効果と副作用

「くらえ!泡アタック!」


「わっぷっ!やったな!」


プールに降りた子供達、特に男子はお湯や泡を掛け合っている。


「こうやって膜を作って息で風を送るの。するとほら」


「わ!すごいすごい!」


一方女子は先生の近くでシャボン玉を作ったり、泡で冠を作ったりしている。


「ソウ様!次俺!」


「あいよ。いくぞー」


一方俺は壁を背にしてその前にやってくる子供達の腰を思いっきり押している。


押された子供は景気良く滑っていく。


綺麗に座った姿勢のまま勢いがなくなるまで維持する子もいれば、途中で回転したり姿勢が崩れて寝そべった状態で滑っていく子もいてやる側としても楽しい。


だからと言って気を抜いてはいけない。


「すまん、ちょっと待ってくれ」


待ってる子供達に一声掛けて背中の壁を蹴って一気にプール内を進む。


「よっと」


そして今にも転びそうな子供の下に滑り込み受け止める。


「え?ん?あれ?」


「大丈夫か?」


「あ、うん・・・」


「立ち上がろうとすると滑って転ぶから移動するなら面倒でも座って移動するのがオススメだ。困ったら端に行くか手挙げて先生を呼びなさい」


「うん・・・」


「お前達も気をつけろよ。もし立つ挑戦がしたいならあっちのロープのあるところでやるんだぞ」


「はーい」


ふぅ。間に合ってよかった。


怪我し難い素材とはいえ当たり所が悪ければ怪我する事もあるからな。気をつけないと。


周囲に気を配りながら先ほど待って貰ってた子達のいる場所に戻ると皆壁に足を向けていた。


「あ、ソウ様ー、さっきの奴教えてよ」


「ん?さっきの?」


「びゅーんって滑るやつ!」


「あぁ、あれか。いいぞ」


どうやら子供達の興味は押してもらって滑ることから自分で滑ることに移ったようだ。


コツはなるべく壁に垂直に足を立てることだ。そうじゃないと蹴った時に滑って力がちゃんと伝わらないぞ。


一斉にやると危ないから俺の前に来て順番にやるんだ。


皆聞き分けがよくてありがたい。


この壁蹴りの滑り方を知っておけば泳ぐ時の蹴伸びの練習にもなるから是非この感覚を覚えておいてもらいたいところだ。




泡プールの時間もそれなりに過ぎ、子供の熱気や泡の出る量が大分落ち着いてきたのを見てミラが締めの指示を出した。


指示を受けた教師は念でプールに冷たい雨を降らせる。


それまで温水と興奮で火照っていた体に雨が降り注ぐと子供達から気持ち良さそうな声が漏れて聞こえる。


水位が上がり、滑りにくくなったところでミラが子供達に今日の授業の終了を伝え、各々プールサイドに上がる。


「浄化の念を受けながらでいいので今日の感想を聞きたいと思います。皆さんどうでしたか?」


先生から浄化の念を受け、泡の効果で全身ツヤッツヤになった子供達が手を挙げて感想を言う。


楽しかった、面白かった、目に泡が入った、体が熱くなった、つかれた、色々な感想が出る。


