自動発動の念
下界の淫魔種の集落での動きが活発になってきている。
まず、エネルギー摂取で動けるようになった人達に冒険者が戦い方を指導し始めた。
そしてある程度戦力になったら南にある禍々しい森に入り狩りや採取を行う。
森からの採取量が増えれば薬の生産量も増えるので森に入れる人を増やすと言うのは良い作戦だと思う。
この禍々しい森の特徴は見た目に反して殺傷能力の高い生物が少ない事。
ただし、代わりに幻惑や精神汚染といった非物理攻撃をしてくる生物が多く棲んでいるので普通の森に入る以上に対策が必要とされる。
集落の人達はこの森に入り被害に遭った人を森に喰われると表現する。
どういうことか詳しく調べると森に喰われた人は大きく体内のマナが減少し、マナ欠乏症になるようだ。
具体的にどのようにして喰われるかを知りたかったのだが、実際観察しようとすると視野が望遠になったので何となく察した。
サチの説明によれば幻惑や精神汚染で理性が失われ正気が保て無くなり、欲に忠実になったところを襲われ一部の体液と共にマナを吸われるらしい。
ある程度吸い取られると森の入り口付近まで運ばれ投棄される。変わった森だ。
淫魔種にとって天敵のような森なのだが、どうしてその近くに集落を構えているのかと言えば森から得られる素材が彼女らにとって魅力的だからだ。
基本的に異性受けが良い淫魔種でも魅了が不得意な人や逆に選り好みが激しい人はエネルギー摂取を上手く行えない場合がある。
そんな人達にとって森から得られた素材で作られた薬はある意味生命線のようなものだ。
薬を効率的に入手しようと考えれば自然と森の近くに寝泊りするようになり、結果集落として成り立ったのだろう。草原の北のダンジョン付近の野営地と同じだな。
ただ、問題だったのが森での活動方法があまり効率的ではなかったということ。
この辺りの問題が今回冒険者が訪れたことで大幅に改善されたのはこの集落にとって大きな利点だろう。
森の村や湖上の街もそうだが、外部との交流が少ないと集落の発展が一定で止まってしまいやすいようだ。
そういう意味ではやはり外交というのは大事なんだな。
各地に点在する集落にも満たない人の集まりでも平穏に維持できているところは多少なりとも外部との友好的な交流がある傾向だ。
今回淫魔種の集落は外部からの人を受け入れた事で集落の延命が出来たと思う。いいことだ。
気になるのは魔神信仰者達だな。
あの感じを見ると新たに信仰者として参加しない限りは外部からの接触を受け付けないように見える。
そんなので大丈夫なのだろうか?
その辺りの動向も含めて注視したほうがよさそうだ。
仕事が終わった後迎えが来るまでの間にちょっと念の構築を考える。
先ほどまで見ていた下界の冒険者達が禍々しい森で活動する時にしていた対策がちょっと気になったからだ。
彼らは森に入る前に特定の攻撃に対して抵抗力を上げてから森に入っていた。
その方法は幾つかあり、森の生物が嫌う道具を身に着ける、逆に好む物をわかりやすい場所に身に付け対応しやすくする、そして魔法による自動防御。
俺が気になったのはこの自動防御というもの。
条件型と言われる下界では比較的ポピュラーな魔法形態で時間差や罠のように発動する魔法がこれに当たる。
この条件型の魔法を一時的に体の表面に展開することでマナを吸い取ろうとする行動に対抗するいわば予防魔法だ。
発動する魔法は一回限りで弱いものだが、この手の吸収系をする生物は吸収行為の際無防備になりやすいので非常に効果的な対処方法だと思う。
とはいえ自動で発動しても本人自体が気絶してしまってたりすると再び襲われてしまうので完璧とはいえない。
無いよりマシ程度の魔法ではあるが、案外こういうものがここぞと言う時に命運を分けたりするので侮ってはいけないと俺は思っている。
さて、俺が今構築している念はこの自動発動と言う点を上手く利用したものだ。
神力が増えたことでいつか寝ているときに念を暴発させてしまうのではないかと思っていてどうにか出来ないか考えていた。
その一つの予防策としてこの自動発動で寝ている時に念を発動させないように出来ないか現在条件付け中。
「うーん・・・」
「どうしたのですか?」
片付けが終わったサチが膝の上に座ってくるので今やっている事を説明する。
「睡眠中の暴発ですか。また変わった事を考えましたね」
「変かな?」
「基本的には念を扱う時点で複雑な工程を踏むので暴発を招く事はまずありえません。あるとするならば子供のうちか意識があるにも関わらず高度な催眠などで操作された時でしょうか」
「無い事は無いんだな」
「相当稀なケースですがゼロでは無いです。一応睡眠中はパネルによって暴発しないよう制限がかけられるのでまず無いといっていいでしょう」
「俺はそのパネルが使えないんだが」
「・・・そうでした。ですがソウの場合、ここで予め使用できる神力に上限を設定しておけば問題ないかと思います」
「あー・・・。一応それは考えた。だが何かあったときに咄嗟に対応できなくなる事を考えるとあまり頼りたくない」
「そうですか。わかりました、ならばその構築の手伝いをさせてください」
「頼む。サチが相談に乗ってくれるなら上手くできそうだ」
サチを膝に乗せたまま目を瞑り、条件や可不可の結果などを口に出して相談しながら構築していく。
「ところでソウ」
「ん?」
「私の胸に手を当てる必要はあるのですか?」
「ある!その方が進みがいい!」
「えぇ・・・」
実際そうなんだからしょうがない。そう、しょうがないんだ。
サチの献身的な協力のおかげで多少問題は残っているが何とか仮構築できたのでそれを自分に落とし込み、無意識下で発動できるようにしておいた。
とりあえずこれで一安心かな。
残ってる問題点は追々直していこう。そもそも頻繁に発動するようなものでもないし、時間をかけてサチと相談しながら改良していけばいいだろう。
よし、後は案内鳥がやってくるのを待つだけだな。
会合前にちょっと負担のある事してしまったが、ま、大丈夫だろう。
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