当たる気がしない。


なるほど、ルミナテースに次ぐ強者という噂は本当だったようだ。


しかしあれだな、二人とも長身だから揃うと圧倒される。色々と。


「オレはエルカート。依頼とは少し違うんだが、二人の仕事を見せてほしい」


「仕事?仕事かぁ・・・仕事はちょっとやってねぇなぁ」


「やってない?だがさっき依頼とか言ってなかったか?」


「あぁ、確かに手伝いの依頼は受けてる。だが引き受けるか受けないかはこっちが手伝う意義があるか考えてから決める。どんなに偉い奴からでもそれは同じだ」


「・・・仕事とどう違うんだ?」


「ここでの仕事は基本誰かのためにするものだと私達は認識してます。しかし私達が受ける依頼はあくまで私達のために行うものですので他の方と受領基準が違うので仕事とは思っていません。結果的に他の方の助けになっている場合もあることは否定しませんが」


「へー。・・・よくわからん」


「ハッハッハ!断る事もあるってことだけ覚えておけばいいさ」


「わかった。しかし、そうか、仕事じゃないのか。ならアテが外れたな・・・帰るか」


「まぁ待てよ青年。折角来たんだ、味見の一つでもして損はないぞ?」


「味見?何か作ってるのか?」


「うむ。蒸留酒って知ってるか?」


「いや?そこから出てる酒とは違うのか?」


「違う違う。フフフ、今ここで味見すればこの世界の民で蒸留酒を口にした第一号かもしれないぞ?」


「ぬ・・・そういうことなら頂こう」


上手く乗せられた気もするが珍しい物であることは変わりないだろう。何事も経験しておくに越した事はない。


ヒカネが奥から摘めるような小さな器に液体を入れて持ってくる。


「どうぞ」


「どうも・・・随分少ないな」


「それぐらいなら一気にいけるだろう?」


ふむ、一気に行くのがいいのか。どれ・・・。


「・・・!?かはッ!な、なんだ、これ!?えほっえほっ!」


飲み込んだ瞬間焼け付くような熱が喉を襲う。


「水です」


ヒカネが予測してたかのようにすかさず水をくれたので一気に流し込む。


「・・・はー、はー、なんだこれ、酒の塊で殴られたような感覚なんだが」


「ハッハッハ、面白い表現だな!確かに蒸留酒は酒気が強い。そこから湧き出てるものよりな」


「なに?それは本当か?」


「本当だとも。それで、どうだ?蒸留酒は」


「どうって言われてもな・・・。とりあえず今は腹の中が滅茶苦茶暖かくなってて何となく気分がいい」


「ほうほう。で、味はどうだ?」


「味か・・・。ただただ酒気だけ楽しみたい奴ならこれでいいかもしれんが、一般受けはしないだろう。キツすぎる」


「そうか、その辺り全く考えてなかったな!ハッハッハ!」


「ありがとうございます。今後の参考にします」


「あぁ、完成するといいな」


そう言って器を返し、用が無くなったので出口の方へ向くとヨシカが声を掛けてきたので動きを止める。


「青年、エルカートと言ったか。何も聞かずに帰るのか?」


「っ!?」


ヨシカに見抜かれてて一瞬驚いたが表には出さず答える。


「今日は帰る。酒の効果がまだ残ってるしな」


「・・・そうか。気をつけて帰れよ」


二人に別れを告げ、改めて出口の方へ歩き出す。


「エルカート」


「ん?」


「今度手伝いの依頼が来たときにお前に声を掛ける。気が向いたら見に来てくれ」


「・・・わかった。そうさせてもらう」


湧酒場から出て島から飛び立つ。


・・・正直なところ、聞くに聞けなかった。


あの二人が別の世界からやってきた移民というのは知っていた。


しかしその二人が楽しそうに酒造りをしているのを見て尻込みしてしまった。


前のオレだったら思うがまま聞きたいことを聞けてたのかもしれないが、アイツと関わったことで変に気を使うことを覚えてしまった。


ヨシカもそれに気付いたみたいだし、逆に気を使われてしまった。不覚。


ただ、当初の目的である手伝いを見る事はできそうだ。


移民である二人がどのような依頼を受け、こなしていくのか少し楽しみだ。




帰宅して今日の見学をまとめる。


はっきり言ってこういう事務作業は苦手だ。剣を振ってる方がいい。


だがこれが今のオレの仕事だ。


上司は主神補佐官。あの恐ろしい女の直下に属している。


仕事の内容は定期的に見学や体験したことをまとめて報告すること。


仕事としてはそこまで難しくない内容だが、報告を怠ればあの女の事だ、何をしてくるかわからない。ある種の監視状態だ。


だが、この主神補佐官直下という名目のおかげで色々と円滑に事が進んでいるというのも事実だ。


あの鬼の二人の情報を事前に知れたのもそのおかげだ。


とりあえずあの女が怖いので報告は欠かさず、折角の機会なのでアイツがいう見聞とやらを広めてみようと思っている。


移民はそれからでも遅くは無い。


少なくともアイツに勝ったと思うまで移民申請はするつもりは無い。


ただ相手は神だからな・・・。いつ勝ったと思えるようになるかはわからない。


次挑む時はもう少し準備をしてから挑もうと思う。


フフ、今に見てろよ!いつかきっと最強の名を手にしてみせるからな!

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