「なるほどなるほど、皆さん今日は良い経験をしたと思います。今日の経験はいつか役に立つ時が来るでしょう。しっかりと記憶の箱に閉まってくださいね」


「はーい」


ミラの締めの言葉で今日の授業は終わりとなり、一緒に入っていた先生と共に教室の方へ移動していく。


ちなみにこの後子供達には牛乳と俺が作ったクッキーが振舞われる予定になっている。口に合えば嬉しい。


「さて、それでは私達も入らせていただきましょうか」


子供達の姿が見えなくなったところで残った大人達がプール内の水温を上げ、石鹸を投げ込んで再び泡プールを作り上げる。


「やっと入れます!」


興奮気味に教師達が次々に入っていく。


さっきまでプールの外で見張りしていて中に入ってなかったので気になっていたのだろう。


「滑るから気をつけろよー」


既に中でひっくり返って足が見えてる人がいるが流石に大人なので助けはしない。


しかし子供達並に興奮してるな。バシャバシャ水飛沫が飛ぶ音が聞こえる。


うーん、やっぱり副作用出てるっぽいなぁ。


今回作った石鹸はエンチャント効果で美肌、保湿に加え、髪の毛にも良い効果が出るようになり、特に黒以外の色の髪でもツヤが出るようになった。


代わりに副作用としてお湯が付くと泡を出し続ける以外に血流促進による若干の興奮効果が加わってしまった。


サチの説明によるとエンチャントはどうしても付加効果の反動として副作用が出てしまうらしい。


「本来もっと悪い副作用が付くのですよ?」


と、この程度の副作用で済ませられた事を褒めろと暗に言ってきたので頭を撫でておいた。


そんなサチは引き続きプールの上を飛んで見張りをしている。


たまに水球を作ってのぼせ気味になった人の頭に水を浴びせている。


一見ちゃんと仕事しているように見えるがあれはあれで楽しんでいるな。顔にこそ出てないがウキウキして次の獲物を探して飛んでいるのがわかる。


俺はというとプールサイドに座って皆の様子をのんびり観察中。


プールにはさっき子供達と一緒に入ったので今は中の大人たちと交代して何かあった時にサチに知らせる係をやっている。


「うっふっふ、これで私もスベスベなお肌に・・・」


泡の中からミラの怪しげな笑い声が聞こえる。


外見なんてどうにでもなる世界だからそこまで美容に関心が集まると思ってなかったんだがそうでもないようだ。


うーん、この辺りの価値観は未だに理解できてないなぁ。


俺が男という点に加えて異世界人というのもあって恐らく理解できるまで相当時間がかかるのではないかと思っている。もしかすると永遠に理解できないかもしれない。


とりあえず皆ある程度は美容に関心があることと、この石鹸が喜ばれてることはわかったので収穫としよう。


出来れば石鹸を観光島の提供品に加えられればいいと思ってるんだが、この石鹸では使える場所が限られるんだよなぁ。


他にもエンチャントした石鹸はあるが、肌に合わなかったり局所的にしか効果出なかったり副作用が強く出すぎたりである意味今使ってるのが美肌、保湿の観点で一番マシな石鹸だったりする。


一応もう一種だけ成功したのがあるっちゃあるんだが、副作用が一般的に向かないんだよなぁ。


「ソウ、そろそろ終了の時間です」


「了解。おーい、そろそろ終わりにするぞー」


プール内に呼びかけると顔を上気させた大人達が泡だらけのまま上がってくる。


プールサイドに降り立ったはいいがなかなか泡を落とそうとしないので見かねたサチが指先から放水して流してやってる。いい子だ。


「ありがとうございます。なかなか念に集中できなくて・・・」


水を浴びてやっと頭が冷えてきたのか各自反省しながら浄化の念を掛け始めた。


念に頼りすぎていると今のような体の状態だと難しくなるのを知れたいい機会だったかもしれない。


何も知らない状態で子供達と一緒に今のような状態に陥ったら冷静な判断が出来なくなってしまってたかもしれないし。


「ソウ様、本日はありがとうございました」


肌がツヤツヤになってご機嫌なミラが深々とお辞儀してきた。


「あぁ、俺も楽しかったよ」


「子供達にも良い経験をさせてあげられました。それでその、一つお聞きしたい事があるのですが」


「ん?なんだ?」


「本日使った石鹸は何処で手に入りますか?」


ミラが質問をしたと同時に女性陣が自分も知りたいと言った視線が一気にこっちに集中してきた。


「今はまだ未配布だ。そのうち手に入るようにするから待っていてくれ」


「わかりました。はぁ、良かった、そのうち手に入るのであれば安心できます」


「ははは、気に入って貰えたようでよかったよ」


こりゃ配布する時は一人当たりの個数制限や用法容量を記した注意書きを添えたほうがよさそうだ。


そんな事をそれぞれの肌を触り合って盛り上がってる女性陣達を見て思った。




「では入れます」


「うん」


帰宅後家の風呂でサチが石鹸を湯船に入れる。


湯船に入れた石鹸は泡が出続ける石鹸と同じようにどんどん溶け、あっという間に形が無くなる。


ただし泡は出ず代わりに水の質が変わり、波に重みが出る。


「・・・ソウ、お先にどうぞ」


「怖気付いたか?」


「ち、違います。ただ、その、ソウは効果が出ないので何が起きても大丈夫なように先に感想だけ聞いておきたいなと・・・」


この先どうなるか何となく予想が付いてるサチが言い訳のように言う。


「しょうがないな。どれ・・・」


お湯に足を沈めるといつもと違うお湯の感触に包まれる。


そして底や波で濡れた岩がめちゃくちゃ滑る。何かに掴まってないと転びそうだ。


ゆっくりと体を沈めると普段のお湯よりも柔らかく包まれるような感覚に襲われる。


「どうですか?」


「正直新感覚。そして粘り気がすごい。見てよこれ」


お湯の中から腕を上げるとまるで水飴のような粘り気を帯びたお湯が糸を引いて落ちる。


「うわぁ・・・」


それを見てサチが若干引く。引くなよ、お前が作った物だろう。


今入れた石鹸は美肌、保湿効果が出るエンチャント石鹸の中で泡が出続けるやつの他に唯一大丈夫そうと判断できた石鹸だ。


副作用はこの通り水の粘性が高くなる。


最初見たとき下界のオアシスの街で使われてるアレが頭に浮かんだのは内緒だ。と言ってもサチも同じ物を想像したようだが。


失敗作として廃棄しても良かったが、他のエンチャント失敗作と比べると身体への悪影響は少なく、実用性が無いわけではないと思って今回実験も兼ねて使ってみた感じだ。


「他には何か気付いた事はありますか?」


「んー・・・もうちょっとお湯の温度下げた方がいいな。体にまとわり付くからなのかかなり温かい」


「了解。ちょっと氷を入れます」


念で氷の塊をドボンと入れると徐々に水温が下がり体温に近くなる。


「うん。いい感じ。これならサチが入っても大丈夫そうだ」


「う・・・」


「おいおい、これを残そうって言ったのはサチだろう?今更試さないなんて言わないよな?」


「わ、わかりましたよ!入ればいいのでしょう!」


半ばヤケになってバスタオルを勢い良く剥いで俺の隣に滑り込んでくる。


「あー・・・」


「どうよ?」


「これは良くないですね・・・とても良くないです」


そう言ってサチは俺からススッと離れようとする。


ふむ、そういう感じか。逃がさん。


「ちょっと、ソウ?今はちょっと触れ合うのは良くないと、ひぅっ!?」


逃げるサチの腕を掴むといつも以上の過剰な反応が返ってくる。


なるほど、これがもう一つの副作用か。


この石鹸には二つの副作用が付いた。


一つは液体の粘度上昇。そしてもう一つが感度上昇。


俺は神の体になったせいかこの手の副作用をほぼ受け付けないようで、プールの時も特に興奮せず今回も特に何も変化は無かった。


「ずるいです!どうして私だけっ!」


「いや、だって残そうって言ったのサチだろう」


「そうですけどっ、こ、これ程とはっ!」


腕をスベスベするといい反応が返ってくる。楽しい。


しかしなんというか赤面しながら耐えるサチの表情は何とも言い難いそそられる感がある。


「・・・サチ」


「えっと、ソウ、ちょっと待ってください?待ちましょ?ね?もしかすると慣れて来るかもしれませんから」


「じゃあ十秒だけ待ってあげよう」


「十秒!?くっ!あぅっ!」


慌てて逃げようとするが急ぐと逆に滑るのがこの液体だ。


あっという間に十秒が過ぎ、腰に手を回してこちらに抱え込む。


「観念するんだな」


「う・・・。お、お手柔らかにお願いします」


観念したようなので徹底的にスベスベしてあげた。


色々楽しんだ後ぐったりしたサチだったが、この石鹸を処分するとは言わなかった。


「いつかソウにも効く石鹸にしましょう」


そう言って改良を決意していた。


その間実験する度にスベスベするけどいいのか?・・・いいのか。気に入ったのね。


でも一般提供は止めようか。相談とかあったときだけにしよう。病み付きになられても困るからな。

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